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第一章9 特訓

 

 神珠杉から戻った次の日から、毎日の厳しい特訓が始まった。


 ウンディーネがマナの調節を行ってくれるのだと思っていたが………

 そんなおいしい話は無かった。


 ウンディーネ曰く、

 『マナを受け入れる器を鍛え大きくする』

 『マナの繊細な調節を出来るようにする』

 『マナの繊細な操作を出来るようにする』


 まずはこの基礎を徹底的に鍛えるのだとか。


 最初に今まで絶えず作っていた水球、これはウンディーネに姿を変えた。

 これをウンディーネとは別にもう一個水球を作ってキープする。

 それに慣れたら徐々に数を増やし、最低十二個までは何も意識せずにキープできるようにする。


 次にマナの操作。

 今までは水球を維持する事だけだったが、次からはマナを常に移動させる。

 自分の周りを常に回るように動かしていくのだ。

 そしてさらに水球自体も常に自転させていく。


 これがある程度出来る様になってきたら、さらに水球に圧縮を加えていく。

 最低でも今の一〇〇倍の圧縮率で。


 これが出来て一人前だそうだ………。 なにそれコワイ。

 俺自身は、もっと他の魔法も色々勉強したかったが………。


 『今はそんなものは必要ない! これらの事が出来てからの方が最終的に近道じゃ!』と一蹴された。


 そして、この訓練だけをしていれば良いのかと言えば、もちろんそんなことはない。

 今まで通り、毎日の木こりの手伝いは通常業務だ。本屋通いを禁止されなかっただけマシか。


 と言うのもウンディーネ曰く、それらの事をこなしながらマナの訓練を同時に行ったほうが、負荷がかかり効率的なのだとか。

 訓練のためにわざわざ新しい仕事を作るより、家の手伝いをした方が家族の心象もいい。


 という事で、ウンディーネを肩にのせもう一つの水球を反対の肩に作り出す。

 もちろんまだ、二つ目の水球は維持することがやっとだ。

 動かすことなど出来るはずもない。焼石に水だが気持ち圧縮は意識している。


 そして、そのまま本屋に入っていくと…………。

 本屋のオヤジであるオーゾンヌが俺を見て目を見張りつぶやく。


「試練を乗り越えたのか…………」


 どう言う事だ? 怪しいオヤジだとは思っていたが、【ウンディーネ】も【マナの本流】の事も知っているニュアンスだ。


 そしてオーゾンヌはウンディーネと旧知の仲のように話す。


「お前が人に手助けするとはな」


「二千年も誰も来なければさすがに人恋しくもなる。 それにこの子はこの未熟な状態でマナに選ばれた。」


「ッ――っな! なんだと!」


 オーゾンヌが再度目を見張り俺をみる。

 俺は意味が解らず、『どういうこと?』とオーゾンヌに尋ねたが『いつか分かる』と話を濁され、それ以上はこの話は終りだとオーゾンヌは強引に会話を終わらせた。


 そして今までの意味ありげな会話が嘘のように、オーゾンヌはいつも通りの仕事に戻った。


 変化があったと言えば本屋の中では水球訓練は禁止されていたが、ウンディーネに強引にやれと言われ恐る恐る作ってみると………、

 オーゾンヌは一瞥しただけで、何も言わずに読んでいた本に目を落としていった。

 この日から木こりの時間も、本の時間も、すべてマナの特訓時間になった。



 ウンディーネの訓練の中で一番『これは無理だろう!?』と思ったのは、寝ている時間も水球維持の課題だった。


 最初は出来るはずもなく布団が水浸しになっていたけれど………。

 しかし俺が寝ている時間もウンディーネが勝手に実体化していてくれたお陰で、感覚を徐々に捉えていけるようになっていった。


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