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第一章10 鑑定の儀1


 そんな訓練の日々を過ごし八歳の誕生日を迎えた。



 現在俺が維持できる水球はウンディーネとは別に二個だけ。

 水球は常に自転しているが自転することをやめれば、体の周りを常に回す事もできる。

 水球が体の周りを回っているのはみんなの評判も良くカッコいいのだが………。

 正直言って邪魔で日常生活に支障をきたすので、問題ない場所以外では静止して自転させることにしている。


 ちなみに圧縮をやめ静止する状態だけならば、五個まで水球を作ることに成功している。



 そして今日は村の大イベントである鑑定の儀を迎えた。


「父さん、母さん、そんなに緊張しないでよ」

「だってお前、今日は運命の鑑定の儀だぞ! 緊張していないお前の方がおかしいだろう」

「俺の場合は、ウンディーネと契約した時点で、魔法使いだと思うよ」

「だから緊張しているんじゃないか! このサンソー村から魔法使いなんて排出したことないんだぞ!」

「そうよ! 魔法使いの能力(スキル)だったら四年後に王都の魔法学校に入学できるのよ! それに魔法使いの能力(スキル)持ちが排出された村とその家族には、国からの恩賞金が出るんだからそれくらい凄いことなのよ」

「俺は...王都なんか行かないで、父さんと母さんと一緒に暮らしたいけどね」


「……………」「……………」


「ディケム...お前の言葉はうれしいけれど、大きな力はより多くの人々を救うために有るんだ。 家族よりももっと多くの人族全員のために使ってほしい。 お前の力はそれほどに大きな力だと父さんは思っているぞ...」


