第三章20 『人、魔神、エルフ』の三種族同盟
⦅ギ、ギリッギリだった――― 危ない!⦆
俺は、かろうじてゲイボルグを相殺して、アルコと一緒に両軍の間に飛竜で降り立つ。
もちろんアールヴヘイムへ攻め行った時と同じ、フル装備の魔王仕様……視覚効果抜群に見せて。
戦場でのハッタリは重要です!
⦅俺はいつもハッタリばかりな気もするが…… 気にしない!⦆
俺はダークエルフ軍に告げる。
「ダークエルフ軍族長エリゼ、俺は人族のディケムだ! 数日前、エルフ族はすべて俺の傘下に下った。 お前達がいくらここで戦っても意味がない! 武器を捨てろ!」
ラトゥールが驚き!
エリゼが目を見開き、アルコに訊ねる。
「ア、アルコ様……… 本当なのですか?!」
『はい』アルコは一言答える……
そして、アルコはエリゼに諭すように言う。
「エリゼ! メガメテオが消滅した時点で、エルフ族の敗北は分かっていたはずです!」
だがエリゼは認められない! 認めたらすべてが無くなると呻く……
「で、ですが…… それでは我々はもう滅亡を待つのみではありませんか――!」
そう言いエリゼが膝をつき項垂れる………
ラトゥールは、『さすがですディケム様!』と後ろではしゃいでいる。
少し空気を読んでほしい………
「エリゼ! ディケム様がエルフ族を庇護下に入れてくださることになりました。 エルフの里には、シャンポール王都と同じ…… メガメテオを防いだ物と同じ結界を張って頂きました。 そして今までエルフ族が庇護を頂けられなかった、ドライアド様からの加護も頂きました」
『――――――!』 エリゼが目を見張る。
「あとは人族との同盟と、あなた達ダークエルフが民を守ってくれれば、十分今までと同じように生きていけます…… いえ、劇薬のメガメテオに頼っていた時よりも、安心して暮らせるでしょう。 里の住民も皆喜んでいますよ。 まだエルフ族は大丈夫です!」
「………………」
エリゼは少し考えた後、剣を捨て決意した顔で俺のほうへ歩いて来た。
「ディケム様、エルフ族へのご慈悲ありがとうございました。 厚かましいお願いですが、この首一つで、ダークエルフ族を許しては貰えないだろうか?!」
ダークエルフ軍10,000が騒めく。
おれは出来るだけ尊大に見えるように、エリゼに言う。
「お前の首など必要ない! 戦争を起こしたブロンダはもう死んだ。 死ぬくらいなら、お前たちの力を、エルフ族を守るために使え! 結界を張りドライアドの加護があったとしても万全ではない!」
「し、しかし…… 戦争の責任を誰かが追わなければなりません。 一方的に攻めてきたエルフ族が、何も無しで許される道理はない」
「あなたもアルコと同じことを言うのだな。 事実、此度の戦争を起こしたのはブロンダだった、あなた達はこの戦争を止めようと奔走していた。 人族には被害が出なかった。 いやむしろエルフ族という強力な同盟国を得られた。 それでいいではないですか」
「………………」
「アルコにも言いましたが、これで人族があなた方を許さないようでしたら、今度は私がエルフ族の盾になりましょう。 きっとラトゥールも私に付いて来てくれるはずです」
ラトゥールが後ろで首を大きく縦に振っている。
エリゼは俺の言葉を聞き、しばらく考えた後、俺に膝をつき剣を差し出し恭順の意を示した。
「慈悲により繋いだこの命、次は一族を守るため、そして御身の為に使いましょう」
これを機に人族とエルフ族の戦争は、完全に終結した!
シャンポール王都の城壁から戦争終結の勝ちどきが上がる――!
