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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第三章 アールヴヘイムの六賢者
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第三章30 幕間 平民トウニーはへこたれない

ララの白魔法お友達、トウニー視点になります。


 私の名はトウニー、シャンポール王都で暮らす平民の娘。


 私の家はシャンポール王都で、宿屋をやっている。

 宿屋と言っても高級宿屋ではなく、一階が酒場になっている冒険者宿屋だ。

 だから王都の平民の基準では、中流より貧しい家の生まれになる。


 こんな極ありふれた平民生まれの私の人生は、人との出会いで大きく変わり、平凡とはかけ離れた、刺激的な毎日に変わった。



 平民の娘、そんな私が貴族令嬢のマディラ、ポートと知り合い仲良くなれたのは、週末に家族で通う教会のミサがきっかけだった。

 偶然にも三人とも、白魔法師の才能だったことも大きい。

 三人は直ぐ仲良くなり、親友になり、最大のライバルにもなった。


 戦争下の激動の情勢で、ポートの家が廃爵になったり、三人の父親が皆、アルザス戦役で大怪我をして帰ってきたり、色々辛い事もあったけど私達の友情は変わらなかった。



 そんな私達に次の転換期が訪れる、それもまた教会での出会いだった。


 魔法学校に入学するために王都に来たララとの出会い。

 彼女も教会で出会い、同い年、同じ白魔法師、同じミドルヒールの練習中。

 私達は直ぐに仲良くなった。


 そして驚きの真実がわかる。

 ララは私達が憧れてやまないソーテルヌ伯爵様の幼馴染。

 一緒の屋敷に住んでいると言う。


 ララの伝手で、ソーテルヌ伯爵様の屋敷に出入りするようになる。

 そこの訓練場では、王国騎士団の方々や、精霊使いの人たちの訓練が行われ、私達も一緒に訓練をさせてもらう事になった。

 学生の身分で、王国騎士団の騎士様や精霊様に教えてもらい、マナが豊富な練習場での訓練は上達も早い。

 選ばれた人たちの特別訓練に参加させてもらっている感じだ、本当ララとの出会いに感謝している。


 それから、神木の枝を貰ったり、精霊ルナ様の水晶を貰ったり……

 本当だったら凡人の私なんかが一生経験できないような貴重な体験をさせてもらった。



 そして先日、ソーテルヌ閣下がご自分直轄の精鋭部隊を編成すると発表された。

 『ソーテルヌ王都守護総隊』その側近に私の名前が上がる――。


 ここまで友達との出会いだけで、幸運をつかんできた私。

 少しでも選択が違えば、ここに居るのは私では無かったはず。

 そう、私は自分の実力でここに立っているんじゃない。

 マディラやポートのように、実家の後ろ盾がある訳でもない……


「あ、あの…… 私はただの平民で…… 侯爵様の側近には相応しく無いかと思います」


 流石にここから先は、幸運だけでマディラ達に付いていくのは無理だ。

 緊張で震えて途切れそうな声を絞り出し、ソーテルヌ様に進言したけど……


 ソーテルヌ様から返された言葉は『お前の実力を認めている――』だった。


 私の実力を認めてくれての抜擢…… 本当にうれしかった。

 もし実力不足で直ぐにクビになっても良い、この頂いたチャンスにマディラ達と一緒にチャレンジしてみたい! 私はそう思ってしまった。


 私は心の中で⦅止めておけ⦆という理性の声とは裏腹に、『お役目受けさせていただきます』と声を出していた。



 ソーテルヌ閣下より、総隊の証『徽章』を渡される。

 側近の徽章は★三、フィノやメリダのようにその部隊の責任者と同じ星の数……


 側近の主な仕事は、ソーテルヌ閣下の部隊運営、事務仕事や王城の宰相とのやり取りになる。

 側近は一つの部署ではなく、全部隊の調整をする潤滑油のような職だ。

 各部隊の様に専門に特化していない分、逆に全部隊の仕事もする何でも屋だ、その仕事は多岐にわたる。

 その為、調整役の側近の地位が低いと、誰も言う事を聞かず、何も出来なくなってしまう。


 側近職には――

 ・『ソーテルヌ閣下の名大』

 ・『★三以上の地位』

 という破格な特権が与えられている。


 徽章を渡されるとき…… マディラの手が震えているのが見えた。

 分不相応だと緊張していたのは私だけじゃ無かったみたい。



 軍人は、所属部隊が決まった者は、自分がどこの部隊に所属しているのか、一目でわかるよう、間違いが起きないように徽章を付ける義務がある。

 学校でも上級生の先輩には、すでに騎士団入りを決めている先輩方がいる。

 その先輩方は自分が将来どこの部隊に行くのか分かるように、制服に徽章を付けている。


 付ける事が義務なのだが……

 まだ学生のうちに、自分の所属が決まれば誰でも嬉しくなる! 皆に自慢したくなる!

