第四章3 戦士学校の初めての摸擬戦
四人でそれぞれ好みの武器を選んで、摸擬戦で試す。
他の生徒たちがみな俺たちの事を見る。
⦅なんで?⦆
そして、このクラスのリーダー的な生徒から摸擬戦の申し込みを受ける。
「ソーテルヌ卿、私はギュヴェンと申します。 先の戦いでのあなたの戦いに感動しました。 憧れていたあなたと、模擬が出来るこの好機、ぜひお相手願いたい!」
『ギュヴェン』と言う騎士見習いから模擬を申し込まれた。
う~ん。 これはちゃんと言っておかないと反感を買うパターンだな。
「ギュヴェン、摸擬をするのは構わないのだが、一つ怒らないで聞いてほしい。 今回我々は次のステージに上がるためにここに来た。 だから自分たちに色々な枷を付けている。 その一つに、俺は刀を使えない。 けして君たちを見下しているのではない。 それほど我々も切羽詰まっているという事だ」
生徒達が皆息をのむ。
「今回おれはタンク役として参加させてもらう。 むしろ君たちにご指導願いたいんだ。 それでもいいのなら、摸擬戦を受けよう」
生徒達は少し残念な顔をしたが……
「それでも私は貴方と剣を交えてみたい。 あの戦争では誰もが怖気づき、戦場に向かえなかった。 なのに貴方は誰よりも早くあの戦場に向かった。 貴方のその胆力を模擬を通して私は感じてみたい!」
『良いだろう』と俺は笑って答える。
「あ、それからここは学校だ、ディケムと呼んでくれ」
俺たちは、ギュヴェンのパーティーと向かい合い、模擬を開始する。
開始直後、剣士担当ギュヴェンの突きが来る。
俺はいつも刀で、相手の攻撃を受け流して戦っている。
だが、タンクではメンバーを守るために、攻撃を受け止めなければならない。
ッ――ガッ!
その衝撃で、体制を崩され、俺は後ろに後ずさる――。
その隙に、ギュヴェンは後方のララに襲いかかる。
俺はすぐさま、体制を立て直し、ララとギュヴェンの間に体を滑り込ませガードする。
パーティー戦では、ヒーラーを最初に仕留めるのがセオリーだ。
回復支援が無くなったパーティーは、じり貧になる。
その後もギュヴェンの剣撃を盾で受けるが、体制が崩れてしまい、後方メンバーを危険にさらす。
ただ、スピードには自信がある、すぐ立て直しリカバーする。
これを数度繰り返し、だんだんとコツが掴めてきた。
やはり学生の模擬、戦場ではこの一回の隙が命取りになる。
俺は戦場での緊張感を維持し、どうすれば良いかを瞬時に考察して素早く修正していく。
盾で正面から素直に攻撃を受けると衝撃を直接受けてしまい体制が崩れる。
だから、盾の一番力が入るポイントで剣を受け、力を流すのではなく、弾くのでもなく、吸収し受け止める―― そして押し返す!
盾と剣では重量が違う、盾で押し返されると、相手は体制を崩す。
そこを、ディックの槍が突く。
よし! 良い感じだ。
相手の弓は申し訳ないが、俺には止まって見える。
全て剣で矢を叩き落とし、ギュヴェンの剣を盾で受け止めて、そのまま後ろのヒーラーに突き飛ばす。
相手パーティーの陣形が崩れた隙に、ララの矢が相手のヒーラーを穿ち、ディックの槍がギュヴェンを突く!
残った相手のナイフ使いを俺が盾で押し倒し、剣を首に当てて終了。
『ふぅ~』何とか勝てた。
会場は拍手が起こり、ギュヴェンも立ち上がり礼をして言う。
「さすがです、摸擬戦の中で盾の使い方を学んで、成長していくさまが分かりました。 やはり一つの武器を極めていると、他の武器を使っても、応用が効いてくるのですね!」
たしかにそのようだ、俺も頷いておいた。
するとドーサック先生から一言。
『ディケムの戦いを見たな! なにが良かったと思う?』と生徒達に問う。
一人の女生徒が『卓越した剣裁きです!』と答える。
だがドーサックは『それもあるが、一番特筆するのは、その緊張感と修正力だ!』と答えた。
皆が『え?!』と言う顔をする。
おれも『へ~』と耳を傾ける。
ドーサック先生は説明する。
「ディケムは初めての盾で使い方が分からず、二度三度体制を崩された。 ギュヴェンはその隙を生かせなかった。 戦場では一回の隙が死につながる。 ディケムは戦場のような緊張感と集中力で、この失敗を修正していった。 そしてギュヴェンは、もうディケムの体制を崩す事も出来なくなった。 いや、ギュヴェンは考えることを止めていた。 これが今回の勝負の差だ!」
皆が息をのむ。
「ディケムの盾は素人、ギュヴェンは使い慣れた剣、技術では勝てるのが当たり前だった。逆の結果になったのは二人の戦場で戦った経験の差だ。 戦場では、自分の武器が奪われたり壊れたりする、その時に近くにある武器で対応する時が多々ある、それを肝に銘じておけ!」
『はい!』 生徒達が皆返事をする。
今回俺も非常に勉強になった、タンク役の重要性をヒシヒシと感じた。
俺のパーティーに、剣士候補はカミュゼが居るがタンク候補が居ない。
この機会に、良いタンクを見つけないとな。
