ヨウ素
宇宙ごみを減らす要素は「ヨウ素」!? 欧州企業が新型スラスターをテスト
2021/01/29 16:04
著者:鳥嶋真也
目次
oヨウ素を使った電気推進スラスター
o宇宙ごみの増加防止やコンステレーションの軌道維持に活用へ
欧州宇宙機関(ESA)やフランス、中国のベンチャー企業などは2021年1月22日、ヨウ素を推進剤に使う電気推進スラスターによって、衛星の軌道を変える実証試験に成功したと発表した。
ヨウ素は従来の推進剤よりも安全、安価で、シンプルで扱いやすく、さらに密度が高いため衛星搭載時の体積も小さくなるといった特長をもつ。衛星の軌道維持や、運用終了後の軌道離脱に活用することで、経済的にも環境的にも大きく役立つ可能性があると期待が高まっている。
ヨウ素を使った電気推進スラスター
このヨウ素スラスターを開発したのは、フランスのベンチャー企業「スラストミー(ThrustMe)」である。同社はフランス国立科学研究センター(CNRS)と研究機関エコール・ポリテクニークからのスピンオフで生まれた。
従来、衛星に搭載される小型のロケットエンジン(スラスター)の推進剤は、毒性があったり、またとくに電気推進エンジンの推進剤としてよく使われるキセノンは、高価だったり、気体であるため体積が大きかったりと、さまざまな短所があった。
一方、消毒薬やデンプンと反応させる実験などでおなじみのヨウ素は、無毒であるため扱いやすく、安価という特長がある。また、常温・常圧で固体で密度が高いため、加圧する必要がなく、タンクなどを含めたシステムの体積も小さくできる。さらに、加熱すると液相を経ずに気体になるため、スラスターの仕組みをシンプルにできるという特長もある。比推力や推力といった性能は、キセノンとほぼ同等だという。
くわえて、こうした特長から、スラスターのシステムに推進剤を充填した状態で販売、納入できるため、衛星の組み立てプロセスを大幅に簡略化できるという利点もあるという。
スラストミーはまず2019年に、中国とルクセンブルクに拠点を置く小型衛星ベンチャーの「Spacety」が開発した6Uサイズのキューブサット(超小型衛星)に技術実証用のヨウ素スラスターを搭載。宇宙への打ち上げ後、貯蔵や供給などの技術実証を行った。実際に噴射も行ったものの、試運転であったことから、軌道を変えるほどの増速量は出さなかったという。
同社はこの成果を踏まえ、「NPT30-I2-1U」という実際に噴射するスラスターを開発。30という数字は消費電力が30Wであることを意味する。開発はESAの「ARTES」という研究開発プログラムの支援を受けて行われた。
NPT30-I2-1Uは、Spacetyの12Uサイズのキューブサット「北航空事衛星一号」に搭載され、昨年11月に中国のロケットで打ち上げられた。
そして、昨年12月28日と今年1月2日に、それぞれ90分間にわたり、NPT30-I2-1Uの噴射を実施。軌道高度を約700m変えることに成功したという。
宇宙ごみの増加防止やコンステレーションの軌道維持に活用へ
スラストミーやESAでは、これから打ち上げられる小型・超小型衛星にこのスラスターを搭載することで、運用終了後に宇宙ごみ(スペースデブリ)になるのを防ぐことができるのではと期待を寄せる。
近年、大きな問題になっている宇宙ごみは、既存のごみを減らすのと同時に、新たに打ち上げた衛星やロケット機体などがごみになる前に、スラスターを逆噴射するなどし、地球の大気圏に再突入して「自己処分」させることで、新たなごみの発生を防ぐことも求められている。だが、大型の衛星やロケットならともかく、超小型衛星はサイズや質量、コストなどが限られているため、スラスターを搭載するのは難しかった。
しかし、このヨウ素スラスターなら、前述のように無毒で安価、扱いやすく、システムもシンプルといった多くの利点があることから、超小型衛星にも搭載しやすい。
さらにスラストミーやESAでは、通常の運用時における衛星の軌道変更や、高度の維持などにも役立つとしている。
近年、数十機の超小型衛星を使った地球観測コンステレーションや、数千、数万機の小型衛星を使った宇宙インターネットなどの構築が活発になっている。こうしたシステムの衛星は、1機1機が適切な軌道を維持し続けたり、要望に応じて軌道を変えたりする必要があり、さらに運用終了時には軌道から離脱させ、大気圏に落として処分する必要もある。
こうした需要に対し、安価で小型、扱いやすく組み立てもしやすい、ヨウ素スラスターは、十分に応えることができる可能性がある。
ESAは「小さなスラスターだが、そこには画期的な技術革新の可能性を秘めている」とコメントしている。
ヨウ素を推進剤に使った電気推進スラスターは他国でも研究・開発が行われており、たとえば米国航空宇宙局(NASA)のグレン研究センターが開発したヨウ素スラスターを積んだ超小型衛星が、近々打ち上げ予定と伝えられている。
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「お父さん、ヨウ素って、理科の実験でジャガイモのデンプンを紫に染めるやつでしょう?」
暁が、解説君のメンテナンス中の正太郎のところへ行って聞いた。
「ヨウ素は固体は黒い金属質の外観で、液体にはならずに紫の気体になります」
解説君が目をチカチカさせて言いました。
「I。ヨードチンキなどの消毒液の材料。原子爆弾の放射線が喉の甲状腺を侵す前に飲んでおく。海藻に含まれる。なお、大陸の他の国ではヨウ素を取り入れるために塩に混ぜて生成するのが普通であるため、食品を輸出入する際、ヨウ素の入っていない塩や粉ミルク、昆布だしの入っている食品などがクレームの対象となることも……」
プツン。
勝手に解説しまくるので、正太郎は解説君の動力源を外した。
「ヨウ素がどうしたんだい?」
「(上記参照)。すごいよね」
「宇宙船の推進力により良い元素ってわけか!こりゃあ、民間で宇宙開発している高橋一馬さんたちに朗報だな!」
正太郎は研究室の巨大スクリーンで数年前一緒に研究していた高橋一馬さんに連絡をとった。
「ヨウ素!ちょうどこちらでもそのニュースを見ていて……」
一馬は久しぶりなこともあって、大盛り上がりだった。
「あきら君は大きくなったなぁ。道理で俺たちも年をとるはずだよ!……あれ?解説君は?」
「メンテナンス中」
「また別の機会に解説君とも会いたいなぁ」
「伝えておくよ」
笑い声がいつまでも響いていた。