第三章23 ライバル宣言
ララ視点になります。
エルフ族との戦争で、私の功績が認められた。
なんとわたし『騎士爵』、貴族になったよ!
『きゃ~うれし~! ララ・カノン騎士爵だって! カノン騎士とか可愛くない?!』
まぁ~正直、内容はディケムにおんぶにだっこ、指示通りに動いたら誉められた。
でも、それでもうれしい。
謁見の間での、叙爵は緊張したな~。
ディケムとか、よくこんなところに十歳で来たよね!
そして憧れの舞踏会! 女の子ならみな憧れるよね!
もちろんドレスなんか持っていないから、ディケムが宰相様から借りてくれる。
こんなドレス着たことない…… 素敵!
そしていよいよディケムがカッコよくエスコートしてくれて、ボールルームへ。
『はわぁ~~ すてき~!』そこは夢にまで見た舞踏会!
『キャ~ すてき~!』見る人見る人みんな綺麗~~!
⦅ディケムはどうでもよさそうだ、やっぱり男の子よね~⦆
私が『キヤー キヤー ワーワー』していると、ディケムの周りに人が集まり出す……。
ルーミエ・ジョルジュ王子、ミュジニ・シャンポールー王子、ポマール・ボーヌ姫
コート・マルサネ王子……… 同盟国の王子と姫が続々といらっしゃった。
そしてすぐ後に……
留学中の帝国ヴォーヌ・ロマネ王子、共和国大統領令嬢グラン・モンラッシェ様もいらっしゃり、ここに合流する。
これは、さすがに私は一緒に居るの不味いわよね……。
私は静かにディケムから離れて周りを見渡すと、壁側にポートとマディラを発見!
学校のエミリア先輩も一緒にいるみたい。
『ごきげんよ~』私はあいさつする。
『まぁ ララごきげんよ~』『騎士爵の叙爵おめでとう御座います!』
顔見知りと舞踏会で合うと何か新鮮だ。
「それはそうと、ちょっとララ! ソーテルヌ侯爵にエスコートしてもらうとか、すごく目立ってたわよ! 羨ましい!」
「え? なにそれ コワイ……」
「なにって…… 今回の戦争終結の立役者じゃない! 各国の王子、姫も真っ先に自分達から挨拶行くんだもの、格の違いが誰にでも分かりますわ」
「舞踏会の入場にエスコートされることはステータスなの! その注目のソーテルヌ侯爵にエスコートされただけで、ララの価値がグググッと跳ね上がったわ」
「ララはディケム様の近くに居すぎて、そこら辺の感覚が狂ってるわよね!」
「そうそう、ディケム様にもっと優しくして差し上げないと、すぐ捨てられてしまいますわよ!」
「うぅぅぅ…… 捨てられるも何も…… まだ何も始まっていませんから」
「え! 嘘でしょ! あれだけいつも一緒に居るのに、何も手を出していませんの!?」
「手を出すって! 私から?!」
「当たり前じゃないですか! 既成事実作った者勝ちですわ!」
「ララ! この社交場は女の戦場なの! どんな手を使ってでも手に入れた女の勝ちですのよ!」
「そうそう! 特に私達下級貴族は待っていても、ろくな男来ないから! 少しでも上の貴族を手に入れるのよ!」
⦅こ、怖い――! 社交場怖い――! 貴族怖い……⦆
そんな貴族ならではの女子トークをしていると……
会場が一気にざわめく。
そしてマール宰相より皆注目の合図がある。
「本日の特別な来賓客! この度設立された魔神族大使館の大使である、ラトゥール将軍閣下来場です! 皆さま盛大な拍手でお迎えください」
大喝采の中ラトゥール将軍が入って来る。
豪奢な黒と白を組み合わせたドレス、銀色に輝く髪を後ろで大きな黒のリボンで束ねている。
夜の舞踏会にしては露出が少ないが、その衣装が少ない露出された白い肌と端正な顔立ちを引き立たせる。
『………………』会場中が息をのむ。
そのあまりの美しさに、盛大な拍手は波紋の様に静寂へと変わる。
その宝石のような…… 無機物のような神秘的な美しさに、この場に居る全ての男を、いや女でさえ虜にした。
ラトゥール様はその美貌と魅力、存在感でこの舞踏会の主役を奪い全てを支配した。
その静寂に支配されたボールルームを、ラトゥール様は他の貴族や王族ですら存在しないかのように気にも留めず、ディケムの居る中央まで歩いて行く。
そしてディケムの前までくる………
ボールルームに緊張が走る…… みな固唾をのみ二人を見ている。
ディケムの前で止まったラトゥール様は突然、決して他国の大使は行わない礼節、片膝をつきディケムに最大級の敬意を示した。
