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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第四章 地底都市ウォーレシアと封印されし暗黒龍
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第四章6 暗中模索

鉄壁のコルヴァス視点です。


 俺はコルヴァス。

 剣士の家系、レイシート騎士爵の家に生まれた。


 父はつい最近第十二部隊に下った、元王国騎士団第二部隊隊長ダドリー・グラハム将軍の隊に所属している。

 父はグラハム将軍の部下であることが誇りで、そんな父親が俺達息子の自慢だった。



 俺は小さい頃から体を鍛え、父と同じ王国騎士団に入ることを夢見ていた。


 しかし、俺はいくら鍛えても弱かった。

 いくら道場で剣の訓練をしても、同期の友人にはおいて行かれ、後輩に追いつかれ、抜かされていった……。

 だが俺は諦めず訓練をコツコツ続けた。


 父はいつも優しく笑って『お前のその誠実な努力は本物だ、必ずお前は強くなれる』と励ましてくれた。



 そして鑑定の儀を迎えた。

 俺の鑑定は、戦士系のタンク向き――

 うちの家系は、父も兄もみな剣士、タンクの才能と言われたのは、俺が初めてだった。

 兄たちは微妙な顔をしたが、父だけは喜んでくれた。

 父が今までどれだけタンクに助けられたか、剣士の替えはタンクが出来るが、タンクが居なければパーティーが成り立たないと。


 俺はそれから、タンクで一番になることを目標にがんばった。

 そして俺は、剣術よりも、盾使いメインに訓練することで、自分の才能が開花した。

 今までも訓練は人一倍頑張った、そのベクトルを盾に向けると、盾だけは誰にも負けないほど、成長が目に見え自信がついていった。


 タンクとして人に認められ、誉められ、今まで劣等生だった反動で俺はメキメキ強くなった。

 そして戦士学校に通うと、百年に一人の逸材などともてはやされた。

 学校でも実力を伸ばし、グラディアトル大会をも三年生で制した。

 俺は自分の強さに自信を持っていた、いや自惚れていた。

 そして四年になったとき、エルフ族の宣戦布告がくる。


 宣戦布告の直後、上空に巨大な隕石が落ちてきた。

 俺は絶望した、俺は強くなり有頂天になっていた、だがこの絶対的な破壊力の前では、あまりにも無力だった……。

 いや、こんな圧倒的力に抗えうる者など居るはずがない!

 俺は立ちつくし、死ぬその時を待っていた、俺の人生とは何だったのか……と。


 しかし、メガメテオは、王都を守る結界にぶつかる。

 あの結界は、たしかソーテルヌ辺境伯が作った結界だ!

 あの結界でメガメテオに対抗できるのか?

 俺は…… いや全国民が一縷(いちる)の望みをかけて願った。


 そして人々が逃げ惑う中、上空を人々とは逆方向に飛ぶ水龍が見える。

 あの水龍はソーテルヌ辺境伯!