昼食の時間、俺たちはギュヴェンと一緒に食事を共にした。
そこにカミュゼも加わり、今度の剣闘大会『グラディアトル』について話した。
俺達も多少の知識はあるが、きちんと知っておきたい。
大会では自分の好きな武器を使っていいらしい。
もちろん伝説の武器を使っても良い。
魔法も道具も何でもあり。
禁止事項は、あきらかに相手を死に至らしめる攻撃。
闘技場には治癒魔法と防御魔法を組み合わせた高度な魔法陣が組み込まれている。
ダメージは軽減され、致命傷は瞬時に治るようにできているらしい。
滅多な事では死なないというが、その為この頃のグラディアトルはとても過激になったらしい。
次に大会で使う武器、防具、道具の入手方法だが、もちろん買ってきてもいいが、基本学生はお金が無い。
そこで学生が装備をそろえるための方法が、この戦士学校の地下にある『迷宮』だ。
なんとこの戦士学校の地下には『迷宮=ダンジョン』が有るらしい。
そこは、学生の訓練場でもあり、レアアイテムを集める場でもある。
国家指定のダンジョンだが、学校が管理を任されており、学生以外は基本立ち入りを禁止されている。
なので荒らされていなく、レアアイテムを入手しやすいそうだ。
だが、本物のダンジョンなので、入る前は登録を済ませ、攻略スケジュールを提出する。
スケジュール通りに戻ってこない場合は、先生や冒険家、軍に頼み捜索隊が出るそうだ。
そして、まれにレア種の魔物が沸き、討伐隊が出動する場合もある。
数年に何人かは帰らない事もあるらしい。
危険はあるがここは戦士学校。
お金は無いがダンジョンを恐れる学生など居ない、皆ここで装備を手に入れるそうだ。
そしてこの学校のグラディアトル参加者の事も教えてくれた。
大会はチーム戦、チーム人数は四人と決められている。
年齢制限は無いので、やはり最高学年の四年が強いらしい。
今年の優勝候補本命は四年、『鉄壁のコルヴァス!』 去年三年生にして優勝した猛者なのだとか。
コルヴァスの担当はタンク、鉄壁の名の通り、昨年は誰も彼の盾を抜くことは出来なかったそうだ
そして他にも――!
剣豪ドルジャ、俊足トプハネ、剛力カヴァクリデ、必中ヴィニコル。
この四人が、次点での優勝候補らしい。
なんだ…… この二つ名は! ……ハズカシイ
『うっ!』俺にもアルザスの奇跡とか言う、二つ名有った…… ヤバイ恥ずかしくなってきた!
『やばい! おれも二つ名欲しい!』 っえ! ……ディック嘘だろ?!
『私も~』 っえ? ララまでも……
俺だけか? 俺だけ感性が違うのか?!
「ララさんは、ゴーレムマスターと言われていますよ!」
あ…… ララがちょっとシュンと落ち込んでいる。
「も、もう少し可憐な二つ名が良かったな……」
そんなララにディックが追い打ちをかける。
「ララの姿したゴーレム、敵軍の中で暴れまくって怖かったからな! もうゴリッゴリだったぞ!」
『ゴリッゴリ言うな――!』 ララが怒った……
ギュヴェンが聞いてくる。
「ララさんは、大会であのゴーレム使うのですか?」
それには俺が答える。
「カミュゼは知っているのだけれど、この前俺が言った自分たちに枷ってのは、ディックとギーズを覚醒させる為なんだ。 だから俺とララは力を抑えなければならない。 ちょっとララのゴーレムは、力的に反則だから使わせない」
『だよね……』とララが呟く。
「だけど…… 俺たちは先生から、戦士学校で魔法の有用性も示して来いと言われている。 だからララは、ゴーレムは使わなくても、月の精霊ルナの魔法は積極的に戦略に組み込んでいく予定だ」
『ほぉ~』とギュヴェンは興味深そうに聞いている。
『しかしカミュゼ……、グラディアトルの注目株に、お前なら入っていると思ったのに、どうした?』とディックが聞く。
『グッ………』カミュゼが顔をしかめる。
そして、ギュヴェンがカミュゼを擁護する。
「カミュゼも頑張ったんだよ、一年では一番検討したんじゃないかな。 でも、学生の一年一年のレベルの差はとても大きい。 カミュゼは結局、コルヴァス先輩に敗退した。 いつもは四年生が順当に勝つのに、さっき言った五人は化け物だった。 十年に一度とか百年に一度とか言われる人達だよ」
なるほど…… さすがに、大会優勝は難しそうだな。
「ま~、俺達は最初の一歩を踏み出したばかりだからな」
『うん』とララが答える。
「まずは俺達、何も装備持ってないから、装備集めから始めないとな!」
『えっ! 装備集めから始めるの?』ギュヴェンが驚く。
「あぁ、俺たちの装備全部禁止と言われている……」
ギュヴェンが恐る恐る聞いてくる。
「その、ディケム様に指示できる先生って誰なの?」
「ウンディーネ先生だよ、俺たちをいつも導いてくれる」
ギュヴェンが目を見開く。
「上位精霊様か! そりゃ断れないよね……」
『ウンウン』 みなが頷く。
「じゃ~今日の授業終わったら、まずはダンジョンに行ってみよう!」
『おう!』 俺たち四人は最初の目標を決めた。