会場中が息を呑み、みな言葉を失った。
「ディケム様、やっとあなた様のお側に参る事が叶いました。 あなたの為ならばこの命を賭して、どこの国であろうと滅ぼして御覧に入れます。 どうぞ私をお使いください」
⦅ちょっ! も、ものすごい物騒な誓いだった気がする………⦆
ディケムが声をかけるまで、ラトゥール様は傅いたまま動かない。
そしてディケムが声をかける。
「ラトゥール将軍、私はあなたにそこまで言っていただけるだけの、価値がある男か分からない。 だけど…… そうあるように精進するよ」
ディケムがラトゥール将軍の手を取って立たせる。
うっ…… なんだろう、すごくかっこいい………
⦅なんかムカつく―――!⦆
ボールルーム中央、ディケムが居る主要人物の集まりに、ラトゥール様も加わり、みな楽しそうに話している。
それを羨ましそうに見る、我々壁の花………
「もぅ~ カッコよかったわよね! ラトゥール将軍! ララは城壁戦の時に話してるのよね? いいな~」
「うんうん、ポートも一緒だったんでしょ?」
「うん。 ララのそばで聞いてたけど…… この人相手じゃ女として適わないってほどソーテルヌ侯爵の事を愛している感じ」
⦅胸がグッと痛くなった………⦆
「ソーテルヌ侯爵の前世で愛し合った二人、その最愛の婚約者を戦争で亡くし一〇年間ずっと探し続けやっと見つけた! そして今やっと、そのそばに仕えることができる。 たとえソーテルヌ侯爵が前世の記憶を持っていなくても。 愛した人のそばに居られるだけで幸せ……」
「きゃ~ なによそれ! もう演劇のストーリーみたいじゃない!」
ポートが続ける。
「もうね、あのラトゥール将軍が小さな女の子のように『もう一度あの人の傍に居たい、傍に居られるだけで良いのだ』って言ったとき、もうララの後ろでわたし号泣よ! 号泣! 一気にわたしラトゥール将軍のファンになっちゃったわよ!」
『きゃ~~~!』と女子トーク炸裂ちゅうに……
まさにそのラトゥール将軍がこちらに歩いて来る。
『え……?』この下級貴族の集まりの中に?
友人たちは、ザザッと私から遠のき、耳を大にして聞いている。
「ララ! 元気そうで何よりだ!」
「はい! ラトゥール様こそお元気そうで何よりです!」
「あぁ、ディケム様が開戦直後直ぐに止めてくれたからな。 さすがディケム様だ、私の渾身のゲイボルグを相殺されるとは思わなかった。 まだ力も取り戻している途中だろうに……」
私はあの時の狂気的な力のぶつかり合いを思い出し、『ヒヤッ』とした。
こんなきれいな人が、あのような技を繰り出すなんて。
この人が本気になったら、この会場の人たちは瞬殺なのだろう。
「しかしディケム様は変わられたな、お優しくなられた。 昔ならエルフなど皆殺しだったろうに……」
わたしの知らないディケムの事を言われて少し『ムッ』として、わたしは思い切って直球で聞いてみた。
「嫌いになりましたか?」
ラトゥールさんはニヤッと笑って言う
「そんなわけが有るか! ディケム様がどのように変わろうと、私の愛は変わらない。 ララ。 お前はなかなか恐いやつだな! サラッと酷い事を云う。 私の一番の強敵はお前だと思っている」
そしてラトゥール様は私の目を見て言う。
「ララ! ディケム様だけは誰にも譲らない。 これからは女の勝負だ!」
ラトゥール様は『フフっ』と笑って宣戦布告してきた。
『わ…… 私も負けませんから!』震える声で、かろうじて答えた。
「ハハ! ま~私はディケム様ならば妻が何人居てもいいと思っている。 お前にはそれが許せるかどうかだな」
⦅なに? どういう意味?⦆
そしてラトゥール様はディケムの側に帰って行った。
それまで遠巻に聞いていたマディラ達皆が戻ってきた。
なぜかラローズ先生まで加わっている…… ゲセヌ
「きゃ~ ララなに? ちょっと! ラトゥール様と恋のライバル宣言とか、すごくない?!」
「私なら即降参ね。 強さも、美しさも、愛情も勝てる気がしないわ!」
「あ…… 愛情は分からないじゃない………」
他は勝てる気がしなかったから、せめて愛情だけ言い返してみた。
『へ~ ララはそんなにディケム君の事愛してるんだ!』ラローズ先生に冷やかされた。
⦅うぅぅぅ…… ヒドイ⦆
そしてボールルームに音楽が流れだす。




