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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第四章 地底都市ウォーレシアと封印されし暗黒龍
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第四章8 虫のフロア:アラクネ


 俺達の十階層到達の報が、学生達のやる気に火をつけてしまった。

 人が増えれば、ダンジョンの魔物も狩りつくされ、少なくなる。


 それが良い事なのか悪い事なのかは、そのパーティーの目的によって違う。

 レベルアップを図りたいパーティーには、魔物の数が減れば効率が悪くなるだろう。

 しかし我々の様に、先の階層に進みたいパーティーにはとても助かる。


 俺たちは、早々に昨日クリアした十階層のフロアボスの間にたどり着く。

 フロアボスは復活していない……

 もしくは、クリアしたパーティーはもう戦えないのか?

 今の段階ではわからない、今後数度にわたって、ここに来ればわかる事だろう。


 俺たちは十一階層に降りた。




 十一階層は―――


 『これは虫だな………』俺がつぶやく。

 『ヒ、ヒィィィィ~~』ララが泣きそうだ。


 地面に虫がうじゃうじゃいる、なにか固い虫を踏みつぶしながら進む。

 そして、大きい虫のモンスターが現れる。

 この階層の難しさは、地面の虫を踏みつぶしながら戦うから滑るのだ、滑るから攻撃に力が入らない、さらに敵が虫なので固いのだ。


 この階層の攻略方針は、俺がタンクなのは変わらない。

 後はディックとギーズの炎系魔法で焼き払う。

 ララは弓矢で援護とヒールと言いたいが、十階層に増して、ララが使い物にならない。

 もう歩くだけでも『キャ~ キャ~』言っている。


 『もぅ~! なにこのダンジョン! 最悪なんですけど! アンデットの次が虫って、虫ってなによ――!』ララが逆切れしだした……。


 それでも少しずつ十一階層を攻略していくが、十一階層の難しさは、戦いにくさだけではなかった。


 大サソリ、大ムカデ、大蜘蛛、大スズメバチ、etc……

 とにかく毒・麻痺 などの状態異常攻撃が多いのだ。


 『これは、普通の攻略班では無理だろう!』俺がつぶやく。

 『モンスター自体はあまり強くないが、毒だの足場などがえげつない!』ディックが嘆く。


 俺とララがルナの加護で、状態異常を防ぐ。

 ルナの加護は、聖属性付与だけでなく状態異常無効効果もある。

 これが無ければじりじりと体力を奪われ、じり貧だっただろう。

 本当は、イフリートでフロアの虫を全て焼き尽くしたいが――

 ウンディーネから精霊の実体化は禁止されている。


 状態異常対策が万全な俺たちは、なんとかこのフロアをマッピングして、フロアボスの扉の前まで来た。

 じっとしていると虫が足を這いあがってきそうなので、俺たちはすぐに扉を開け中に入る。




 十階ボス部屋と同じ、壁際のトーチに次々灯がともっていく

 トーチに灯がともると、部屋の床いっぱいの虫たちが照らし出される。

 『ヒィ~~~~~』ララが叫ぶが…… この光景は俺たちも叫びたい!


 だが、今回は魔法陣が床に浮かび上がらない?

 『魔法陣来ないな………』俺がつぶやく。

 皆注意深く部屋中を探すが、変化はない……。


 だが――、 『パラッ……』 何か上から小石が落ちてきた!

 『上か!』俺は叫び、上を見る!


 天井に魔法陣が浮かび上がり、そこに上半身人間下半身蜘蛛のモンスターが居た。

 『全員回避!』俺は盾を構え、三人の前に出て、モンスターからの攻撃を防ぐ!


 『アラクネだ――!』俺は叫ぶ!


「かなり上位の蜘蛛のモンスターだ! 状態異常攻撃、蜘蛛の糸、邪眼も有るかもしれない! 蜘蛛の糸以外は、ルナの加護で対応できる。 ララは、回復に専念! ディックとギーズは炎系魔法でアラクネへの攻撃と糸を燃やしてくれ!」


 『了解!』三人が叫ぶ!