 俺は大きく頷いて『わかった』と一言だけ言って、家を出た。


「なかなかに、いい両親を持ったようじゃな」

「あぁ...俺にはもったいない両親だよ」


 ウンディーネと話しながら、いつもの集合場所に向かう。

 そして、幼なじみ四人組で集まり鑑定場所の教会に向かう。



「ディックはなんの能力(スキル)だと思う?」

「俺はやっぱり戦士だろ!」

「いやー戦士とかレア能力(スキル)だろ? ギーズは?」

「僕は今のところ何の才能も感じられない。鑑定結果で将来を導いてもらうよ」

「そうか………、 ララは?」

「私は修道士系の能力(スキル)だと嬉しいのだけど無理よね~、村から魔法使いの能力(スキル)が排出されたこと無いもんね、そう言うディケムは?」

「俺は魔法使い一拓でしょ!」

「たしかに今さら剣士とか言われても困るよね? ならディケムが初めてサンソー村から出た魔法使いになるんだね!」

「そうだな~結構剣術も自信があるけど、いままでのウンディーネとの特訓は活かしたいよな~」



 四人で話しながら鑑定の儀の会場にたどり着く。

 村の大イベントと言っても人口二〇〇人未満の小さな村だ。さらに今年ちょうど八歳の子供など一〇人に満たない。


 会場の教会には子供の人数に対して、異常な数の大人たちが待っていた。


「なにこの大人の数、怖いんだけど………」

「ララ、鑑定の儀はこの村だけじゃないからね。鑑定師と護衛の人たちは一年かけて国中の村や町を回って子供たちの能力(スキル)を調べなければいけないんだ」


 鑑定師や護衛の兵士を見て目を輝かせてギーズが説明してくれる。

 ギーズは気が弱い性格のなのに、王国騎士団マニアだ。

 俺たちにあの紋章は何家、この騎士団は何部隊とか話してくれる。


 ギーズの説明で分かったのはこの鑑定の儀の護衛に、王国騎士団第一部隊が当っていると言うことだ。

 第一部隊は王の懐刀で騎士団の第一部隊から 第十二部隊までのエースナンバーだ。

 ギーズは騎士団第一部隊を見られて、興奮して喜んでいるが俺はどうしても解せない。



 鑑定する子供の列に俺達も並ぶ。

 鑑定は一人ずつ天幕に入り鑑定師、護衛騎士、子供の三人で行う。

 密室で行われるのは自分の能力(スキル)を他の人に知られたくない人への配慮なのだとか。

 俺にはレア能力(スキル)が出た時に、軍が情報を隠ぺいする為にとしか思えない。


 子供の数が少ないのですぐに俺の順番が回ってきた。

 俺は天幕に入り鑑定師と護衛騎士を見る………。

 鑑定士が俺を見て、と言うより俺の肩に座っているウンディーネを見て目を見張っていている。


「実体を顕著させている精霊様を初めてみたよ。君凄いな!」


 そう鑑定師の後ろに控えている騎士がいきなり話しかけてくる。

 俺が少し驚いていると………。


「あぁ、突然申し訳ない! 私は王国騎士団第一部隊を任されている『ラス・カーズ』だ。 不本意ながら将軍などをやっている」


 王の懐刀、王国騎士団第一部隊を率いる将軍? そんな身分の人が鑑定の儀で護衛などするはずがない。


「自惚れが過ぎるかもしれませんが……… ラス・カーズ様は明らかに俺を狙い撃ちで調べに来ましたよね?」


 ラス・カーズ将軍はニヤッと笑い、俺を値踏みするように見る。


「八歳にして聡い子だ。 君はこの会場に来た時から警戒を高めていたようだし、その状況分析力はとても素晴らしい。すぐにでも軍に来てほしいほどの逸材だ」


 そう言いながら、ラス・カーズ将軍は俺の前に歩み寄る。


「少しだけ、場所を移して話を聞かせてくれないか? 君の身の安全と、話した内容はたとえ王にでも秘密にすると騎士の誇りにかけて誓おう」


 俺はラス・カーズ将軍の目を見て、嘘がないことを確信し了承する。

「別ににそこまでして頂かなくても良いですよ」


 俺はラス・カーズ将軍の後をついて歩き、鑑定用のテントの裏から出て別のテントに移動した。他の人目には付いていないようだ。


 別のテントには椅子が二つあり、俺とラス・カーズ将軍は向き合って座る。


「ディケム君だったね。 不躾で悪いが、君のその肩に乗っているのは精霊様で間違い無いか?」

「はい、水の精霊です」


 ラス・カーズ将軍の表情が緩む。

 ラス・カーズ将軍の笑顔は長い間探していたものを見つけたような嬉しさを隠し切れない、そんな表情だった。


「ディケム君、その精霊様には自我はあるのか?」


「え………?」


「いや悪い。たまに高位の魔法使いが、マナが強い場所で『珠』のような妖精らしきものから、魔力をもらうところを見たことが有るのでな」


「お主、妾を下級精霊と一緒にするとはいい度胸じゃな! 妾は四大精霊が一柱、水の上位精霊ウンディーネじゃ」


「――おぉ...これは上級精霊のウンディーネ様! 大変失礼致しました。 今までのやり取りで一切お言葉を聞けなかったものですから」


 ウンディーネとラス・カーズ将軍との会話のさなかでウンディーネからの念話がくる。


 (ディケムよ、われら精霊のことは良いが大いなるマナの本流とラインを繋いだことは絶対に誰にも言うな! 特に国に知られたらお前や、お前の関係者全て軍に拘束されて自由が無くなると思え!)


 ッ――っな! なにそれコワい!!


「ラス・カーズよ、オヌシ初めからディケムの事を知っていたな? と言うより、ディケムを品定めする為にこの村に来た……… と言った方が良いのかの?」


「これはウンディーネ様、ご無礼いたしました。 いかにも私はその少年、ディケム殿に会いにこの村に来ました」


 やっぱりそうだったのか...。でも俺を見る為にわざわざ王国騎士団第一部隊の隊長がくるのか?


「この鑑定の儀の前に、ロワール地方のサンソー村で精霊ウンディーネ様が顕現(けんげん)されたと王都で噂を耳にしたのです。 正直、上位精霊様の顕現(けんげん)など二千年以上前に有ったという定かではない夢物語」


 ウンディーネの存在は村ではみな周知の事実だったが、まさか王都まで噂が広まっていたとは。

 それにしても二千年ぶりの顕現(けんげん)って………。


「眉唾で少し調べてみると、信じられないほど簡単にウンディーネ様とディケム殿の情報がたくさん集まりました。 いつでもディケム殿の肩に乗っているのを見かけると。 さすがにそれは言い過ぎだろうと、鑑定の儀に同行させてもらいましたが………、 噂は本当でした」


