第四章7 アンデットフロア:ロードスケルトン
さて、やってきましたダンジョン九階層。
三人とも昨日のマナブーストの反動はあまりないようだ。
という事は、もっとブーストしても大丈夫という事になる。
俺は三人に言う。
「とりあえずミスリルが出る十階層までスグに行きたいが、厳しかったら言ってくれ。 安全マージンは取っておきたい」
三人とも頷く。
九階層は、普通にモンスターが少し強くなっただけで問題なかった。
そして十階層――
ここからは、ダンジョンの様相ががらりと変わった。
モンスターが全てアンデット系になったのだ。
『キャ~ もう嫌だ~!』
ララがとても怖がっていたが、アンデット系には白魔法とルナの属性が効く。
ララには申し訳ないが、ララメインの戦い方になる。
だが、ディックとギーズのレベル上げもあるので、俺達は武器や防具に『ルナの加護』と言う武器に聖属性を付与する精霊魔法を使う。
これで武器もアンデットに普通に効くようになり、防具もアンデットのダメージを軽減してくれる。
さらに、ララが聖属性魔法『ターンアンデット』と『ホーリーレイ』を使いアンデット達を殲滅していく。
『ターンアンデット』は、アンデットを只の死体に戻す魔法。
『ホーリーレイ』は聖属性の光線魔法。
白魔術師と精霊ルナが居ると、めっぽうアンデットに強いパーティーになるようだ。
白魔法と月の精霊ルナの相性がすこぶる良い。
そして、十階層には九階層までと違い、なんとフロアボスが居るようだ。
十階層のマッピングをあらかた終え、下に降りられる階段は見つけられ無かった。
残る捜索していない場所は、明らかにボス部屋の様に、禍々しく大きな扉の中。
マナを探れば、この部屋の中にフロアのどの魔物達よりも強力な存在が居る事が分かる。
「階段は…… この扉の部屋の中だろうな」
俺の呟きに、皆が頷き同意する。
俺は意を決して扉を開く。
ギィ~ ギギィ………
両開きの大きな鉄の扉を開けて、中に入る。
部屋の中は真っ暗だった、だが、全員が部屋の中に入ると――!
突然、壁側に立てられているトーチに次々灯がともっていく。
『ヒィ~~~』ララが声を上げる。
トーチ全てに灯がともると、部屋の中央に魔法陣が浮かび上がる。
『召喚の魔法陣だ――!』俺が叫ぶ!
あれは【始まりの書】に書いてあった魔法陣だ!
そして、魔法陣から六本腕の大きなスケルトンが現れる。
『ロードスケルトン―――!」 俺が叫ぶ!
『ロードスケルトンって? つ、強いの? 強いよね!?』 ララが聞いてくる。
『スカルドラゴンやノーライフキングの次ぐらい…… アンデットの上位種だ!』
俺は三人を鼓舞する!
「大丈夫、十階層でやってきたことを、やれば必ず勝てる!」
このボス部屋の演出で、三人がビビってしまっている。
『しょうがない! 』俺はまず一人で出て、ロードスケルトンをけん制し、三人が落ち着くのを待つ。
「大丈夫だ――! お前らは十分強い! ロードスケルトンくらいすぐに倒せる!」
俺は三人を鼓舞しながら、六本の腕から繰り出される斬撃を軽く盾で受け止め反撃する。
俺が一人で、ロードスケルトンの攻撃をいなしているのを見て、ララが立ち直り、聖光魔法ホーリーレイで援護する。
それを見て、ディックとギーズも、やっと正気に戻る。
大丈夫、このパーティーならこれくらい倒せる。
このフロアでやってきた、アンデット対策を駆使すれば、問題ない!