 俺は、タンクに専念する。 残念だがこのダンジョンは三人が主役。

 三人が上手く動けるように、アラクネの攻撃は俺が止める。


 だが俺は思う………


「なぁ、ギーズ アラクネのスキル、ラーニング出来ないか?」


 『ッ――――っな!』ギーズがこの状況で言う? って顔をする。


「だけど、チャンスじゃないか! ロードスケルトンは、スキル無かったけど、アラクネはスキルの宝庫じゃないか!」


 それを聞いて、ディックとララもギーズのサポートに回る。

 俺たちは、ラーニングがしやすいよう、アラクネの足を数本切り落してスピードを殺す。

 ララがギーズへのルナの加護を切る。


 そして、ギーズを前面に出す。

 その瞬間――、ギーズが糸にまかれ毒を振りかけられた!

 直ぐに俺がギーズを回収、グルグル巻きの糸をほどき、ララが回復!


 『ブッハ――! あ、危なかった! 意識が飛んだよ!』ギーズが泣きながら叫ぶ。


 だが、このギーズより圧倒的にレベルが上のアラクネ、普通ならマナのドーピングなしではギーズが戦えるレベルではない。

 しかし幸運な事に、ギーズは一発でラーニングを成功させた。


 ギーズが確認する!

「おぉ! 『蜘蛛の糸』と…… なんだこれ、『毒の合成?』ての覚えた」


「検証は後で良い、アラクネが酸を吐いてるからあれも行けるだろ? あとアラクネは腐蝕の邪眼を使ったはずだ!」


 回復したギーズを前線に放り出す。

 『ちょっ! まっ、まだ心の準備が!』ギーズが騒いでいるが関係ない。


 毒合成と蜘蛛の糸をラーニングしたギーズには、これらのスキルは効きにくい。

 無効とはいかないが、耐性が出来るらしい。


 これ、覚えれば覚えるほど、ギーズ無敵にならないか? などと考えていると。

 毒と糸が効きにくいのを嫌がったアラクネが酸を吐いた。

 そして、大やけどを負ったギーズが後方に戻される。

 回復している時間は俺が防御する。



「どうだ! ギーズ!」

「な、なんとか生きているよ……」

「違う! それは当り前だ! ラーニングだ!」

「あぁ、おかげさまで酸も覚えた! ……ヒドイ」

「よし! じゃ~仕上げの邪眼も行ってこい! 腐蝕の邪眼は強力だ! モノに出来たら俺達の切り札になる!」


 おれの言葉を聞き、ギーズが叫ぶ!

「っえ! そんなの受けたら本当に死んじゃうんじゃない?!」


「ララ―! 邪眼を受けたらすぐにヒールだ、同時に俺がルナの加護とポーションも投げる!」


 俺は叫び、ララに指示する。

 俺たちはアラクネの体力を削っていき、アラクネが死に物狂いで邪眼を使うのを待つ。

 そして、アラクネがギーズを睨み、邪眼を発動!

 『ララ――!』 俺は叫び同時にルナの加護を発動!

 ダメ押しにポーションも投げつける。


 その瞬間、ディックがアラクネを貫き、とどめを刺す。

 アラクネを倒し、宝箱が出現したが、それよりも俺たちはギーズに駆け寄る。


 『ギーズ! おいギーズ!』 俺が叫び、ギーズを揺さぶる。

 はじめ全く動かなくてヒヤッとしたが……

 徐々にギーズが意識を取り戻し、親指を立てる。


 『おぉ! やったのかギーズ?!』俺がたずねると――


「あぁ! 死にかけた甲斐が有った、腐蝕の邪眼、覚えたぞ!」


 『おぉ――!!!』みなで叫んだ!


 腐蝕の邪眼のラーニングは、このパーティーの切り札になる大きな成果だ!

