第三章18 エルフ族の新たな守護者
アルコの全国民への宣言の後、俺はまたアールヴヘイムの都市上空へと移動する。
いきなりの敗北宣言に、民が『ハイそうですか』と直ぐに納得するわけがない。
少しでも反発者を減らす為に、分かりやすいパフォーマンスを行う事にする。
町の中心上空で、民に一番見やすい場所で行う。
まずは全てのエルフ族を拘束している蔓を解除した。
暴れられると面倒なのでシルフィードの『戒めの風』はまだ解除しない。
そして、風の精霊魔法『言霊』を応用し、音を風に乗せてエルフの民に話しかける。
『合議制ハイエルフ6賢者との盟約、エルフ族との約束を果たす為、これよりメガメテオを破った『精霊結界』をこのアールヴヘイムに施す。 私との盟約を破らない限り、最強の盾として皆を守るだろう』
そして俺は、目立つように使役する六柱の精霊を顕現させる。
水の精霊ウンディーネ、火の精霊イフリート、木の精霊ドライアド、月の精霊ルナ、
氷の精霊フェンリル、風の精霊シルフィード。
アールヴヘイム上空に俺を囲むように六柱の精霊が顕現する。
『おぉぉぉぉ!!!』とエルフ民衆の驚く声が聞こえる。
視覚効果は良いみたいだ。
俺はその精霊達をマナで結び、『六芒星』を描く。
アイフェル山脈の結界にも使ったが、六芒星にはマナの力を取り込み、力の増幅強化する効果がある!
このアールヴヘイムは、『大いなるマナ』と繋がるイグドラシルを中心として作られた都市だ、だからマナがとても豊富だ、少しだけ下準備をすれば、『精霊結界』を張りやすい環境になる。
俺はイグドラシルを利用し、『大いなるマナ』からマナを吸い上げ、六芒星の魔法陣で増幅し、一気に顕現した六柱の精霊を『精霊結晶』に変える。
そしてイグドラシルを中心にアールヴヘイムの都市の端々に飛ばす。
六柱の精霊を繋いだマナはそのまま、アールヴヘイムを囲むようにイグドラシルを中心とした巨大な『六芒星』が出来上がる。
その隅々に飛ばした精霊結晶から、マナの線が伸び、イグドラシルの頂上で交わる。
俺からまた六柱の精霊が顕現し、マナの線で魔法陣を描きながら空を駆け巡る。
そして俺は、イグドラシルからのマナを使い、アールヴヘイムを囲む六芒星でマナを増幅させ、永続的に続く「六柱精霊結界」を作り上げるための演唱をする―――!
「四柱神を鎮護し、天地・光闇・火水・風土・陰陽、五陽霊神に願い奉る……」
⋘―――ΕξιΚολόνα・πνεύμα・Εμπόδιο(六柱精霊結界)―――⋙
イグドラシルが金色に輝き、六芒星で囲まれたアールヴヘイム全体、都市の地面から、光の粒子が舞い上がる。
『うゎ!』足元が光り、エルフの民が目を見張る!
さらにオーロラが地面から上空に立ち昇るように、六色に輝くドーム型の結界がアールヴヘイム全体を覆いつくす。
そして、結界がアールヴヘイム全体を覆ったとき、次々に上へと結界の層が増えていく―――!!
結界の層は三〇階層で止まり、大きな光を一瞬放ち、そして徐々に透明になって見えなくなった。
「―――――――――!」
「………………………」
言葉もなく立ち尽くしていたエルフ民衆から徐々にどよめきが起こる!