 おれは震える足を叩き無理やり動かす。

 なぜか死を目前にして、ソーテルヌ侯爵を追いかけたいと思ったのだ。


 俺が東門に着いた時には、ソーテルヌ辺境伯は既にエルフ軍と戦闘に入っていた。

 そして頭上のメガメテオは結界に阻まれ崩壊していく。

 俺は震えが止まらなかった。

 なんだあの人は、この絶望的な状況になぜ迅速に対応出来る。

 そして、何もできず立ち尽くす我々をしり目に、城壁の上ではソーテルヌ辺境伯の部下が奮闘している。

 おれの力はなんてちっぽけだったんだ……。 

 俺は戦士学校で最強だと自負していた、いやそれどころか騎士団に入っても負ける気がしない程俺は己惚れていた。

 なのに、俺は今震えて見ている事しかできない。

 目の前のか弱い女の子があれほど戦っているのに……


 その後の、三度のエルフの攻撃もソーテルヌ辺境伯は退けた。

 三度とも彼女たちは城壁に立ち、ラトゥール将軍は三倍以上の敵の軍勢に立ち向かった。

 俺はソーテルヌ卿と彼女たちに憧れた、心酔した! おれもあの場所に立ちたいと。


 あれから俺は、ソーテルヌ卿の情報は何でも集めた。

 ソーテルヌ卿が公の場に出てくるときは必ず見に行った。

 ソーテルヌ卿が総隊を作った時、俺がそこに居ない事が悔しかった。

 側近に抜擢されたポートの両親が営む酒場にも、父に連れて行ってもらった。

 父も俺がソーテルヌ卿に心酔する事を、応援してくれた。



 そして、ソーテルヌ侯爵が戦士学校に交流学生として来ると噂になった。

 回りの女子は大騒ぎだ、そりゃそうだろう俺だって浮かれている。

 俺は、どうしてもソーテルヌ侯爵の総隊に入りたい。

 噂では、二年のグリュオ伯爵の子カミュゼが側近に取り立てられていると聞く。

 俺は、去年の大会でカミュゼに勝っている。

 俺はソーテルヌ侯爵の力になれるはずだ。


 噂通り、ソーテルヌ侯爵が交流学生としていらっしゃった。

 あの、城壁で戦っていたララという少女も一緒だ。

 他のディック、ギーズは初めて見る顔だった。


 その後の噂では、ソーテルヌ侯爵は、この学校では 武器、精霊、奥儀を封印しているそうだ……

 少し残念だが、たしかにあの強大な力は学校などで使っていいものではないかもしれない。

 しかも、ソーテルヌ侯爵はタンクを練習されていると聞く。

 武器、精霊、奥儀を封印し、タンク初心者の状態なら、俺は侯爵に勝てる!

 勝って俺のタンクとしての力を示し、俺を認めてもらうんだ。


 チャンスは、早々に来た。

 全学年合同演習! そこでディケム様の指名がきたのだ。


 だめだ、目の前に傅いてしまいたい衝動を抑え、俺はディケム様に問う。

 力を封印している状態では俺には勝てないと。

 しかし、ディケム様は次に勝つために、今戦いたいと言う。

 ディケム様は、グラディアトルを勝ちに行くつもりなのだ――

 俺は、ディケム様に力を示す為、ここでもグラディアトルでも負けられない!

 あのララもゴーレムを使わないと聞く、さらに装備もまだ鉄装備だ、これで負けるはずがないのだ。


 試合が始まる、ディケム様は初めから仕掛けてくる。

 その攻撃を難なく盾で受け止め、反撃する。

 さすがに俺の攻撃は簡単によけられた。


 だが俺は確信する、これならいける!

 さらに、ディケム様は多彩な攻撃で俺にけしかける。

 だが俺には通用しない。

 どの方向からの攻撃も防ぐ自信が有る。

 俺は、ディケム様にも通用する自分の力に慢心していた。

 ディケム様のメンバーも今二人落ちた。

 すでに四対二だ、これで必勝パターンに持ち込んだ!


 『勝った――!』俺はこの時そう思った!


 『……ん?』 なぜディケム様はまだ落ちない?

 ――いやむしろ! 俺に余裕がなくなっていないか?


 そんなはずはない、後ろのララを落とせば決着だ!

 味方がララを落とす、よし勝った!

 ディケム様が、ララが落ちたのを見た―― これで!


 『――ッえ?!』 ディケム様の戦い方が変わった!

 今まで攻撃を受け止めていた盾を、いなし、弾くように使いだしている。


 ッ――なっ! なんだ! 早い、早すぎる!


 今まで守る戦い方をしていたディケム様が、一人になって自由になったって事なのか?!

 やばい! 四対一なのについていけない――!

 俺の盾の防御が間に合わない! ウソだろ! 嘘だと言ってくれ! 負ける―――!



 試合終了の合図が来た………。


 た、助かった…… あと一分長かったら負けていた。

 俺を含め、メンバー四人は蒼白だ。

 あの刹那の時間、俺は立っていられる気がしなかった。


 一分長かったら負けていた? 

 いや違う。 ディケム様は、いつでも俺たちを獲れたのだ………

 次回の大会の為に、次回仲間をもっと活躍させるために、出来るだけ情報を得るために、俺たちは生かされた……。



 そしてその夕方、ディケム様たちは、鋼装備のフルセットでダンジョンから出てきた。

 す、すでに、八階を攻略していると言う事か……?

 このままでは、俺は、ディケム様に勝てない!

 ディケム様に必要だと思って頂けない! 

 ダメだこんな弱い俺ではダメなんだ!


 ………なぜか、父の笑顔が頭に浮かぶ。

 『お前のその誠実な努力は本物だ、必ずお前は強くなれる』


 そうだ、自惚れてはいけない、奢ってはいけない、誠実に努力し続けろ。

 俺はもともと劣等生だったじゃないか――!


 だが…… グラディアトルまで全力で鍛えても間に合うのか……?

 俺は本当に強くなったのか?


 俺はどうしたらいい?!

 どうしたらあの人に認めてもらえる………



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