第四章12 死線の先にある失敗と成功の境界線
十二階層の攻略を終え、十三階層の様子を確認した後、俺達はダンジョン入り口に転移して帰ってきた。
沢山の学生たちが周りに集まり、話を聞きたそうだったが……
流石に皆そのような、無作法はしない。
俺たちは、ダンジョン管理局へ行き、十二階層の攻略、フロアボス、ミスリル装備のドロップ、マップデーターを報告した。
俺は十三階層のあまりの衝撃に、頭がまだ整理がつかず、十三階層の事は管理局には報告出来なかった。
その日は家に帰って、四人でミーティングだ。
『なぁ…… どう思う?』 俺が口火を開く。
『どう思うと言われても…… あれと戦うなんて四人じゃ無理でしょ?』 とララが言う。
『だけど、ディケムはエルフ族を攻略したじゃないか?』 とディックが言う
「あれは、ほとんど交渉だったからな…… 十分情報を集め下準備を整えて、精霊フル活用なら、何とかなるかもしれないが……」
俺は少し考えて、話を続ける。
「ただ―― 今回は我々が仕掛けられた戦争ではない、俺たちが侵略者で、相手が被害者だ。 お前たちは国滅ぼせるか? お前らそんなメンタル有るか?」
俺は問う。
『………………』みな黙り込み…… ララが少し考えた後口を開く。
「私は嫌だ! 攻め込まれた戦争ならしょうがないけど……、あそこは私たちが来なければ、平和に生活している国だったよ! 多分……」
「だよな~ あの平和そうな田園風景は、国が荒れてる感じはしなかったよな……」
俺もララの意見に同意し、話を続ける。
「正直、俺たちは、無理してこの先に進む必要は無い。 だから…… 戦争になるようなら、もうダンジョン攻略は止めないか?」
『うん!』 ララも強く賛同してくれる。
「ただ、明日もう一度行ってみて、街を見てみよう。 案外、友好的に進み、普通に次の階に行けるかもしれない」
『でももし、フロアボスが、あの国の王だったら?』 とギーズが聞いてくる。
「攻略はここまでとしよう!」
俺が言うと、ララとギーズが賛同してくれて――
『お前がリーダーだ、お前の決定に従うよ!』とディックも同意してくれた。
翌日もいつもの様に校内放送で、俺たちのダンジョン十二階層到達記録更新とミスリル武器の獲得を報じた。
毎日更新されるダンジョンの階層記録は、学生たちを興奮状態に変えた………
『今まで八階を突破できなかったのは、出来ないと思っていた、自分の思い込みがダメだったのだ!』と持論立てる。
これは少しまずいかもしれないな…… 十~十二階層は普通に死者が出る難易度だ。
もしフロアボスが、俺達が倒した一回限りのギミックならば、大丈夫かもしれないが……
初めて訪れたパーティーには必ず発動するギミックだった場合、厳しい戦いになる。
ただ……、階層到達記録を更新している自分たちが、注意を促しても意味がないかもしれない。
ここは、学校側の対応に期待するしかないだろう。
ダンジョンは基本、自己責任の世界なのだから。
昼にはまた食堂で、カミュゼ、ギュヴェン、シャントレーヴ殿下、そして昨日に引き続きコルヴァスも来た。
『王族のシャントレーヴ殿下も食堂で昼食を取るのですね?』と聞いてみたら、『情報収集は冒険家の必須要件だ!』と言っていた。
王族が冒険家って……… 変わった王族だ。
そんな笑い話をしていたら、思いつめたようにコルヴァスが聞いてくる。
「ではディケム様は、噂通りこの学内と同じく、力を封印してのダンジョン攻略をしているのですか?」
「そうです。 この度の交流留学は、このディックとギーズの力覚醒の為ですから。 俺達の目的はダンジョン攻略では無いのです。 ですから俺はあくまで補佐に回っています。 ダンジョン攻略も、この三人で突破できるように、計画を立てて行っていますよ。 でも、そのおかげで三人は飛躍的に強くなっていますよ。 この戦士学校のシステムは素晴らしいと思います!」
これは本当の事を言っただけなのだが…… 少し裏目に出たかもしれない。
コルヴスは『ならば俺たちにも行ける可能性が十分ある!』と思い詰めている顔をしている。
カミュゼとギュヴェンは、明らかに実力不足で六階層から進めない。
だから、懸念は無いのだが………
コルヴァスは百年に一度の天才、普通に強いので、九階層突破できる実力があると思う。
それだけに心配だ、十階層以降は、コルヴァスチームの実力では突破できないだろう。
コルヴァスチームの編成も難しい要因の一つだ、剣士に偏り過ぎている。
回復、状態異常回復要員が一人だけしかいない、せめて補助的にもう一人くらい白魔法が使える人がいれば……
だが―― この一生懸命に強くなろうとする学生に、やめたほうが良いとは、なかなか言えるものでは無い。
ギーズでさえ、あのような無謀な賭けに出た、だがギーズはそのチャンスを掴んだ!