 強力過ぎて人には使えない事と、魔力消費が激しいので、連発は出来ないが強力な切り札に違いない。



 ギーズを十分回復させて、宝箱を鑑定する。

 十階層の時と同じフロアボス討伐ドロップとして、ダンジョンコアにより、ミスリル武器の種類を選べる。

 剣、槍、刀、ナイフ、弓、斧、盾 だ。



 おれは、皆にお願いする。

「ごめん、次はギーズのナイフだと考えていたんだが、今後もギーズのラーニングを極力行いたい、だから今回は盾を選ばせてもらえないか?」


 おれがお願いするとみな、快く了承してくれた。


「お前がリーダーだ、おれらは異論無し、むしろ次もディケムの剣にしたほうが良いと思ってる」


 ディックが言った後。 ギーズとララが続ける。

「ディケムの精霊が使えない状況で、タンクとして、さらにマナ供給としてのディケムが一番重要だ」

「ディケムは私たちのライフラインだから、最初に強化しよう! ディケムがやられたら、どうせ私たちも生きられないから」


 三人が頷く。

 『ありがとう』と俺は礼を言う。


 正直、誰かが死ぬようなときは俺は躊躇なく精霊を使う。

 だけど…… 緊張感が無くなるから、言わないけどね。

 追い込まれないと、ディックとギーズが精霊と繋がれないみたいだし。



 俺はミスリルの盾を選択。

 そして、十二層の階段を確認して、今日はここまでと思っていたが……

 天井の魔法陣がなぜか消えていない事に気づき、魔法陣を調べることにした。


「あれ? 召喚の魔法陣だから…… 召喚とは転送してくることだから…… もしかしたら―――」


 俺がブツブツ言いながら魔法陣を調べる。

 そのとき念話でウンディーネが話しかけてくる。


 ⦅ディケムよ、気づいたか? 迷宮の転送魔法陣の仕組みを?⦆

 ⦅やっぱり、これで脱出できるよな?⦆


 ⦅そうじゃ、【転送魔法陣】と【ダンジョン脱出魔法陣】仕組みはそれ程変わらない、ただダンジョン脱出は、その迷宮を作ったダンジョンマスターの結界を破らなければならない分、高いスキルレベルとある一定の神気に達したマナが要求される⦆


 ⦅ほぅ……⦆


 ⦅だが…… 屋敷にある神木は神気が上がり、おぬしの契約精霊も六柱に達した。 お前はすでにそのレベルに達している。 いまのお前なら、ダンジョン脱出の魔法陣、十分起動できるじゃろ――!⦆


 ⦅おぉぉぉ―――!⦆



 俺は魔法陣をいじる。

 『ディケムどうしたの?』ララが聞いてくる。


「いや、この魔法陣を利用して、一階に転送できるかもしれないんだ」


 『えぇ――!』 皆驚く。




「召喚の魔法陣って、要はある場所の魔物を、この座標に呼び寄せるって事だから…… 魔法陣に書き込まれている、ここの座標を使い、呼び寄せるのを、送るに変えて…… たどり着く座標を、ダンジョン入り口に指定する―― ブツブツ」


 『………………』みな沈黙して見ている。


「転送と脱出の記述の違いが……、これで結界を破って……… ブツブツ」



 『入口の座標なんて知ってるの?』ララが聞いてくる。


「マッピングしているから、だいたいの座標は分かる、特に入り口は正確に把握しているからね」


 俺は【転送魔法陣】を応用して【迷宮脱出魔法陣】を新たに構築する。

 そして大量のマナを注ぎ込む。


 脱出の魔法陣は大量のマナを消費する…… だがマナと繋がる俺には関係ない。

 魔法陣が青く輝きだす。


「よし、行けそうだ! みんな魔法陣に乗ってくれ!」


 四人が魔法陣に乗ったところで、呪文を発動する。


 ⋘―――Διαφυγή(ディアフィギー)(迷宮脱出)―――⋙


 呪文と共に魔法陣が強く光り出し発動する。


 目の前の空間がゆらりと揺らめき光に包まれる。

 ほんの数秒真っ白な光に包まれ、光が薄らいで視界が回復しだすと———


 ダンジョンのすぐ出口、という場所に転移してきた。

 周りには驚きで地面に尻を打っている生徒が何人もいた。


 俺達の十階層到達の報で、殺到している学生達でダンジョン入り口は大混雑だった、そのど真ん中に転移してきてしまった……

 また悪目立ちしたのは言うまでもない。


 尻餅をついたまま目を見張る生徒たちに『ごめん!』と謝って、ダンジョン受付管理局へ向かう。


 昨日ミスリルの槍を手に入れて、今日はミスリルの盾を持っている。

 ダンジョン入り口の人混みが騒めいているのがわかる。

 『まさか十一階層突破したのか?』とか聞こえる。



 俺達は早々に受付管理局に行き、十一階層の攻略、マップデーター、フロアボス、ミスリル装備のドロップを報告した。



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