第四章10 狼たちの狩場
十二階層に降りて、慎重に周囲を観察する……
十、十一階層はアンデット、昆虫と特徴が強い階層だった。
さすがに十二階層は何もないという事は無いだろう。
十二階層は今のところ洞窟のような一本道、俺達に進路の選択権は無い。
そして、道を進んでいくと―――
とてつもなく広い空間に出た。
地面には下草が腰まで生え、見える限り一面が大草原だった。
天井には『ヒカリゴケ』と『ワイトモ』と云う輝る幼虫で、洞窟内は夜空の様に明るい。
『ここは………』おれは非常に危機感を感じていた。
『何かの狩場なんじゃないのか……?』と俺はつぶやく。
すると――! 遠くの方で遠吠えが聞こえる!
『ワォォォォォォォォォォォォォォォ~!!』
『こ、これ…… ファイヤーウルフの鳴き声だ!』 ギーズが叫ぶ――!
『ワォォォォォォォォ!』
『ワォォォォォォ!』
『ワォワオォォォォォ―――ン!』
最初一匹の遠吠えの後、何十匹という、ファイヤーウルフの遠吠えが無数に連鎖する!
俺は叫ぶ!
「ヤバイ! この視界が悪いだだっ広い草原で、ファイヤーウルフの大きな群れに襲われたら、逃げ場がない!」
聞こえてくる遠吠えと、地響きのような足音がこちらに向かってくるのが分かる!
もう何十匹では無い、何百匹だろうと想像できる。
「ちょっ! ヤバイ! ヤバイ! ヤバイ―――!」
猶予はない! 俺は皆にすぐ指示をだす!
「すぐに来た通路まで退却! 通路の出口をクリスタルで固めて塞げ――!」
皆迅速に走り出し、通路まで戻り、俺とララがクリスタルで出口をふさいだ。
その直後、何十何百のファイヤーウルフの群れが押し寄せ、次々に塞いだクリスタルの壁に激突してくる――!
『きゃぁぁぁぁぁ―――――!』ララが怯えて床にしゃがみ込む。
ファイヤーウルフにはクリスタルの壁を壊せる力は無い!
だが、クリスタルの透明な壁に、猛り狂った何十何百の狼が、次々に猛然と飛びかかってくる其の様は、恐怖以外の何物でもない!
⦅ヤ、ヤバかった…… 少し判断が遅ければ、確実に詰んでいた⦆
しばらくすると、さすがにファイヤーウルフも、壁に襲い掛かるのを止める。
だが透明なクリスタルの壁の向こうには、見渡す限りのファイヤーウルフの群れが、こちらを狙っている姿が見える。
獲物を見定めたように、隙あらばいつでも俺達を襲えるように……
ファイヤーウルフ一匹ではそれほど強い魔物ではない、だが、この大軍勢のファイヤーウルフに大草原で囲まれたら、逃げ場もなく時間の問題で、皆食い殺されただろう。
この暴力的な数を前に、どう攻略すればいいのか俺は悩む。
いっそシルフィードの『飛行』スキルで飛びながら、フェンリルの軍団で蹂躙してしまいたいが……
緊急事態を回避できた今は使えない。
ウンディーネが許さないだろう。
この三人で、どうにかして、あの大軍勢を倒す他ない。
俺は少し考えた後、ギーズに聞いてみる。
「なぁギーズ。 アラクネからラーニングした毒合成、試してみないか?!」
『毒合成を……?』とギーズが『なんでいま毒?』という顔で答える。
「あぁ、毒と言っても即効性の伝染する疫病作れないか? 殺せないまでも弱らせられれば、勝機が見えてくると思うんだ! むしろ即死するよりも群れ全体に広がるような疫病の方が今回は良いと思う!」
『なるほど!』と言いながら、ギーズがブツブツ言いながら考え込む。
数分後、『これで行けるかもしれない……』とギーズが言う。
『おぉ! 青魔法凄くないか!!』と俺達みなが喜んでいると――
『成功してからにしてくれよ!』とギーズが照れる。
俺たちはクリスタルで作った壁を、少しだけ解除して、そこから槍でファイヤーウルフを攻撃。
傷ついたファイヤーウルフに疫病毒をギーズが吹き付ける。
そしてまた、クリスタルで蓋をして、しばらく待つことにする。
三十分もすると、倒れだすファイヤーウルフが出てきた、明らかに弱っている。
「ギーズ、どれくらいの、毒性なんだ?」
「致死性は無い、だけど病気に伝染すれば3日ほどは動けなくなるはずだ!」
ちなみに、俺たちはルナの加護で、疫病毒は無効化をしている。
そして…… それから一時間ほどで、周りには元気なファイヤーウルフは居なくなった。
『凄い即効性だな!』と俺が言うと、ギーズは嬉しそうにうなずいた。
さぁ、ここからは申し訳ないが、蹂躙の時間だ!
ファイヤーウルフの弱点は水か氷。
ウンディーネかフェンリルが使えればそれだけでよかったが、今は使えない。
ディックの攻撃魔法ブリザードとギーズのブリザードブレスで、ファイヤーウルフにとどめを刺していく。
こうして通路入り口前に集まった、ファイヤーウルフは片付けた。
その後、俺たちはいつでも逃げられる準備をして、慎重に草原を進む。
たまに、はぐれファイヤーウルフは出てくるが、一匹など俺たちパーティーには、問題にならない。
そして草原の反対側にたどり着くと、大きな崖に大きな洞窟の入り口があいている。
『ここがファイヤーウルフの根城なんだろうな……』と俺がつぶやく。
『行くしかないのよね……』あの軍団の恐怖を思い出し、ララが怖がっている。
「あれだけの数殲滅したんだ、もうそれほどは居ないよ…… ⦅ダブン⦆」
「いま、ぼそっと『タブン』って聞こえました~!」
『ん?』と俺はごまかしておいた。
しかし俺の予想というか、願いは外れた。
洞窟の奥に進むと、見下ろすような窪地になった広間がある。
その広間にはぎっしりとファイヤーウルフが居た……
『ひぃぃぃ~~』ララはビビるが、よく見るとファイヤーウルフは皆弱っている!
ここの集団にもギーズの疫病毒が効いているようだ。
多分、疫病毒に感染した個体が、伝令役として戻ってきて、疫病毒を広めてしまったのだろう……。
『凄い! ギーズ、マジ万能!』ディックとララがほめる。
少し気が引けるが……、広間の高台から窪地広間に溜まっているファイヤーウルフを、魔法で殲滅する。
全てのファイヤーウルフを片付けると……
このフロアには今まで無かった、明らかに不釣り合いな大きな鉄の扉が現れる。
『フロアボス、ここだろうな!』皆が頷く。
「ここまで来たら、火属性のオオカミ系のボスだろうから、氷系か水系の魔法準備ね。 だけど…… ここまで来るのに、ギーズの青魔法の有用性をまざまざと思い知ったから。 またラーニングを第一に考えよう。 ボスからのラーニングは、ハイリスクだが、リターンが大きい! もちろん無理は禁物だ、無理だと思ったら速やかに倒そう!」
『おう!』皆が了解の意を示す。
『じゃ~、行くぞ!』気合を入れて、おれは扉を開け中に入る。