 口で言えばただの嫌味になるので、皆自分はこの隊に入ることが出来たとアピールする為、学生は率先して徽章を付けていた。



 もちろん私達も初めてもらう徽章、嬉しくてすぐに学校の制服に付ける。

 才能あふれる同僚たちには、徽章はただの所属識別ツールなのかもしれない……

 でも私には、この凄い同僚たちと一緒に働ける証、掛け替えのない宝物に思えた。

 

 訓練が終わり、マディラ、ポートと一緒に家路を急ぐ。

 同じ徽章を一緒に付けている事で、いつもと違い一体感を感じ、歩きなれた帰路も嬉しくて仕方がない。 三人で笑いながら帰った。



 自宅に着くと、いつも通り一階の酒場に顔を出す。

 うちは宿屋だけど、夜は酒場が大賑わい、父さんも母さんも酒場の切り盛りに大忙し。

 私も酒場の手伝いをするようにしている。


「トウニーおかえり、今日はレイシート様が見えてるよ。 息子さんのコルヴァス様も一緒だよ」


「コ、コルヴァス様が!」


 レイシート様は騎士爵の貴族様、でも昔からこの冒険者が集まるうちの酒場をご贔屓にしてくれている。 

 御子息が三人いて、たまに息子さんも連れて来られることがある。

 でも、エルフ戦の後から、一番下の御子息コルヴァス様がこの酒場に一緒に来るようになった。

 コルヴァス様は今年戦士学校四年生の学生、昨年三年生にして剣闘大会グラディアトル大会に優勝されたのだと聞いた。


 コルヴァス様がここに来る目的は、ディケム様の情報収集、エルフ族との戦いでディケム様に心酔したのだとか。


 正直私はコルヴァス様を素敵な方だと思っている。

 たとえ目的がディケム様だったとしても、会えるだけでうれしい。


 でも今は…… わたし訓練で汗くさい今はお会いしたくない! なのに――


 『っお! トウニーちゃん、見たこと無い徽章つけてるけど、どこかの部隊に入れたのかい?』と常連の冒険者に絡まれる。


 すると…… すごい勢いでコルヴァス様が私に向かってくる――!

 ⦅キャ――! 汗くさいから来ないで!⦆

 そんな乙女心を知りもせず、コルヴァス様は私の胸に付けられた徽章に食い入る……


「トウニー! この徽章はソーテルヌ閣下の部隊じゃないのか! 閣下の紋章にそっくりだ!」


「は、はい…… 今日頂いたばかりなのによくご存じですね……」


 『あれ?』なぜか酒場が一気に静まり返る。


「ト、トウニーは、ソーテルヌ閣下の精鋭部隊に入れたのか?!」


 酒場がざわめく………


「は、はい…… 今日呼ばれて側近に任命されました」


「そ、側近! ★三だと……」


 『おぉぉぉぉぉ―――!!』ソーテルヌ侯爵様の部隊と聞き、酒場は大盛り上がり。

 だけど…… コルヴァス様は固まって動かなくなった。


「おぅ女将さん! トウニーちゃん大出世じゃないか! 先日発表されたソーテルヌ閣下の精鋭総隊に入るなんて、今一番誰もが入りたいと願う、憧れの部隊だぜ!」


 酒場中のお客さんが、私の『徽章』を一目見せてほしいと押し寄せた……

 ⦅お願い…… わたし今汗くさいから近寄らないで――!⦆



 『それでトウニー、いつも一緒のお友達も一緒なのかい?』と母さんに聞かれる。


「うん、マディラは私と同じ側近、ポートは精霊部隊で、ララは出世しちゃって近衛隊だって、でもみんないつも通り一緒だよ」


「そうかい、それは良かった。 あんたはお友達に助けられて来たからね、大切にしなよ」

「うん」



 その晩は、店の手伝いどころでは無かった……

 私の周りに皆が集まり質問攻め。

 でも、コルヴァス様と沢山話せたのはうれしかった。




 そして翌日、いつものようにマディラ達と待ち合わせて学校に向かう。

 三人共、胸に徽章をつけている事に一体感を感じ、嬉しくて浮かれながら学校に登校した。


 だけど…… まさかあんな、大変なことになるとは思いもしなかった……


 正直私達は、ソーテルヌ閣下が、直属の精鋭部隊を編成する事の意味を理解していなかった。



 どこの軍属に入れるのか、それは魔法学校にしても戦士学校にしても、軍学校の生徒にとって最も重要な事。

 今まで生徒たちの一番の目標、憧れは騎士団第一部隊に選ばれる事だった。

 第一部隊に入れるのは、一学年で一人出るかどうかの狭き門。

 出生が貴族ではない平民では、騎士団にすら入れる事がまず難しい。


 そしてソーテルヌ閣下はこの軍には所属していない。

 王都守護職位は軍のさらに上の役職になるが、自分の軍隊は持っていなかった。

 そのソーテルヌ閣下が自分の精鋭部隊、総隊を編成すると発表したのだ。


 私は知らなかった、この発表後、学生……いやすでに騎士団に入隊している騎士ですら入りたいと憧れる部隊が、ソーテルヌ閣下の部隊になっていたことを。


 冷静に考えればそうだよね……

 アルザス戦、メガメテオ、エルフ戦、解決したのソーテルヌ閣下だものね……

 たぶんディケム様が居なかったら、もう人族滅亡してそうよね。



 通学途中で少し『あれ?』と思ってた…… 妙に視線を感じるなと。

 学校に入ると、その視線はあからさまになり、教室に入ると皆に囲まれもみくちゃにされ、質問攻めにされた。


 なぜか私だけ囲まれても質問攻めになる、そして私は気づいてしまった……

 この白魔法クラスで……

 ララとポートは精霊使いで皆も納得している。

 マディラは貴族……

 平民で何も無いの私だけ――!


 そりゃ『お前がなれるなら自分も――』ってなるよね。




 特出した才能も、後ろ盾も何もない私だけれど、努力だけは誰にも負けない。

 この徽章に負けない、同僚の恥にならない人材になって見せる。




これで三章は終わりです。

次回からは、第四章突入です。

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