俺は悩む、その死線の先には大きな見返りはある。
だが………。
「コルヴァス先輩、これは極秘なのですが……」
俺のつぶやきにコルヴァス、カミュゼ、ギュヴェン、シャントレーヴ殿下が息をのみ耳を傾ける。
「十階層以降には、各階層にフロアボスが存在します。 もし、初めて来るパーティーには必ずポップするギミックだったとしたら、逃げる事をお勧めします! 申し訳ないが、今の先輩のパーティー編成では難しいと思います」
コルヴァスが目を見開き、俺を見る。
「残念ながらミスリル装備は、フロアボス討伐ドロップです」
コルヴァスは真剣な顔で俺に問う!
「それは命令ですか? ソーテルヌ侯爵として私に命令するのでしたら従います。 ですが…… 友人としての忠告でしたら、おれは自分の信条に従います」
俺は、コルヴァスの目を見て考える………
「俺は……、コルヴァス先輩の上司ではない。 命令する権利は俺には無いですが―― 俺は貴方を死なせたくない!」
コルヴス先輩は少し考えたあと、立ち上がり、俺に深々と頭を下げてこの場を離れた。
ララ達も悲しい顔をしている。
『難しいものだな…… 俺たちの成果で士気は上がったが、みな判断力を狂わせてしまっている』おれは呟く。
シャントレーヴ殿下が言う。
「ソーテルヌ卿、それは自己責任の領域だ。 そなたが気に病む問題ではない。 コルヴァスにはあれほど其方が忠告してやったのだ、あとはあの者の問題だ!」
おれは頷いて、この話題はここで止めにした。
授業が終わった後、俺たちはダンジョンに向かう前に、ドーサック先生に頼み、校長先生と、迷宮管理局長を集めてもらう事にした。
「校長先生、局長、先生、お時間を頂きありがとうございます」
三人が頷く。
俺はダンジョンの十三階層に地底都市がある事を報告した。
三人とも驚愕の表情で俺を見る。
「もちろん私達は戦争を仕掛ける気はありません、そこまでしてダンジョン攻略を進める意味は私たちには無いですから」
三人がホッとしている……
⦅ん? 俺ならやりかねないとか思ってないか?⦆
「ですが、放置もできないので、本日より調査に向かいたいと思います。 明日から学校は週末休日ですので、可能ならば三日ほどダンジョンに潜り続けます。 もちろん、十三階層の国が好戦的だった場合は、すぐに出てきてダンジョン攻略もやめます。 この案件はマール宰相に進言して王の判断を仰いだ方が良いと思います。 学校側からも、生徒に公表して、攻略は十二階層までとしたほうが良いでしょう」
俺の話を聞いて、難しい顔をして三人が少し退出して話し合う事になった。
これ…… よく考えたら、相手国が好戦的だった場合、結局攻略命令が出るのは王都守護者の俺の所じゃないのか?
王都の真下にある国の事だけに……
数分後三人は戻り、改めて俺たちパーティーに地底都市の探索調査依頼をしてきた。
こうして、俺達は十三階層の地底都市調査にあらためて赴く。




