第四章5 鉄壁のコルヴァス
次の日、学校の全学年合同演習が有り、上級生との摸擬戦が行われた。
下級性に指名権が有り、上級生がどのチャレンジを受けるか決めるらしい。
俺は、すかさず優勝候補のコルヴァス先輩に挑戦を申し込んだ。
「コルヴァス先輩、胸を貸してください!」
会場全体が騒然とする。
『ディ、ディケム様! いきなりコルヴァス先輩指名なんて! 大会まで手の内は隠しておいた方が良いでしょ?!』とギュヴェンが慌てて言う。
「ギュヴェン、俺たちは隠せることなどない状態だ。 だったら情報を集めるほうが重要だろう!」
コルヴァスがいぶかしげに俺を見る。
「ディケム様、おれは貴方を尊敬している。 しかし…… 貴方はこの学校で、武器、精霊、奥儀を封印している。 しかも剣術は私の土俵だ。 申し訳ないが私があなたに負ける要素が無いのです」
おれはコルヴァスの目を見る。
「コルヴァス先輩、だからこそ俺にチャンスをください。 たしかに今の俺にはあなたに勝つ目途が立たない…… だから次に俺が勝つためのチャンスをください」
俺は『いつか必ず勝つ』という、どう猛なまでの挑戦をコルヴァスに突き付ける。
『あなた程の強者が、貪欲までに挑戦者として向かってくる。 これを受けない訳にはいかない!』とコルヴァスがおれの挑戦を受けた!
コルヴァスのパーティーは。
盾、剣、剣、弓の編成だ、装備は全員 鋼のフルセット。
俺のパーティーは。
盾、槍、両手ナイフ、弓の編成 装備は全員 鉄のフルセット。
会場が静まり返り、俺たちの戦いを見ようと集まってくる。
『はじめ!』ドーサック先生の合図で試合が始まる。
おれは開始直後、コルヴァスに切りつける!
だが……危なげなく盾で防がれる。
そしてコルヴァスの切り替えしの反撃がくる。
俺はギリギリ盾でいなす。
俺は分析のために剣を繰り出す、とにかく手数を多く、上下左右全方向から攻撃を打ち込む!
だが、全ての攻撃を危なげなく盾で防がれる。
『おぉ~!』 と会場からは感嘆の声が上がる。
コルヴァスは遅い、そして剣術も未熟さが目立つ、だが盾使いがめっぽう上手い。
とにかく攻撃を全て防ぎ、相手のミスを待ち、そこを突く戦略なのだろう。
俺とコルヴァスがお互いにかかりきりになっている時、パーティーの地力の差が出る。
ディックとギーズが相手の剣士にやられたのだ。
これはミスった、コルヴァスがこれほど遅く、防御特化型ならば、剣士二人にもフェイントをかけ、ディックとギーズの援護が出来たかもしれない。
コルヴァスを警戒し過ぎた。
ララが援護してくれるが、四人が全員おれに攻撃を仕掛けてくる。
⦅集中しろ! 集中しろ! 足を止めるな! 早く動け! もっともっと早くだ!⦆
俺は自分に叫びながら、四人の攻撃をかわし、盾で受け 捌いていく。
どれほど時間がたったのだろう。
気づけば、ララも落ちていた。
『これは、タンクとして落第点だな!』 俺はつぶやく。
そこで試合終了の合図が鳴る。
残念だが、四対一で俺たちの負け。
「ありがとうございました、とても勉強になりました!」
何故か会場が静まり返っている……
コルヴァスは真っ青な顔をして、返事をしてこなかった。
『なんだアイツ、大人気ない……』と思いつつ、合同練習を終わりにした。
昼食の時間、反省会だ。
いつもの、うちのパーティーとカミュゼ、ギュヴェンだ。
俺は三人に謝った。
「ゴメンゴメン、タンクなのに、全くお前ら守れなかった!」
三人が首を振る。
「いや、コルヴァス先輩相手だから、ああなることは分かってた。 むしろ、他のメンバーにやられた俺らが不甲斐なかったスマン!」
そこでギュヴェンが口をはさむ
「いや……、ディケム様とんでもなかったですよ!」
カミュゼが頷く。
「あのコルヴァス先輩の蒼白な顔見たか? 四対一まで追い込んだのに、ディケム様一人倒せなかった。 しかも、装備が鉄と鋼の違いもある」
ギュヴェンはそう言ってくれるが、俺は言葉を返す。
「負けなかったけど、あれでは勝てない。 いや、グループ戦だと負け確定じゃないか。 俺は勝つためにやってるんだ」
『う~ん』と皆悩む。
「まぁ、本番前に戦えてよかったよ、色々対策練れるからね。 しかし、やはり装備の差は何とかしたいな、鉄装備ボロボロになっちゃったよ」
放課後はダンジョンアタック。
学校終わりにダンジョントライできるとか、学生、凄い恵まれていると思います!