 なぜだろう………、なんかとても恥ずかしくなってきた。

 話を聞いていると『二千年ぶりにやっと顕現した貴重な精霊様を、用心もしないで肩に乗っけて歩いているアホの子』みたいに聞こえる。


「それで? ディケムと妾を確認したオヌシは何をしたいのじゃ?」


「いまのディケム殿を見る限り精霊様の力に耐えうる器作りの期間、とお見受け致します」


「ま~そうじゃな」


「鍛えるのでしたら王都の恵まれた環境で行うのはどうでしょうか?」


「それは、早々に囲い込みたい! と言う事じゃろ?」


「………正直、それも否定できませんがそれだけではないのも本当です」


「才能・能力によって学校に行かなければならない義務が発生するのは、今の王国法では十二才からのはずじゃぞ? さらに言わなくてもわかっていると思うが、戦争に行く義務は十六歳からのはずじゃ」


「はい、すべて承知しております。 ――ですが! それほどまでに人族には余裕がないと言う事です」


 ラス・カーズ将軍はとても苦しそうに今の人族の状況を話す。

 だけれども、その苦しそうな表情は理由がそれだけではないのだろうと察せられる。


「もちろん! だからと言ってまだ成人もしていない少年に非人道的な対応は致しません。 それは王国騎士団第一部隊将軍の誇りにかけてお約束いたします」


「だそうじゃディケム、いい環境で訓練は出来るそうじゃが、十六歳前に戦争に駆り出される事も考えてお主が決めるのじゃ」


 そして、ウンディーネが俺を見て俺に言い聞かせるように語った。

 だけどその言葉は、ラス・カーズ将軍にも聞かせたかったのだと思う。


「よく覚えておきなさいディケムよ、契約を交わした今、妾の精霊の力は全てお前の物になった。 お前がどこに進もうと妾はお前のために動く。もしお前が悪魔落ちしたとしても、妾はお前の為だけに有る存在なのじゃ。まだ分かってはいないと思うが妾の力は強大じゃ、道を間違えればこの国をも滅ぼすと知れ」


「ラス・カーズよ、出しゃばって妾が話してしまったが、先程ディケムに言った通り妾はディケムの為だけに有る存在じゃ。 今後は妾を説得するのではなくディケムと向き合い話すのじゃ」


「ウンディーネ様、ご忠告感謝いたします」


「ディケム少年、先ほどの話を聞いてどうだろうか? 私は自分がこの目で見て判断して、君を誘っている。 私の名誉にかけて君の待遇を保証しよう」


「あの……… 俺は今日、鑑定の儀に来ただけで急に話が大きくなってしまって、正直考えがついていけていません。 両親とも友人とも相談しないと今はちょっと決められません……… ごめんなさい」


「ハッハッハッ それはそうだな! すまない俺が焦って話を急ぎ過ぎた。 まずは鑑定を済ませてご家族に報告をして、じっくり考えてくれ」


 ラス・カーズ将軍は俺が断っても快く納得してくれた。

 軍の人は皆もっと強引なのかと勝手に思っていたけれど、ラス・カーズ将軍は信頼に足る人だった。


「俺はしばらくこの村に駐留することになっている。 はなからすぐには返事をもらえるとは思っていなかったからな。 それに君のような子供がいると言う事は、才能を持った子が他にも居るかもしれない。 嘘だと思うかもしれないが才能を持った者は何故か集まるものなのだよ」


「マナの関係じゃな」


「――! そうなのですか!?」

 ウンディーネのつぶやきに、ラス・カーズ将軍が驚く!


「マナの流れが良い場所は精霊も集まるし人の才能も伸びやすくなる。 悪く言えばマナを求めて悪霊も集まる。 良い事も悪い事も、色々な出来事がマナの濃い場所には起こるのじゃ」


「なるほど………。 と言う事は、サンソー村はマナが豊富な土地と言う事ですかな?」


「そう言う事は秘密なのじゃ」


「かしこまりましたウンディーネ様、今の話は私の心の中だけにしまっておきましょう」


「うむ」


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― 新着の感想 ―
[一言] 才能の有無が土地に起因するのに、それでも今まで魔法使いが生まれなかったのはまた何か別の布石なんだろうか。
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