おじいちゃんの探し物
まさるはおじいちゃんが大好きです。おじいちゃんはまさるのお母さんのお父さんです。まさるのお父さんは会社でお仕事をして、お母さんはパートでスーパーのレジのお仕事をしているのでお家にいません。だからまさるが学校から帰ったらおじいちゃんが出むかえてくれるのです。おじいちゃんはおやつの用意をしてくれて、学校の宿題を教えてくれます。夏には、林に虫取りに連れて行ってくれて、大きなカブトムシをとってくれました。おじいちゃんはよく昔話をしてくれました。おじいちゃんが若かった時の話です。おじいちゃんが若い頃戦争があってとても苦労したそうです。おじいちゃんは貧しくてとても困っていました、でもまわりの人たちに手助けされて、色々なお仕事をしました。まさるがお話を聞いて一番面白かったお仕事は、ポン菓子売りでした。特殊な機械でお米に圧力をかけて、砂糖をまぶして、サクサクのお菓子にするのです。おじいちゃんはポン菓子の機械を荷車に乗せて、ポン菓子を子供たちに売り歩いたそうです。まさるもポン菓子が食べたいと言うと、おじいちゃんが駄菓子屋で買ってきてくれました。サクサクして甘くてとても美味しかったです。まさるはおじいちゃんとの生活がこれからもずっと続くと信じていました。
ある時から、おじいちゃんはよく忘れ物をするようになりました。
「まぁくん爪切り知らんかね?」
まさるはいつも爪切りを入れている引きだしから爪切りを出して、おじいちゃんに渡します。
「やぁ、こんな所にあったのか。まぁくんありがとうね」
こんな事が度々起こるようになりました。心配したお母さんがおじいちゃんを病院に連れて行きました。
帰って来たお母さんは泣いていました。まさるは何か大変な事が起きたのだなと思いました。しばらくして、まさるはお母さんに呼ばれました。
「まさる、おじいちゃんはね、認知症っていう病気なんだって。この病気はね、色々な事を段々と忘れてしまう病気なの。まさる、おじいちゃんが困っていたら助けてあげてくれる?」
「うん、僕おじいちゃんを助けてあげる」
それからまさるはおじいちゃんが探し物をしていると一緒に探してあげました。体温計、財布、リモコン。一度見つけて、ここにしまおうね。と言っても、おじいちゃんはまた忘れて探しています。まさるは段々不安になってきました、このままおじいちゃんが忘れ物をしたら、まさるの事まで忘れてしまうのではないか、とても怖くなりました。
ある時おじいちゃんはお買い物に行って、お家に帰って来られなくなりました。お巡りさんがおじいちゃんをお家に連れて来てくれました。お母さんはパートのお仕事を辞め、家にいるようになりました。おじいちゃんが一人で外に出ないようにするためです。おじいちゃんはお母さんの事を、死んだおばあちゃんだと思っているようです。お母さんの名前は裕子なのに、おじいちゃんはお母さんを文子と呼びます。死んだおばあちゃんの名前です。そんな時のお母さんは、疲れたような、悲しいような顔をしていました。
おじいちゃんはたまに、昔の記憶がしっかりしている時があります。まさるに今度の夏に、またカブトムシを取りに行こうね。と言ってくれます。でも、まさるはもうおじいちゃんと二人で、林にカブトムシを取りに行く事はできないとわかっているので、とても悲しい気持ちになります。
おじいちゃんはどんどん変わっていきました。前は背筋がピンと伸びて元気だったのに、今では背中が丸まって元気がなくなりました。そしていつも何かを探しています。いつも、ない、ないと言っています。そんな時まさるはいつもおじいちゃんと一緒になって探し物をしてあげます。
「ないのぉ、ないのぉ、どこに行ったかのぉ」
「おじいちゃん、なにがないの?ぼくが一緒に探してあげる」
「わしの大事なまぁくんはどこに行ったかのぉ」
まさるは胸の奥がグッと熱くなりました。
「おじいちゃん、僕はここだよ。おじいちゃんの側にずっといるよ」
「ああ、ここにいたのかい心配したよ」
おじいちゃんはまさるを優しくギュッと抱きしめました。まさるは涙がポロポロ出て来ました。悲しいのと嬉しいのと、半分半分の不思議な気持ちだったからです。おじいちゃんは変わってしまった所も沢山あります、でも変わっていない所もちゃんとあります。それはおじいちゃんがまさるの事が大好きで、まさるもおじいちゃんの事が大好きだという事です。まさるはこれからもずっと、おじいちゃんの探し物を手伝ってあげようと心に決めました。