さくっと七階まで下りて、七階を捜索。
モンスターは予想よりは強くないが、ディックとギーズが思ったより苦戦している。
今日は八階まで行きたかったが、二人のレベル上げの方が重要だろう。
七階は六階よりは鋼装備の出る確率が高い、この階で装備を整えるのもいいかもしれない。
ララは、七階でもあまり苦労していない。
ディック、ギーズとララの違いは…… 実戦経験か?
おれの精霊と繋がったからか?
おれは、色々な面からこの三人を見比べた。
やはり、マナの量が格段に違う。
ララは俺とのつながりが太くなっている…… やはり精霊ルナと繋がった影響だろう。
ならば――! 俺がディックとギーズのマナをコントロールして、強制的にマナを増やしてしまえばいいのではないか?
俺は試しに、ギーズにマナを強制的に送る。
なぜギーズかと言うと、ディックよりギーズの方が、武器を使った戦闘を苦手にしているからだ。
効果はてきめんだった、明らかにディックよりギーズの方が、動きが良くなった。
そこで俺は三人を集める。
「先ほど検証したのだが、この七階ララは余裕で、ディックとギーズが苦戦しているよな?」
三人が頷く。
「検証結果は、ララは俺の精霊と繋がったことで、俺からのマナ供給ラインが太くなっている」
三人が頷く。
「そして、さっきギーズへのマナを俺が強引に多く送ってみた。 そしたら、ギーズの動きが格段に上がった」
『だからさっき、いきなりギーズが強くなったのか!』とディックが言う。
俺は頷く。
「俺も、マナのコントロールの訓練になるし、三人に強制的にマナを送り強化しようと思う。 いいか?」
三人が頷く。
「デメリットとしては、俺の動きが悪くなる可能性があるから、少しフォローを頼む」
『了解!』三人が答える。
結果は劇的だった、七階、八階は問題なくこなせる位になった。
八階で、装備を鋼に変えて、今日はここまでにしようと思う。
俺は三人に言う。
「マナの供給で、格段に力が上がったが、今日はここまでにしよう」
三人が『なぜ?』と言う顔をし、ディックが俺に言う。
「ディケム、学生の記録が八階、その八階で俺たち余裕がある。 なら新記録に挑戦したいじゃないか!」
おれは首を振る。
「ディック、格段に力が上がったのは、マナを無理矢理注ぎ込んだからだ。 だが…… これは強烈なドーピングだから、どれくらい体に負担がかかり、反動がどれくらい来るか分からないんだ」
三人がギョッとする。
「今日のこの程度で、明日、体に来る負担を確認したい」
『なるほど』ディックが納得する。
「慌てなくても、すぐに九階以降に行くし、マナ強制供給もやめる気はない。 昔、鑑定の儀の時にウンディーネに言われたよな、マナのラインを生かして、俺たちの力を何倍にも出来ると。 だから、マナラインの使い方として間違っていないと思うんだ。 そして、二人が俺の精霊と繋がりやすくなる方法でもあると思う。 さらには、俺たちのパーティーの成長速度を格段に上げられるはずだ!」
ララが理解していない顔をしている。
「ララ、人の限界は自分で決めているんだ。 百の力しかないと思っている人は百しか出せない。 だけど、このマナブーストは強制的に百五十%を体験させてしまう。 そうすると、肉体が勝手に百五十%に合わせようとするんだ。 方法は違うけど、すこし邸宅の訓練施設にある固有結界に似ている」
「なら、私たちは訓練場に行かなくても、普通よりも格段に早く成長できるの?」
俺は少し困った顔で言う。
「そうなんだけど、こっちは強引なドーピングだから…… 体に負担が来ると思う。 明日は皆、筋肉痛を覚悟しておいてね」
三人がげんなりした顔で頷く。
俺たちがダンジョンから出ると、皆が目を見開き驚いている。
ダンジョンに入る前は鉄の装備だったのが、出てきたら全て鋼装備になっているのだ。
それは、効率を考えても俺達がもう八階層近くまで到達したことを想像させる。
「明日からは、記録更新していくよ!」
俺が言うと三人とも気合を入れて頷いた。




