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勇者の盾は、もう要らず。  作者: あんころもち
第一歴、勇者の盾、その決別。
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第五話

「いいや、俺はライト・サンドだ「まだ、言うか……!」いやいやきちんと証拠もある……」


 ほれ、と。今まで背に積んでいたあるものを手に取って前に回し、それに巻いていた布を取り去り、そして仲間たちに見せ付けるために高く掲げる──そう。


 あの、魔王の一撃から俺と仲間たちを守ってくれたあの半壊した“盾”を。


 いや、流石にこんなでけーもん小脇に抱えながら町中歩くわけにいかんから布巻いてひも着けて背負ってたんだが、ははは、そういやこいつの存在を、今までの展開からすっかり忘れてしまっていた。


 門にいる兵士たちは気づけなかったが、こいつを間近で見ていた仲間なら……!


「……。

この細工、この彫金、この色合い、この硬度……間違いない、彼の──ライト・サンドの盾だ。

例えどれだけ砕け、壊れようと……これだけは見間違えるはずもない……!」


 おお、よし、よし、好感触、好感触ですよこれは! これで俺が誰なのかようやく証明できたな、いやあ苦労したぜ……


「……貴様……これを……どこで……どこで……


──どこで、奪ってきたぁ!!!」


 ──……、────…………、──────………………、


 ────────え?


「いや、いいや、彼が、あの彼が、例え半壊していたとしても、自分の命と同じように扱っていたこの盾を、絶対に手放すことなどしない、まして奪われるなど!!


ならば、ならば貴様──事切れた彼から、これを奪ってきたのだな……!!」


 ええ?


「確かあの決戦の時、あの大陸全体で人と魔の全面戦争が行われていた……つまりどこでだれが何を行おうと、それらを詳しく知る術は無かった……!」


 えええ?


「戦争の人員は、多く──有志の方々から騎士団まで、多種多様な人材を、選別無く登用したと聞いているわ。

それこそ、盗賊まがいの雇われ兵団も、まるでまったく例外無く」


 ええええ?


「なんというやつだ、貴様──貴様は、辛うじて残っていた彼の遺体を見つけたというにも関わらず、弔うどころかその装備をすべて奪ってはずかしめたというのか。


僕の──僕たちの大切な、……大切な仲間をぉ!!」


 えええええ? は、あ、はあ? なんで……なんでそんな結論になんの? つーかこれでもダメってむしろ何があれば信じてくれんの、あれか、思い出話でもしろってか、仲間内でしか知らん秘密でもぶちまけろってか? いやでも今のこいつらじゃそもそも話聞いてくれそうにねーし……ああもう、くそ、これは証拠出す順番を間違えたなこりゃ……


「貴様の罪、万死に値する──表に出ろ。


その命、彼の供養のためにも、地獄の底に叩き落としてやる」


 あやっべ、もうこれ取り返しがつかないやつだ、今すぐ逃げないと全力のこいつらに魂まで殺し尽くされる──いや、実際に出来るやつがいるから比喩とか抜きに魂消てしまう、冗談じゃねえ!


 くそ、こうなったらここは逃げの一手しかない……!


「そうてすかどうやら人違いだったようなのでぼくはこれで失礼しますそれではさよな、」


「逃がすか「らぁっ!!」なっ……!?」


 掲げていた盾を、明後日の方向へと力の限りにぶん投げる──と、当然、そいつに注目していたやつらは思わず目なり首なり体なりをそちらに向け……っし、


 ──今だ、逃げろぉ!!






 それから勇者一行と俺の、長い長いおいかけっこが始まった。


 時に隠れ、時に追い付かれ、時に誤魔化し、時に衝突し、……そうして果たしてどれだけ経ったか、時間の感覚が曖昧になり始めた頃。


 幾度目かの小競り合いを終え、今はどうにかあいつらを振り切ってどこぞの裏路地に身を隠している、が、どうせここもすぐ見つかってしまうだろう。だってあっちにはなんかよく分からん技術でこっちの居場所探ってくる化け物じみた斥候がいるし……あいつなんなの、昔っから思ってたけどなんで魔法とかなんも使わずにただの直感とか技術とかで目当てのもん見つけられんの頭おかしい。


 っと、今はあいつの怪物っぷりに愚痴っている場合じゃない、こうなったら盾含めた私物は諦めて町を出よう、逃亡の旅に出よう、じゃないといつまで経っても追われ続けてしまうだろうし……いや、だが、どうするかなぁ……一応、路銀自体は……あの親切な鎧の人がくれたものがまだ多少なりとも残っているが、それもいつまで保つか……出来ればどっかの村や町に居を構えたいものだが、そんでついでに何かしらの職に就きたいものだが、まあそううまくことは運ぶまい──おっと。


 とりあえず将来の展望について思いを馳せるのはまた今度にして、あの鎧の人には悪いが、さっさとこの町から脱出するとしよう。


 幸いにしてまだあいつらの姿は見えない……が、きっと正規ルートであるあの門にはきっと誰かが張っているだろうから、少なくともそれ以外の道を見つけないと「っあ!?」っとやべ、考え事とあいつらへの警戒しながら歩いてたら人にぶつかっちまった。


「おっと」


「あうっ? ……あれ、痛くない……?」


「大丈夫か? 悪いな、少しぼぅっとしてた」


 転びそうになった誰かを片腕で受け止め、ついでに安否確認……なんだこの人こんな暗いところでフードと外套なんてかっちり着込んで……っと、よし、パッと見怪我らしきものは……


「ん? ……」


「あ、あの、ありがとう……」


「……。

あんた。魔族か?」


 びくり。片腕に納まった、フードと外套で身を覆っている誰かの身体が大きく揺れ、微かに覗く眼が大きく見開かれる──


 その、人間ではあり得ない、黒く輝く宝石に、いくつもの白い星を散りばめた……そんな夜天に広がる河を切り取ったみたいな眼が。

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