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勇者の盾は、もう要らず。  作者: あんころもち
序歴 勇者の盾、その決戦。
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初まり、始まり。

始まりまーす。どうぞよろしくー

─最終決戦。魔と人の存亡を懸けた血戦。あるいはもっと単純に、今ここで相対しているもの達の、命を削り合う熱戦──ああ、いや、くそ、違う、違う、そうじゃない。確かに今の状況は先の言葉が全て当てはまるが、しかしそれこそ今は、こんなことを考えている場合じゃないんだ。


 さっきから顔を撫でる生暖かい風。まるで城の広間でごさい、と言わんばかりにだだっ広い室内。その端々に広がる、スライムの体みたいに粘ついた闇。それとは逆に、ぴん、と端を持って伸ばした糸のように張り詰めた空気。正面からは今にも押し潰されてしまいそうな圧迫がこちらの身体に吹き付け、床には毛足の長い赤いカーペットが敷き詰められていて、ああ、こんな状況じゃなかったら、鎧を外して寝転がり、その感触を楽しんで──いや、だから、ああ、違う。


 どうして俺は、こんな時に、いやこんな時にこそ、こんな無駄なことを考えてしまうんだ、くそ、くそくそ!


 分かっている──お前には分かっているはずだ、ライト・サンド! 今はこんな無駄で無駄で無駄なことをつらつらと考えている状況なんかじゃないーーこれは、


「くくく…よくもまあ、あの猛攻と猛威を掻い潜り、我が前までたどり着いたものだな…


──我が宿敵、勇者よ」


「ふ……あの程度、僕たちが力を合わせれば軽いものだよ。


もちろん、お前を討ち果たすこともさ──魔王!」

 

 これは──人類の命運を決める聖戦なんだから!

 

「ふん。魔王、などと……そんな人が名付けた俗称などで呼ばれたくはない。ない、が……まあ、良かろう。どうせここまで至ってしまっては、最早どうしようもない。

さあ、では、始めようじゃないか──貴様らの言う、最終決戦とやらを」


 すくり、と。いっそ優雅にすら見える緩慢で、目の前の、人の形をした重圧が、ひび割れた玉座から立ち上がる。


 くぅ……なんだ、あいつ……ぼろっぼろの黒い外套を纏っているだけのくせに、顔なんざ被ってる頭巾のせいでろくに見えないってのに……なんて……なんて……っあぐ……


「……、みんな! 戦闘の準備を!


これが──最後の戦いだ!!」


 凛とした、裂帛の号令──の、寸後、自分と同じように、わずか魔王の威圧に呑まれかけていた仲間たちが、顔に気を入れ直し、自身の得物を構え直す。


 少し遅れ、俺も改めて自身の相棒──常人の身体より倍ほどはある巨大な盾──の取っ手を強く握り、仲間の一歩先へと歩み出る。その際、着ている全身鎧の重みのせいか、進んだ足がほんの少しだけ、石床にめり込んだ。


「ほう……? 最前に立つのは貴様ではないのか、勇者よ」


「ああ、違う。僕たちの一番前は、僕じゃない。


僕たちの”静なる盾“──ライト・サンドだ!」


 じろり、と。目など見えないはずなのに、魔王からの、まさに値踏みするような視線が、こちらの身体に絡み付いていく……ように感じる。


 もしや精神魔法の類いか、と文字通り気構えたが、しかしどうやら違ったようで、しばらくすると気持ち悪いそれは離れていった。


「はは、盾だと? こんな、このような魔力もろくに感じ取れん木っ端が、他の駒ならともかく、この我の一撃を『……そこまで』……なに?」


『そこまで……言うのなら………試してみれば、いい。


それとも──威勢がいいのは、口と言葉と態度だけか?』


 あ、まず、つい、いつもの癖で、挑発を──


「ふ──」


 笑うような声。と、共に、魔王の外套から生気の無い真っ青な手がぬらりと現れ──瞬間。


 瞬間、その指先から、まるで竜のような、激しく夥しい火炎が、こちら目掛けて吹き出し……ああ、なんだ。


“たかが”竜程度なら、問題は、無いな。


『しっ、』


 ぐるり。と、盾を片手で一回転──ほら、たったそれだけで、火炎を妨げる風の壁が出来上がり──こちらを飲み込まんとした脅威は、まるで蜘蛛の子を散らすように、四方へとその身を分けて散っていく。


 当然──俺や仲間たちに、一切の損害を与えることなく。


 ほう。魔王の口から感心が漏れ、同時炎が余熱も残さず消えていく──やれやれ、どうやら俺は試されたらしい。


「なるほど、加減していたとはいえ、触れさえせず我が炎を破るとはな。確かにこれではこちらもそちらの言葉を否定できぬ。

いいだろう。先ほどの無礼、取り消してやろうではないか」


 取り消す、などと抜かしたわりに、しかしその唯我独尊と言わんばかりの声色は一切変わらず。むしろそこに込められた尊大は、よりその濃度を増していて──ああ、まったく、ついさっき立ち塞がった四天王ってのといい、魔族ってやつは、いちいち偉ぶらないと死ぬ呪いにでも掛かっているのだろうか……


『──当然』


 しかしまあ。皆の盾役として、そんな俗っぽい疑問を(おもて)に出すわけにもいくまい、と、なるべく低めた声で、なるべく短い言葉で応対──ついでに盾の底を、思い切り床に叩き付ければ、まあそれなりに威圧感を演出できただろう。


 もっとも、当然こんな程度では、魔王はびくともビビっちゃくれない──むしろ低い音と量でくつくつと、正直言って不気味な笑いを口から漏らしていた。


「ふ、く、……良かろう。これなら、まあ、少なくとも退屈はせずに済みそうだ。

──では。そろそろまとめてかかって来るがいい、塵芥(ちりあくた)ども。


死ぬまでの間までは、貴様らの命で遊んでやる」


 そうして──魔王が──両手を振り上げ。


 そうして──勇者一行が──相手を見据え。


 ──そうして。世界の諸々を全て載せた、最大終戦と呼ばれるであろう決戦が。


 ──幕を。開けた。


大体こんな感じでーす。気になったら続きもどうぞー

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