第三章19 神槍ゲイボルグ
ララ視点になります。
ディケムが王都を発ってから二週間。
『必ず二週間で戻る――』そう言ってくれたけど…… まだ戻ってこない。
城門の前では、魔神ラトゥール将軍の部隊が守護してくれている。
彼女は、不安がる私と違い『ディケム様は約束を必ず守る』と一つの憂も無い。
二週間前、五〇〇〇のダークエルフ軍は壊滅し四散していったけど……
また、遠方に兵を補充して部隊が再集結しているらしい。
すでにダークエルフ軍は一〇〇〇〇に達しているとの報告があった。
ラトゥール将軍の兵は三〇〇〇、ぶつかればタダではすまない。
『ディケム、お願い早く帰ってきて―― お願い!』 私は願う。
一〇〇〇〇の兵なんて1人の力でどうなるものでは無い。
でも、なぜかディケムなら何とかしてくれると思ってしまう。
私のそんな願いも空しく、ダークエルフ軍は動き出した。
ラトゥール将軍は言う。
『人族は門から絶対に出てくるな! ここはディケム様に私が任された戦場だ!』と……
でも三倍の兵力なんて、絶対に無理だ!
私はせめてクリスタルゴーレムを場外に展開すると言ったけど……
『それは、私たちが倒れた時に取っておけ、お前たちが死んでしまったら私はディケム様に顔向けできない』とラトゥールさんは言う。
私はなぜそこまでしてくれるか聞く。
「ララと言ったか、それはディケム様に頼まれたからだ。 私は、わたしの命に代えてお前らを守るとディケム様に約束した」
それからラトゥール将軍はわたしの目を見てつづけた。
「………それとな、お前には話してもいいかもな………。 私はもう置いていかれるのは嫌なのだ。 十三年前、ラフィット様が戦場から戻らなかった時、私は全てを失ったのだと知った。 だが、今またあの人に会えたのだ…… もう叶わぬと思っていた夢が! もう一度あの人の傍に居たい、傍に居られるだけで良いのだ」
『………………』ラトゥールさんの真っすぐな愛に、私は言葉を失った。
あのラトゥール将軍が小さな女の子のように見えた。
そして、そのまっすぐな愛情に私は自分が恥ずかしくなった。
「なら! 必ず生きてディケムに会わなければダメです――!」
「あぁもちろんだ、死ぬつもりなどない。 だが……あの方は約束に厳しい人だった、お前たちを死なせたら、私はあの人に捨てられるかもしれない」
「ディケムはそんな酷い奴じゃないです!」
「あぁ冗談だ。 だが約束は果たす。 安心してそこで見ていろ!」
そして一〇〇〇〇を超えるダークエルフ軍が来た―――!
先頭に立つ人は女性なのに、あきらかに前に来た将軍より格上の風格だった。
「われは、エルフ軍総指揮、ダークエルフ族族長のエリゼだ!」
ラトゥール将軍が応える。
「ほぉ~ 我は魔神族が将軍の一人ラトゥールだ! ディケム様との盟約果たすためここに参った、ここは決して通さぬ!」
エリゼ族長が目を見開く!
「ま、魔神軍のラトゥール将軍!? なぜあなたのような人が、人族などの先兵のようなことを――!」
「フン! お前のような小娘が知る必要はない!」
エリゼ族長は明らかに動揺をしている――!
それほど魔神軍のラトゥール将軍の名は大きく、強い人なのだろう。
「ラトゥール将軍…… 私は貴女とは事を構えたくはない! どうか引いてもらえないだろうか?!」
「私がディケム様との約束を破ることなど有る筈がない! 諦めろ!」
その言葉にエリゼ族長が考え込む……。
「ディケムだと……? あのメガメテオを破り大魔術師団を消滅させ、ブロンダを討った人族の小僧………。 ん? 小僧……… ラトゥール将軍が出てくる、人族………?」
そして、エリゼ族長が答えを導き出す。
「も、もしや! ディケムとはラフィット将軍の生まれ変わりなのか?!」
「ほぉ~ お前なかなか感が鋭いな。 私が引かないのは分かるだろう?」
「人族のディケムがラフィット将軍の生まれ変わりなら、ラトゥール将軍は絶対に引かない! だが……… 私も、もう引けぬのです! この戦、勝たなければダークエルフ族に未来は無いのです――!」
エリゼ族長が苦しそうに呻く!
「貴女に弓引くのは不本意ですが、致し方ありません! いくらラトゥール将軍でも、この戦力差では適うまい! 御覚悟を――!!」
ダークエルフ軍が突撃を開始する――!
そこにラトゥール将軍が、禍々しいまでに神気を放つ『神槍ゲイボルグ』を持ち、立ちはだかる!
突撃してくるエルフ軍に向かい、神槍ゲイボルグを構える!
そしてラトゥール将軍は奥義の祝詞を詠唱する―――!
「我の命に従い神罰の棘をもって全ての敵を刺し穿て―――!」
「いけッ! 神槍ゲイッ――! ボルグ――――――!!!」
ゴオッ──!!!! ズッ——ガガガガガガッ———!!
それは神槍ゲイボルグの必殺奥儀―――!
回避不可と伝説に歌われる破壊の一撃がダークエルフ軍を襲う。
ラトゥール将軍の狙いはエリゼ族長の首ただ一つ、圧倒的戦力差の場合は相手の大将を狙うのが定石!
『しまっ―――』エリゼは自分の決定的なミスを悟ったが、すでにもう手遅れだった………
神槍ゲイボルグの必殺奥儀は躱すことは不可能!
その斬撃を見たエリゼは、すぐに諦めて目をつぶった………
回避不可の神槍ゲイボルグの奥義が、エリゼを消滅させる――― 直前!
『金翅鳥王剣――――――!』
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォン――――――!
ゲイボルグの斬撃が上からきた斬撃で相殺される――!
破壊のエネルギーを破壊のエネルギーで強引に相殺する!
凄まじい衝撃波と轟音に両軍吹き飛ばされる。
「双方とまれ――――――!!!」
上空に飛竜に乗るディケムとハイエルフが居る。
『ディ、ディケム…… ディケム――――!』私はディケムを見て叫ぶ!
『なっ! ア、アルコ様………』 衝撃波で馬から振り落とされたエリゼ族長が呻く。
さらにダークエルフ軍の背後、東から土煙を上げて騎兵隊の大部隊が迫りくる!
その数は二〇〇〇〇を優に超える大部隊だ。
その大部隊の旗を見て、ラローズ先生がつぶやく……
「あ、あれは王国騎士団第三部隊マクシミリアン将軍の旗―――! えっ!マルサネ王国の旗まで?! それにエルフ正規軍、ハーフエルフ軍の旗も一緒に見えるわ! いったい何が起きてるの?! どうして一緒に―――」
ラトゥール将軍部隊とダークエルフ部隊の間に、ディケムが飛竜を降ろす。
そしてディケムが叫ぶ――!
「エルフ族と人族の同盟を締結した! 戦争は終結した――!」
⦅えっ!………ディケム 今、エルフ族との同盟と言ったの?⦆
戦場の誰も理解できず、戦場は静寂に包まれた………




