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勇者の盾は、もう要らず。  作者: あんころもち
第四歴 勇者の盾、その外出。
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第四十五話

「ん、む、……むぅううぅ?」


 よほど。よほど自身がふらついたのが不思議だったのだろう、彼女はとんとん、と足を確かめるように爪先で数度床を軽く叩き、そして、未だ痛むのか掴まれていた手を、何度もにぎにぎと開閉していた。


「おじちゃん、|なに? わたちにこんな……こんな、なんだろう、これ……えっと、とにかく、こんな変なやつ、くれる? なんて……」


 痛いという感覚すら、今までまっとうに味わったことが無いのか……それはまた、ずいぶんと強いからだ(・・・)に生まれてきたもんだな、びっくりだよ。


 丈夫だと自負できる俺の身体だって痛覚ぐらいきちんと機能してるってのに……うーん、これは、いたいけな子どもに暴力振るうみたいで、これからのことが少しだけかわいそうになる。


 まあ、そうなるってだけで──今からの全てに、ためらいが生まれるってわけじゃあないんだけどな。


「おう。よぉく知っとけ、それがおまえが、これから散々っぱら味わうことになる痛み(・・)っていう、生きるために必要な感覚だ。


さあ──ケンカしようぜ。その罵倒(りゆう)はさっき、たっぷりと与えてやっただろ?」


 くい、くい、と。あえてあちらを掴んでいた手で、挑発の意味を多分に込めて、かかってこい(・・・・・・)と、二度か三度、折り曲げる。


 いくら幼いとはいえ、さすがにこの仕草で、今、自分がなにをされたのか、その程度は理解したようで。


「けんかぁ? よく、わかんないけど……言われたらころしてもいいよって、お母さんがいってたし……うん。だから。


ちゃあんと、殺すね?」


 ──真正面。今度は拳での殴打(ストレート)


 ただしそこらにいる一山いくらのごろつきとはまったく違う、まさに風を強引に押し潰して向かってくる、戦鎚(ハンマー)のような重厚打撃。


 だが、このぐらい──やすい(・・・)


「ほっ、」


 前に突き出していた手のひらの力を、衝突の瞬間だけ軽く抜き、そのまま身体に押し掛かる、勢いの良い圧を流すように、地に足付けて後退(あとずさ)る。


 受け止めた手と擦れた靴底から、ほんの少し煙が立ったが、しかし、それだけ──俺の身体は、たったそれだけの、被害とも呼べないその軽微だけで、この常人をミートソースに変えると確信できるほどの重圧を乗りきった。


 よし、俺ってばすごい。さっきのまっとうに食らってたら、……うーん、よくて青たんぐらいできてたかな? あれ、しばらく痛み引かないから嫌いなんだよな、治りも昔ほどじゃないし。


「む……、」


 潰れる。まさしくそう思っていた、とでも言わんばかりの、そんな意外に満ちた目をほんの瞬き、けれどすぐに第二の矢であるもう片方をこちらに、……さっきよりもけっこう重圧をまとった一撃を、足元の石畳がばぎり(・・・)とひび割れるくらいの踏み込みを経て放ってくる。


 おお、しかもなんだ、よく見れば、なにやら拳がぼんやりと薄い白に包まれていて、……なるほどなるほど、感覚で魔法(そういうの)使えるのか、それとも今初めて使えたのか。まあどっちでもいい。


 ──どうせ。どのみち俺には、こんな単調なんて、通用しない。


「よっ……」


 狙うは手首。こっちに当たるちょっと前に、余っている手、つか指……二本くらいでいいか、をぎゅっと親指で押さえ、そこからこいつの細っこいそれに向けて、弾くように解き放つ。


 普通ならふざけてるとしか思えないいたずらじみたそれだが、……いやいや、うん、これぐらいじゃないと、さあ……


「あっ……?」


 ……ほら。相手、吹っ飛びすぎちゃうじゃん?


「ん、ぎゅうぅう…………!?」


 お、倒れかけちゃいるが、さすがに二度目は堪えたか、感心感心、いや、見た目からして明らか体重が軽いだろうからさ、ちょっと心配だったんだよ……やれやれ、これじゃあとても本気では殴れそうにないな、どことも知れんとこに吹っ飛んじまう。


 しかし、いくら幼い……いやほんと幼いな、ぎりぎり少女ではないぐらいの幼気全開(いたいけ)矮躯(わいく)じゃないか、こりゃああの五人も容易いと思うはずだわな、いくらなんでもこの容姿で怪力豪腕とは思えない。

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