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【短編集】2000字の物語  作者: シャルロット


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2/15

生意気な後輩は雪の日に

 はらり。

 六角形の結晶が見えるかと思うほど大きな雪の一粒が、目の前をゆっくりと舞い落ちていった。

「……雪か」

ぽつりと裕太がつぶやいた。

「と、いうことは」

脳裏に生意気な後輩の顔が思い浮かぶ。

「あいつがいるかもしれないな。ジンクスが本当かどうかだけ、確かめに行ってやるか」

誰に言い訳するとでもなく、でも何となく照れくささを隠すように裕太は独り言ちると、踵を返して下駄箱に舞い戻った。


 裕太が通う高校は町のはずれ、小高い丘の上にある。さほどの高さでもないのだが、その高低差のせいか、街中では霙なのに学校では雪がうっすら積もっていたりということが多かった。

 だが今年の冬は、それにしてもよく雪が降った。そして雪の日には決まって、生意気な後輩こと金井詩織が図書当番をしていた。もし今日も当番をしていたら連続5回目になる。さすがにないだろうな、と思いながらも、裕太は心のどこかで彼女が図書室のカウンターに座っているのを期待していた。


 ガラガラと図書室の引き戸を開けると、暖房のせいで、メガネが一気に曇った。外したメガネのレンズをハンカチで慌てて拭いていると、少し離れたところでくすくすと笑う声が聞こえた。

「何だよ、笑うことないだろ」

カウンターに歩み寄りながら、裕太は少しムッとして言う。もちろん図書室だから周りに迷惑にならない程度に。

「だって漫画みたいに真っ白だったから、おかしくて」

詩織はそう言いながらまだ肩が震えている。長いポニーテールが小刻みに揺れていた。

「今日も雪が降ったからお前が当番してるんじゃないかと思って来てみたけど、まさか本当にいるなんてな」

「5回目にもなると、あたしが雪の妖精に見えてきません?」

「むしろ雪女だろ」

「雪女ってすごい美人らしいですね」

「お前の頭の中では、『雪女』すら褒め言葉になるのか。美人の代名詞に雪女を使うほど、俺は酔狂じゃねえよ」

「使っていきましょ、雪女みたいに綺麗だねって」

「全会一致で却下だ。というか、お前それ言われて嬉しいのか?」

詩織は分が悪いと踏んだのか、澄ました顔でつっと目を逸らした。


「あ、そう言えば」

ばちんと軽く手を合わせると、詩織は立ち上がった。

「多分先輩が読みたがってた本が、返却されてたはず、っと……」

1週間の期間で貸し出された本は、返却されると一時的にカウンターの後ろの棚に置かれる。6時の閉室の直前に、その日返された本をまとめて開架の書棚に戻すらしい。詩織はその棚で何かの本を探している。その後ろ姿を見ながら、裕太はちょっと苦い気持ちになった。


 本当はもう少し仲良く話したいのに、顔を合わせるとどうしてか憎まれ口のような台詞ばかり口から出てくる。かと言って、真面目なことを言おうものなら、「えー」とか言って一蹴されそうで、それも怖くて出来なかった。

 こいつは俺のことどう思ってるんだろうな、なんて考えが裕太の頭をよぎった。でもそれをすぐに振り払う。そういう悩みは性に合わない。


「あ、これこれ!このシリーズ最近読んでましたよね。ちょうど最新刊が返却されてましたよ」

詩織が戻って差し出して来た本は、裕太がちょうど読みたいと思っていたその本だった。

「すげえ、当たりだよ。よく分かったな」

「もっと褒めてくれていいんですよ?あたし褒めて伸びるタイプだから」

見透かされたようで悔しくて、裕太は詩織の軽口に返事をせずに渡された手元の本に目を落とした。裏表紙を開けると、貸出記録の小さな紙が貼られていた。割と人気な本のようで、最近の日付が続けて判子で押されていた。1番新しいものはちょうど1週間前の日付だった。


「ありがとう。借りてくよ」

「じゃああたしが貸し出し処理しますね」

座っていた椅子から一つずれて、貸し出し用のパソコンの前に座った。それ以上会話を続ける糸口を見つけられず、裕太は本を受け取ると挨拶だけして、図書室を後にした。


 昇降口に向かいながら、さっき借りたばかりの本をめくる。でもあいつの顔が浮かんで内容は少しも入ってこなかった。

 俺の好みをわざわざ覚えててくれたのか。それともただの親切なのか。雪の図書当番の日に偶然この本が返却されただけなのかもしれない。そう思ってふと、裕太は気がついた。


 さっき貸出記録の紙に押されたのは今日ではなく、1週間後の日付だ。貸出日ではなく返却予定日なのだ。つまり裕太の一つ前の借主は、1週間前にこの本を既に返していたってことだ。

「あいつ1週間も取り置きしててくれたのか」

それが図書委員的にNGなのかはともかく、雪の日だからと裕太が久々に顔を出すのを期待して、待っていてくれたとしたら。


 まだ6時前。あいつは帰っていないはず。裕太は今すぐにもう一度詩織に会いたいと、思ったときには図書室に向けて走り出していた。

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