そして堰を切ったように歓声の渦に変わっていった。
メガメテオを失い、各種族の標的にされる…… それはエルフ族皆が恐れていた恐怖。
近い将来に必ず起きる多数の種族からの侵略戦争、多くのエルフが虐殺され、奴隷として売られる恐怖。
その確定した残酷な未来を、ハイエルフ六賢者は既にエルフ族国民全てに認知させていた。
そこに来た俺が、これからも続く今までと同じ生活を約束したのだ。
タイミングが本当に良かったのだろう、エルフ族国民が俺の傘下に入る事を受け入れた。
俺は再びイグドラシルにある宮殿へもどる。
ハイエルフ六賢者が俺に傅く。
『ディケム様、ありがとうございました』 代表してアルコがお礼を言ってくる。
『あぁ』と俺は一言いい、木の精霊ドライアドと風の精霊シルフィードを顕現させる。
「シルフィード、全シルフの『戒めの風』を解除だ!」
「かしこまりましたディケム様」
「ドライアド、お前はこのエルフ領の森どこまで管理している?」
「申し訳ありませんディケム様、このエルフ領一帯はシルフィードが管理していましたので、私はイグドラシルに宿っていただけになります」
「シルフィード、ドライアドにエルフ領一帯に『ネットワーク』を張らせ、全ての情報管理をさせるがいいか?」
「はいディケム様、同じ主を頂いた今、ドライアドと私は運命共同体です。 これからは協力して事に臨みたいと思います」
「ドライアド聞いた通りだ。 早急にエルフ領に『ネットワーク』を張り巡らせ、エルフ領を完全に掌握しろ。 さらにはシルフィードのエルフの森を守る結界『迷いの森』を強化。 そして何かあったときはシルフと協力して、エルフ族を守り俺に報告しろ!」
「かしこまりましたディケム様」
「――と言う事だアルコ。 俺に出来る事はやっておいた。 メガメテオでも破れない『精霊結界』に今まで通りにシルフの加護、そしてこれからはドライアドの協力もある。 何か問題があったときは、ドライアドから俺に連絡が入る。 だが万全などと言う言葉は無い、自分たちの警護も怠るなよ!」
『はい、ありがとうございます』とアルコは頭を下げてお礼を言う。
そしてアルコは俺に羊皮紙を差し出す。
「ディケム様、完全降伏の証として、わたくしエルフ族族長アルコの【制約魔術】の契約書をお使いください」
⦅ラローズさんに行った、あの魔術だ………⦆
「アルコ…… 誓約書など、人族との同盟を締結してくれればそれで良いのだけれど―――」
「いえ、この制約魔術が有れば。 私があなた様に絶対の服従を約束する代わりに、あなた様は必ずエルフ族をこれからも庇護して下さるでしょう」
「だが、もし俺が他国との戦争に負ければ―――」
「その時は私だけが死ねば良いのです。 これは私一人だけのギアス契約書。 私が死ねばエルフ族は新たな道を選ぶ選択肢が出来ます。 ズルいように見えますが弱者の生きる知恵でございます」
⦅制約魔術をむしろ保険に使ってくるとか…… さすが嘘か本当か三〇〇〇年を生きる長老の知恵だな。 まぁ正直に伝えてくるところに誠実さが有るんだけどね………⦆
「まぁ、こんな契約しなくても約束は必ず守るが……… それで貴方が安心できると言うならば、制約魔術を行いましょう……」
俺は制約の呪文を唱え、契約書を上へ投げると!
⋘――――Περιορισμοί(制約)――――⋙
契約書は燃え上がり、アルコと俺が一瞬光に包まれ、制約は成立した。
「これからよろしくな! アルコ」
「はい、こちらこそお願いいたします」
さて、一番の山は越えたが、最後の後始末が残っている。
いまだにシャンポール王都に背水の陣で挑んでいる、ダークエルフ軍だ。
「アルコ。 申し訳ないが、これから急ぎシャンポール王都に一緒に来てくれないか? ダークエルフ軍を止めなければならない事とシャンポール王と同盟の締結をしてもらわなければならない」
「もちろんでございます。 勝戦国に敗戦国が赴くのは必定。 そしてダークエルフ族を止める事も私の責務でございます」
「あぁ助かる」
「ディケム様…… もしダークエルフ族が止まった場合は―――」
「あぁ。 彼らの命の保証は俺がしよう」
「ありがとうございます」