俺がタンクとして、六本の腕から繰り出される剣戟を全て受け止める。
その隙に両サイドからディックとギーズの攻撃、後方からララの魔法でスケルトンの体力を削っていく。
「うそ……ちょ、こっち来ないで! イヤ~」
余裕が出てきたのだろう、ララがキャ~キャ~言いながら戦っている。
一本、また一本とロードスケルトンの腕を落とし、数十分後、危なげなくロードスケルトンを撃破した。
『よくやった! お前らなら大丈夫って言っただろ!』 と俺が言う。
『あぁ、ディケムありがとう、落ち着けば大丈夫だった 』ギーズがお礼を言ってくる。
「大丈夫、このパーティーは十分強い! 足りないのは経験だ!」
俺は三人に言い、三人は頷く。
ロードスケルトンが消滅すると、魔法陣から宝箱が出てきた。
『これは良いものに違いない!』まずは鑑定!
ギーズが鑑定スキルを使う。
「ミスリル武器だって! フロアボス討伐のドロップとして、ダンジョンコアにより、武器の種類を選べるみたい。 剣、槍、刀、ナイフ、弓、斧、盾 どれにする?」
『ここは、戦力増強を狙い、ディックの槍かな?』 俺が言うと皆頷く。
「ここまでの攻略で、ディックが槍でとどめを刺す場面が多かった。 ララの弓と俺の剣は、サポートだから後で良い。 次選べるとしたら、ギーズのナイフだな」
皆で決めて、槍を選び、宝箱を開ける。
「おぉ! ミスリルの槍だ――!!」
初ミスリルゲットに俺たちは盛り上がった!
『ほらディック!』 とミスリルの槍を渡すと、ディックが申し訳なさそうにしていたが、
全員分のミスリル装備を揃える予定なので遠慮はいらない。
十一階への階段を確認して、俺たちはダンジョンを出ることにした。
俺たちは、ダンジョンを出て受付・管理局に行く。
ダンジョンに入る前に、十階層まで行くと攻略スケジュールを提出したからだ。
今まで学生での攻略階数は八階層までだった。
九階層より下階層の攻略は、捜索隊も難しいので、自己責任となる。
また、今後の救助隊の為に、九階層以下の状況を報告するように頼まれていた。
俺たちは、九階層・十階層の状況、十階層のフロアボスの情報を報告し、マップデーターを提出した。
このマップデーターなどは、公開すると無謀なアタックをする生徒が出るそうなので、基本非公開、救助の時の為だけに使うそうだ。
俺は、公開しても良いと思ったのだが、大人の冒険者と違って、学生は自分の力量を把握できず、自制する事が難しいらしい。
たしかに…… 俺たち自身も、誰よりも強くなれると夢見ているのは否めない。
翌日、俺たちの報告を受け、ダンジョン管理している学校側は、俺たちの十階層到達とミスリル武器の獲得を報じた。
ただ、その報じ方が問題だった………。
学校の校内放送で全校生徒に向けて放送したものだから、大騒ぎになる!
ちょ! ホントやめてほしい――!
放送直後、周囲にどよめきが起こった。
『ソーテルヌ侯爵がやっぱりやったのか!』
『十階層到達したのか!』
『ミスリル武器、本当だったんだ!』
もう、どこに行ってもミスリル武器の話題で持ちきり、ミスリルの槍を持っているディックに視線が集中してしまった。
ごめんディック、そんなつもりは無かったんだけど……
人身御供になってしまったね。
昼も食堂でその噂ばかり。
カミュゼとギュヴェンからは、『おめでとう!』と言われ、マルサネ王国のシャントレーヴ王女も来て、『やはり其方は、普通に過ごす意味を知らないようだな』と言われ祝辞を貰った。
皆の興味は、やはりダンジョン情報だったが…… ダンジョンの事は学校の管理局から、情報は極力秘密と言われている事を話した。
『無謀なアタックを避けるため』だと話したら皆納得してくれた。
ただ友人のよしみで少しだけと、十階層はアンデットの階層だとだけ教えてあげた。
アンデットは、それなりの準備が無いととても危険なモンスターだ。
聖なる魔法も武器も何も無いと、ただのスケルトンですら倒せなくて、やられかねない。
やっと十階層まで来たのだからと、無理をして、取り返しのつかないことになる。
そして放課後、ダンジョンアタックの時間。
受付管理局に向かうと、大混雑だった。
俺達の十階層到達の報が、みなのやる気に火をつけてしまったようだ。
頼むから、無理はしないでほしい。




