第2章 女神様
修一はいつの間にか真っ白に広がる世界にいるような感覚に陥っていた。
(なんか周りがボヤけて夢の世界にいるみたいだ)
そんな事を思っているとどこからか声が掛けられる。
「あなたが瀬名修一君ね?」
『はい、あなたは?』
「私は女神よ」
(え? 何を言っているんだ。まあ夢の中ぽいしなんでもありか……)
「夢だと思っているみたいだけど残念ながらあなたは死んだのよ」
死んだと聞いて頭に男に刺された事が蘇り焼けるような痛みと女性の悲鳴に修一は残念で暗い気持ちになる。
(ああ、やっぱり死んだんだ……)
『じゃあここは天国なんですか?これから何かに生まれ変わるのでしょうか?』
死んだらどうなるのか修一は両親が死んだ時ずっと考えていた時期があった。
(よく天国で暮らすとかまた地球の何かに生まれ変わるとか言うけどもし天国があるなら両親に会いたいな)
「本当は人は死ぬと魂は消えてしまうだけなのよ、何も残らない、でもあなたの魂が消えてしまうのが惜しくてね」
(惜しい? どういう事?)
「あなたに2つ選択をあげるわ、一つは他の魂と同じ様にこのまま消えてしまうか、もう一つは違う世界で生きるかよ」
修一は間を開けずに即答する。
『違う世界でもいい、まだやりたい事があるのに消えたくない、行きます』
「分かったわ、そう答えてくれると思っていたの、違う世界に行くのだから特別に願いを1つ、出来る事なら叶えてあげるわ」
(願いか……どうしようかなどんな世界かも分からないしなぁ、やっぱ普通は特殊な力とか大金を要求するよな……)
そんな時最近ハマっていたゲームのブレイズファンタジーが頭に浮かぶ。
(あの主人公の顔に憧れてたんだよなぁ)
よく女性向けの恋愛シュミレーションに出てきそうな女性にも見える美しい顔が頭に浮かんだ。
(こんなお願いしてもいいのかな?)
なかなか言えずにモジモジしている修一。
女神はなかなか返事が無い修一に次第に心配になってくる。
(何をあんなに恥ずかしそうにしてるのかしら……そんなにいい辛い事をお願いするつもりなのかしら?)
『あの……』
「決まったの?」
『非常にいい辛いのですが思い切って言っちゃいます』
「どうぞ」
修一は勢いで言ってしまえと大きな声を出した。
『僕を誰もが一目惚れする様な綺麗な人にして下さい!』
「分かったわ」
(あ、いいんだ……)
こう答えたが女神は(ん? おかしいわ……)と少し考えた。
(そんなお願いに何で恥ずかしがったりするのかしら?)
ハッ!!
(もしかして遠回しに女の子になりたいと言っているんじゃ……きっとそうよ! 間違いないわ! だって今この子の頭の中に浮かんでる顔って女性でしょ? へぇ〜そんな風な子には見えなかったけどまさか女の子になりたいだなんて分からないものねえ……だからいい辛そうにしてたのね。任せなさい! いい体を作ってあげるわ!)
こうして女神は派手に勘違いをかましてそれに納得してしまうのであった。
「それじゃあ頑張ってきなさい」
『ありがとうございます』
「向こうに着いたらその世界を管理している者に会わせてあげるから色々聞くといいわ」
『はい!』
「ではいってらっしゃい」
そう聞こえた後、修一の意識は薄れていった……
『ん……』
修一の頬に心地良い風が当たり目を開けるとそこは見渡す限りの自然が広がっていた。
(広大な草原がまさに絶景って感じだな……久しぶりに来たなこんな自然の中に)
修一は異世界という信じられない場所にいることにまだ実感が湧かず本当は地球の何処かにいるんじゃないかと半信半疑になっていた。
(ここが異世界かぁ……何か信じられないなぁ)
修一は朝起きた時の様にうーんと背伸びをした時だった。
(何か体に違和感が……前の世界と違う体だからかしょうがないか)
意識がハッキリとするといつもと違う高さの視線が何か違和感を感じ始めていた。
(あれ?)
