第四章11 ギーズと風の精霊シルフィード
ボスフロアに入ると、いつもと同じ部屋の端のトーチに次々灯がともる。
そして部屋の中央に魔法陣が浮かび上がる。
青く輝く魔法陣から、ゆっくりと魔物の姿が現れる。
青黒く光る巨大な三つの頭を持つ犬、冥界の番犬と謳われるケルベロスだ!
『ケルベロスだ――!』俺は叫び皆に注意を促す!
「範囲攻撃の【地獄の業火】に気を付けろ! ギーズは【地獄の業火】のラーニング!」
俺はそう言い、ギーズ以外にウンディーネの加護とフェンリルの加護を付与する。
「ディックは、スリープの魔法とブリザードで攻撃! ケルベロスは、完全に眠らないが、スリープに弱い、動きが鈍くな―――」
そう叫んだ瞬間――!
ドゴッォォォォォォォォ――――!
フロアすべてが青い炎、【地獄の業火】で包まれた!
『しまっ――!』俺は叫ぶより早くギーズに駆け寄り、倒れこんだギーズを拾い上げ、ヒールを施す。
あ、危なかった! 少し遅れていたら、ギーズが消し炭になっていた。
『大丈夫か! ギーズ!』俺はギーズの頬を叩き意識を戻させる。
「か、かろうじて大丈夫だ…… だけどラーニング出来なかった……」
このラーニングは危険だ、回復の前に消し炭になるかもしれない。
ラーニングを考えなければ、ウンディーネとフェンリルの加護が有る俺たちには、ケルベロスはそれほど脅威ではない。
「ギーズ! このラーニングは危険すぎる、止めた方が良い! ケルベロスの地獄の業火は一〇〇〇度以上に達している、少し遅れれば、回復どころか消し炭になってしまう!」
ギーズは、少し悩んで、すぐ決断する。
「もう一度だけ、試させてほしい! 今、死にかけた時に何か見えた気がしたんだ!」
『でも……』ララが心配そうに言う。
「ララ! 今まで僕は一番役立たずでずっと悩んでたんだ! でもやっと、このダンジョンで少しだけ役に立てている気がするんだ! ここで諦めたらまた元に戻ってしまうようで、怖いんだよ」
『…………』 ヤバイ、なんか変なフラグ立ててる気がする――!
おれはギーズを止めようと手を出した。
だがギーズはその手をすり抜け飛び出した!
その瞬間――
ゴォォォォォォォォォォォ―――!!!!
一瞬でフロアが青い炎に包まれた!
「ギーーーズ―――――――!!!」
俺は叫んだが、ギーズが青い炎にまかれている。
おれはすぐに、ミスリルの盾に水防御壁を作り、青い炎に飛び込む!
しかし――
突然! ギーズを中心に竜巻が巻き起こり、フロア全体の青い炎が吹き飛ぶ!
『こ、これはっ――!』 俺は叫ぶ!
俺からギーズに膨大なマナが流れ込むマナラインが見える。
そして、ギーズの横に浮くシルフィードの姿が見える!
⦅やったのか! ギーズ!⦆
ギーズがケルベロスに指を向けると、ケルベロスが竜巻に巻き込まれる。
そこに ギーズはさらに追加でブリザードブレスを放つ!
『ディック、ブリザードを追加だ―――!』 俺はディックに叫ぶ!
竜巻の暴風の壁から出られないケルベロスは、竜巻内に発生したカマイタチに切り刻まれながら、ダブルのブリザード攻撃に、凍りつき徐々に動かなくなっていく!
そこに、ギーズが【地獄の業火】を放つ――!
『ッ―――っな!』 俺たちは驚きで目を見張る!
凍り付いたケルベロスが一気に熱せられ水蒸気爆発を起こし、ケルベロスは粉々に吹き飛んだ!
『………………』 俺たち三人はしばらく呆然とその光景を見ていた。
落ち着いたところで、おれは訊ねる。
「ギーズ! シルフィードと繋がったんだな!?」
「ああ! おかげさまでやっと繋がれたよ!」
『おぉ!』と皆で喜び合う。
「しかも…… 【地獄の業火】までラーニングするとは!」
「あぁ、ホントギリギリだった――、シルフィードに助けられた、少し遅かったら死んでたよ……」
俺は顔をしかめギーズに言う。
「ギーズ、結果は良かったが…… もう今後こんな無茶はしないでくれよ! 次もうまくいくとは限らないんだ!」
「ごめん、ディケムもうこんな無茶はしないと誓うよ」
ギーズは謝り、約束してくれた。
俺は傲慢なのかも知れないが、自分と関わり合いになった人たちに、誰一人として、死んでほしくない。
ギリギリの戦いを制した余韻で、みなでボーっとしていると……
いつもの様に、魔法陣からフロアボス討伐ドロップとして、宝箱が出てくる。
今回も今までと同じ、ミスリル装備を選べる。
剣、槍、刀、ナイフ、弓、斧、盾 だ。
俺は皆の善意に甘え、ミスリル武器の片手剣を選んだ。
そして今回は、召喚魔法陣は消えていった……。
だが俺はもうこのダンジョンの座標の取り方を把握していた。
すでに一度行った階層の、マッピングした場所なら転移できる。
十一階層の消えなかった魔法陣は、やはり誰かが意図的に操作して残したと思ったほうが良い。
俺が早く下の階層にたどり着けるように、迷宮脱出魔法陣の仕組みと、座標の取り方を教えてくれたようにしか思えない。
誰かが、ダンジョン攻略を手助けしてくれているのか?
ま~先に進まないと分からない事だな、俺は悩むのを棚に上げた。
今回のダンジョントライは、魔法陣で十一階層まで一気に降りてきた事も有り、まだ時間に余裕がある。
次回のトライに向けて少し探索しておこうと、十三階層を少し調べる事にした。
俺達が、十三階層に降りていくと―――
「なっ! なんだここは! これは無理だろう!」
俺達は目を見張り呆然と立ち尽くした……
十三階層――!
そこには、仕組みは解らないが、地上に出てきたと勘違いしてしまうような広大な世界が広がっていた。
山があり、森があり、草原があり、川が流れ、畑も広がっている。
太陽らしきものまで出ている。
そして遠くに見える湖には…… 湖上に作られた街、いや王国が見える!
「う、嘘だろ…… 一つの世界、文明を相手にしろと言うのか?」
いや、一パーティーで国、文明を攻略とかどうかしている……
たしかに俺はエルフ族と戦ったが、あれは十分情報を集め下準備を整えて、すでに勝利を確信しての奇襲と交渉だった。
こんどはもし全面戦争に成ったら、全く知らない文明との、出たとこ勝負の戦いになる。
策略や交渉以前の問題だ、ただの侵略戦争…… すべての人を殺すのか?
そんなの、皆の心がもたない………
いや、精霊無しでは絶対に勝てもしない。
俺は、ここの座標だけ確認して、すぐに転移の魔法陣を作る。
「皆、早急に離脱だ! ここは無理をすると文明同士の戦争になりかねない!」
みな頷いて、すぐに転移した。




