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よもつへぐい

作者:

 気が付けば真っ暗な中をボーっとしたまま定まらない足場を踏みしめていた。

 どこまで続くか分からない地面を歩き続けると一軒の屋敷のような物が見えてきた。

 囲われた塀の切れ目をたどり、門をくぐる。

 石畳を歩くと大きなガラス戸が見えてきた。

 戸のすりガラスには中の灯りが朧げに広がっていた。

 戸に手をかけ引き開けると奥から人が現れた。漆のように光沢のある廊下の床は現れた人の着物模様を映していた。

 どうやらこの屋敷の人らしい。

「いらっしゃいませ、琴宮(ことみや)様ですね。こちらへどうぞ」

「ここはどこですか?」

黄泉(よもつ)屋でございます」

「具体的にどういう場所なんですか?」

「あの世に行く前に食事を済ませていただくところです」

「・・・僕は死んだんですか?」

「まぁそうなりますね。良くて死にかけでしょう」

 そう言われても死んだ記憶が無い。そして記憶が無いだけに確証のない今の自分に漠然と恐怖を覚えた。

「さて、行きますか」

 作った笑顔を保ったまま黄泉屋の人が奥へと促した。

「すみません。今、食欲が無くて」

「ノンアルコールの飲み物もございますが」

「何も喉を通りそうにないので遠慮しておきます」

 そう言うと、黄泉屋の人は黄泉屋と一緒にうっすらと消えていった。

 立っていた地面も消えて水面に落ちた感覚が足から抜けていった。気泡を周囲に感じて見回すと巨大な蟹が水中にのそのそと這いまわっていた。




 気が付き、張り付いた瞼を開くと真っ白な天上が見えた。

 あれは「よもつへぐい」だったのか。

 朦朧とする頭をもたげて体を起こすと見たくもない見慣れた顔。

 記憶と生を捨てられた方がよっぽどよかったな。

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