玄関での超個人的な死闘
かなり前に1話を予約投稿しており、「その間に書き溜めておくかぁー」と思っていたら、案の定な展開になりました。
あーあ、頑張ろう(笑)
私の眼の前に王子様がいる。――比喩ではない。
綺麗な銀色の長髪を後ろに纏め、この場にそぐわない執事服をきた美青年が玄関の前で笑顔を作り立っている。……待って、この人何て言った?
「あの、今なんて仰いました?」
「貴方様の執事になります、お世話になります。と申しました」
眼を瞑り、頭を少し下げ、右手を胸に当てる騎士さんとやら。
「何かの冗談でしょ?――さ、詐欺ね!?」
私は美青年の虜になる前に玄関のドアをしめ――――れなかった。
ドアは、まるで初めからこの半開きの状態で作られた置き物のようにびくりとも動かない。
「申し訳ありませんが、少々の魔法を使わせて頂きました。お嬢様の膂力では動かすことは不可能で御座います。どうか、落ち着いて話を聞いていただけますでしょうか?」
騎士さんはゆっくりと半歩こちら側に近づく。
マズい!……家に入ってくるつもりだ。つまりは、私に近づくということ。それだけは阻止せねば――!
「わかりました!話を聞きましょう。ですから、ここで話をしませんか?この位置で」
「……ええ、承知しました」
……よし、何とかなった。頼むから私に近づかないでくれよ、一発で落ちてしまう可能性しかない!
私は唾をのみ込み、口元を手の甲で拭う。
なんで休みの日にこんな大変な目にあうのだろう……。
「杏樹・カトウ様で間違いないですよね?」
ニコリと微笑む執事殿。私は無言で頷く。
「杏樹様は執事派遣活動にご応募されましたよね?」
「い、イエス」
「見事当選しましたので、私が此処にいます」
「――ちょ、ちょっと待って下さい!当たった?本当に」
俄には信じられない。年頃の女性なら誰もが応募するものだ。倍率なんかは宝くじと同じくらい、いやそれ以上かもしれない。そして、一番信じられない点が一つある。
「……私の家はC級ランク家庭ですよ?当たる訳がないですよ」
そう、C級ランクにそんな美味しい話はやってこない。世間の常識だ。全てはA級の人が第一優先させ、その次にB級、余ったのがC級となる。ちなみに、一番下のD級は……口にするもの憚られる。
「それは噂話ですよ。C級ランクのご家庭では執事を雇うお金がないというだけで」
「そ、それです!お金。――私の家にお金はないです!」
大きな声で情けないことを口走ってしまい、顔が赤くなる。
「ご安心を――。私はお金は頂きません。ほとんど無料で御座います。衣食住さえあれば大丈夫です」
「……そんな、本当に?……ど、どうしよう」
「……嫌ですか?」
「いやいや!嫌ではないんですけど――私の家に執事がいたら不自然だし、周りに何て説明したらいいのか……。それに、騎士さんの部屋がないよ?」
「任せて下さい、なんとかしましょう。とりあえず、家の中に入ってもよろしいですか?」
騎士さんはゆっくりと一歩私に近づく――!
こないで……!心の中でそう叫ぶ。
距離を取りたくても目線を外せれない。きっとこれも魔法を使っているのだろう。私の凡人な魔力では到底抗えない力なのだろう。
「そんなに心配そうなお顔をしなくても大丈夫ですよ」
「と、とりあえず!明日また来てもらえます?いや!1時間後でいいんで」
「何故ですか?ご命令とあらば従いますが、ここをうろつくのは得策ではないと思います。……杏樹様の言った通り、目立ちますので」
「うっ!でも……」
「そんなに嫌ですか?」
そんな困ったような顔をしないでくれぃ!
違うんだ!私はまだシャワーを浴びてないんだ!!
昨晩は夜更かししてそのまま寝ちゃったから、朝シャワーをしようと思った矢先なんだ~!
「色々混乱しているのは分かります。とりあえず美味しい朝食と紅茶をご用意させて頂くので、ごゆっくりと汗を流して下さい」
「えっ……、わ、分かっていたの?」
「ええ、まあ。そろそろいいでしょうか?認識阻害魔法にも限界がありますので……」
「はい。な、なんか……ごめんなさい」
「いえ。すぐに言わなかった私に非があります。申し訳ございません」
頭を下げた瞬間に動く事が出来たので急いで家の中に逃げ出して、「どうぞ」と声を掛ける。
真っ赤になっている顔を手で冷やしながら、これからどうなっていくのか、頭の中は風邪を引いた時のように朦朧としていた。
身体に纏まり付くじっとりとした冷や汗を感じ、これは夢ではないんだなと確認をする。
……とりあえず、早くシャワーを浴びよう!
飛ぶが如く、下着を取りに部屋へと走り出す。