市民たちの歓喜の声が上がり、瞬く間に広がっていく……
そしてそれは地響きの様に王都全体に広がり歓喜の渦となった。
俺はラトゥール将軍とマクシミリアン将軍を従え。
エルフの長アルコ、ダークエルフ族族長エリゼ、マルサネ王国コート王子、シャントレーヴ王女を国賓として丁重に迎え入れ、王都に凱旋をした。
ちなみに、なぜマルサネ王国のコート王子の姉シャントレーヴ王女がここにいるのか……
エルフ族のアールヴヘイム王都攻略の時からずっと騎兵隊に紛れて参加していたらしい。
なんて勝ち気なお姫様だろう。
これからシャンポール王とエルフの長アルコとの同盟の会談が執り行われる。
俺はエルフ領に居る時すでに、全て事のいきさつと今後のシナリオを『言霊』を使い王には伝えている。
王からは『そのシナリオで頼む』と言われている。
ここで行われることは、形式だけの同盟締結への儀式だ。
すでに、人族とエルフ族両種族は、同盟を締結する事で決定合意している。
だがもちろん、勝者の人族が勝手に内容を変更して強引な締結を迫らぬよう、俺もこの会談に同席する。
俺がラトゥールとララを引き連れ、儀式の時間前に謁見の間に行くと、王国騎士団の将軍達が集まっていた。
此度の戦いで、籠城戦を指揮した四人と、マクシミリアン将軍だ。
俺は王都を離れる際、ラスさん以外の将軍には、内容を明かさずに出立した。
不確定要素が多すぎたことが理由だが、この大きな戦で単独行動を取ったことを皆に謝罪した。
結果が目覚ましい成功を収めたこともあり、将軍達からはむしろお礼話言われたが……
本当は俺の後ろに控える、ラトゥール将軍が怖かったのかもしれない……。
愚痴の矛先は、将軍の中で比較的若手のマクシミリアン将軍へと向かった。
「それにしてもマクシミリアン将軍、なぜ貴公が一番美味しいところを持っていったのだ! 今回の王都防衛担当は我々の隊だったはず! 貴公のその美味しい役は我々の役目だったはずなのだが―――」
「い、いや…… いきなりソーテルヌ閣下が砦に来られたときは驚きました。 ほんと運ですね運、ただそこにウチの隊が居た、それだけです。 しかしソーテルヌ閣下が突然、『エルフ族の首都アールヴヘイムへ攻め込む、皆ついて来い!』と言われた時は…… さすがに死を覚悟しました」
「なっ!……… それは確かに大変だったようだな、それなりに苦労したのなら、今回の褒賞も良しとしよう……」
正直今回の遠征行軍は、マクシミリアン将軍でなかったら、難しかったかもしれない。
マクシミリアン将軍の持ち前の行動力と決断力に助けられた攻略だった。
謁見の間に、マール宰相の声が響き渡る。
「これより―― 人族とエルフ族による同盟会談を執り行う――!」
その会談は、事前に打ち合わせた通りの内容で、寸分違わず執り行われた。
俺はただ進行を眺めていただけだったが……
後からラスさんから聞くと…… あの場はソーテルヌ閣下が整えた会談。
ソーテルヌ閣下の目があり、魔神族の代表としてラトゥール将軍も見張っている。
この環境で二人に恥をかかせるような暴挙に出る、貴族はそうは居ない。
普通なら、様々な利権が絡む同盟会談となれば必ず物言いが入る、しかし今回同席した王族、貴族は蛇に睨まれた蛙の様に一言も言葉を発する事は無かった。
⦅え?…… なにそれ怖い、俺そんなつもり無かったけど…… もしかして俺の後ろでラトゥールが威嚇してたのかもしれない⦆
この日、人族とエルフ族とは正式に同盟を結んだ。
表向きは対等な同盟だが、エルフ族が敗北とディケムの傘下に入ったことを宣言したことで、エルフ族の従属同盟と他種族に公言したも同然だった。
しかし人族からの戦争賠償等の請求もなかったことから、同盟の内容が対等な物となったのだ。
そしてその後、この同盟に魔神族も加わり『人、魔神、エルフ』の三種族同盟となった。
エルフ族は、人族以外にも魔神族の庇護も受けられることとなった。




