第三章25 魔神族ラフィット将軍の謀
ララと二人、舞踏会を早々に抜け出し俺達は自宅、ソーテルヌ邸に帰ってくる。
毎度のことながら、邸宅のプレートは既に『ソーテルヌ侯爵邸』に変わっている。
⦅これ…… どういう仕組み?⦆
門を潜ると、使用人たちから『侯爵』陞爵の祝福をされる。
皆にお礼を言って、両親宅の方へ向かう。
今夜は、家族と幼なじみだけでの祝賀会をする事になっている。
俺だけではなく、ララが貴族になったお祝いでもある。
自宅のドアを開けると―――
「ディケム侯爵おめでと~! ララ騎士爵おめでと~!!」
皆が一斉に祝ってくれる。
俺の家族、父アラン、母フィロー、弟ダルシュ
幼馴染、ディック、ギーズ、ララの妹ルル
⦅ん……? あれ? 一人多い……⦆
「ラ、ラトゥール? なぜここに?」
「ディケム様! 先ほどお父様とお母様にはご挨拶させて頂きました!」
「ッ――っな! いや、そうでは無くて………」
「ディケム様。 先ほどはララと二人きりでゆっくり………、 ずるいではありませんか!」
⦅っえ―――! 皆の視線が痛い!⦆
ララは真っ赤になって下向いている。
「ララだけ住むところが一緒など、不公平です――!」
「でも…… ほらラトゥールは、立場ある人だから―― アハハ」
「大丈夫です! 本国とシャンポール王と宰相には確認済みです! 好きにすればいいとの事でした!」
「な、なら…… まぁいいかな…… グハ」
ララに思い切り蹴られた!
突然ラトゥールが一緒に住むことになった。
「お父様! これが魔神族の皇帝、カステル様から頂いた秘蔵のお酒! さぁどうぞおためしください!」
「お母様! これはドラゴンを討伐したときに手に入れた宝石です。チョーカーにしてみました! どうぞお母様にお似合いだと思います!」
「弟のダルシュ君! あなたは剣士の才能だと聞きました。 これはお母さまに差し上げた宝石と同じドラゴンが持っていた盾です! 魔法が掛かっている盾ですから使いなさい。 まだあまり強すぎる装備は逆効果になりますのでこれ位が良いでしょう、もっと強くなったら次の装備をあげましょう」
⦅ラトゥールの家族への賄賂が凄い……⦆
家族みんな呆気に取られているけど…… それなりに嬉しそうだ。
特に父さんが、奇麗なラトゥールを見てデレデレになっている。
流石はラトゥール、すぐに場に溶け込み身内の心を掴んだようだ。
予定外にラトゥールも加わったが、場が馴染んだところで、いつも通りの身内だけの祝賀会が始まる。
すると…… 家ではウンディーネも表に出てくる。
「魔神族五将の一人ラトゥール将軍とは、なかなか凄い戦力じゃな、ディケム」
「いやウンディーネ、あくまで大使だから、戦力ってわけには――」
「いえディケム様! 建前は大使ですが、カステル陛下からは、嫁に行って来いと言われています! 帰る気などサラサラ御座いません!」
『………………』皆が絶句する。
「じゃが……、 最強種族の一角、魔神族は何を考えておる? 魔神族最強の五将、ラフィット将軍が死に、さらにまたラトゥール将軍が抜けては示しがつくまい?」
皆が『ハッ』としてラトゥールを見る。
「ウンディーネ様。 魔神族、カステル陛下と我々五将は楽しければ良いのです。 すべての種族を滅ぼせば、後に残るのは不毛」
ウンディーネがじっとラトゥールを見ている。
「…………。 かないませんね、ウンディーネ様。 ですがディケム様以外のこの方たちの前で話しても良いのですか?」
ウンディーネは頷いてこういう。
「このララ、ディック、ギーズはディケムとマナラインで繋がっている」
ラトゥールが目を見開く
「そして、その家族たちじゃ。 他言はせぬという事でどうじゃ?」
皆が頷く。
『しょうがない……』と言う顔でラトゥールは話し出す。
「魔神族が…… 『楽しければそれで良い』と思っているのは本当です。 ですが…… この世界の在り方に不満が有るのですよ。 全種族が殺し合い、最後の種族がこの大地を支配する。 そんな馬鹿げた話納得が出来ないのです。 色々な種族がいるから、多様性が産まれ、発展し、様々な楽しみが産まれる。 我らは『楽しければそれで良い』、なぜ他種族を殺し、つまらない世界を作らなければいけないのかと」
皆が息をのむ。
「そして私のディケム様は、この呪いの外に出られました。 あとは…… ウンディーネ様と考えている事は同じかと」
「お主たちは、マナの形が見えるのじゃな?」
「はい。 私たち魔神族のカステル陛下と五将は見えます」
ウンディーネが考え込み……、 ラトゥールは続ける。
「そして、この事を深く考えた時、疑問が湧いてくるのです。 本当にラフィット様は罠にハマって亡くなられたのか? 本当は違うのではないか? もっと重要な事に気づき、わざと転生されたのではないのか? 全ての記憶を取り戻した時に答えが見えるのではないか……? と」
『………………』皆が深刻な顔をしている。
「先ほど、ディケム様と踊ったときに、私は確信致しました。 いま…… ディケム様は、マナと繋がり記憶を取り戻している最中だと」
ウンディーネが驚愕な顔で、ラトゥールを睨む。
「ラフィット様と私が踊るときに、二人しか知らない『癖』、ディケム様は無意識でしょうがご存じでした」
⦅あの踊りで、そんなことまで……⦆
「ウンディーネ様、私たちは楽しければそれでいいのです。 これ以上の詮索は致しません、楽しくなくなりますから。 ただ、魔神族に害意は無い事はご承知ください。 そして私の望みは、ディケム様の望みを叶える事のみですから」
ラトゥールは万遍の笑みで、この話はここまでと強引に話を打ち切る。
「分かった。 これからは変な勘繰りは止めよう。 よろしくなラトゥール」
ラトゥールは頷く。
皆が、話の壮大さに思考が止まっている時、ラトゥールが……
「ちょっとララ! ディケム様とマナラインで繋がってるとかズルく無い?! 私もつながりたい~!」
いきなり緊張感が無くなった………
その後は難しい話は無し、みなでお祝いをし、舞踏会での話で盛り上がった。