『あーあー』
耳に入る女の子の声に嫌な予感がしてくる修一は現実から逃げ始めた。
(これは……視点もちょっと低いし少年くらいからやり直しかぁ)
修一は少年であってくれと祈りながら体を確認し始めた。
(胸が少し重たいな)
モミモミ
膨らんでいる胸から両手に柔らかい感触が伝わる。
『ま、まだだ、まだ希望はある‼︎』
修一は最後の砦である一番性別が分かりやすい箇所にサッっと手を触れた。
(股間には息子が……)
スカ!
見事にすべり息子がいない事を確認した。
ガク!
その場に崩れ落ち、放心状態が暫く続いた後、修一は頭を整理し始めた。
(え? え? ……なんでぇ⁈ なんで俺女の子になってんの?)
『マジかよ! 聞いてないよぉ〜! これはリコールでしょ‼︎』
修一はあまりに残酷な現実に叫ぶのを止められなかった。
(俺女の子になりたいって言ったっけ?)
女神との会話を思い返してみるが心当たりがなかった。
『そっかぁ知らないうちに俺には女の子になりたい願望があったのかぁ〜 それを察して女神様はこんな体をってそんなわけあるかぁー‼︎』
また叫んでしまったが周りいた動物は先程の魂の叫びで既に居なかった。
(どうしよう中身俺だよ男だよ? 男と恋愛? 結婚? 死んでもやだよ想像しただけでもぞっとするよぉ)
「どうしたの? なんで泣いてるんだい? 異世界に戸惑ってるのかな?」
修一は涙目になって振り返るとそこには若い男が立っていた。
(なんか古代ローマ人の服装みたいだ)
男は金髪に少女漫画に出てきそうな顔をしていた。
(ああイケメンだ……これこれ! まさにこうゆう顔が良かったんだけどな)
修一はイケメンな男を羨ましそうな顔で見ていた。
(異世界と言った事からするとこの人が女神様が言っていた異世界の管理者って人かな?)
「僕はこの世界を管理する者だ、と言っても基本的には観ているだけだけどね……大丈夫?」
若いイケメンお兄さんは修一を心配そうな顔で聞いてきたが愚痴をこの人に言ってもしょうがないかと諦めつつ答えた。
『いえ、願いが叶って嬉しくて』
「そんな風には見えないけど、まあいいか」
嬉しそうじゃない顔で言う修一に苦笑する管理者は早速自分が来た役割を果たそうと話し始める。
「それじゃ少しの間だけどこの世界について重要な事を教えるからよく聞いてね」
管理者は修一の前に手を出して握るよう目で促した。
「場所を変えよう、とっておきの場所があるんだ」
手をとると周りが光に包まれる、修一は思わず目を瞑ってしまった。
「着いたよ」
『へ?』
目を開けるとさっきの草原風景から森の中だろうか木に囲まれた場所に立っていた。
(ここは何か日本にもあるような場所だな)
修一は子供の頃遊んだ雑木林を思い出し懐かしい気分になる。
目の前にはログハウスのような家がポツンと建っていた。
「君が来ると女神様から聞いてたからね用意しておいたんだ」
管理者はイケメンな顔を更に魅力的に変える笑顔を見せながら言った。
「君のいた世界についてもたまに見てたからね、それに似せて作ってみたんだよ安心するだろ?」
『そうですね、この場所もですけど懐かしいというか日本にいるみたいです』
「そうか、気に入ってくれたみたいで嬉しいよ」
管理者はニコッと嬉しそうな顔をすると修一を家の中に招き入れた。
「さあ時間もないし入って、この世界の事を教えてあげよう」
ここはどんな世界なんだろうと期待を胸に修一は家に入っていった。