第36話 廃神さん...再会する(12)
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●ブルーアース暦一年三月五日(アルグリア大陸暦千五百三十八年三月十七日)
【迷宮都市バベル~迷宮バベル~十階軍事教習施設】
【バルベルデ・ウォルフ】
「野郎共、抜かるなよ! 突撃だ~!!!」
【エンプレス】
「笑止! 迎え討て!」
迷宮都市バベルの中央に聳え建つ【迷宮バベルの塔】の十階層に位置する、立法・司法・行政・軍事施設等の公務機関領域。
其処に在る軍事教習施設内にある、特別演習施設【無限の戦場】は、死しても蘇る事象を施された領域で、日夜【死と再生】を繰り返しながら、戦闘経験値を爆上げ中の老獣精霊人の集団の姿が在った。
迎え討つ白銀の鎧を身につけた魔導人形部隊が、【氷狼エンプレス】の指揮の元で、一糸の乱れもない動きで対応する。
魔導人形の魔核には、記憶と経験値を蓄積する装置が組み込まれていて、獣精霊人と戦えば戦うほど、動作は研ぎ澄まされ熟練の技を繰り出す。
「くっ、兄貴! エンスの姉御、全く容赦が無いですぜ!」
「当り前だ、副団長は俺達を毎回殺す気で来ている! そんな甘えた考えだと【あっち】で直ぐに、押っ死んじまうぞ!」
総勢400個体の合戦が繰り広げられる演習場に於いて、純粋な力のぶつかり合いが、戦いの経験値を積み重ねていく。
FHSLG【アルグリア戦記】に於いて、迷宮とは任意に創造出来るものではない。しかしながら、其れはアルグリア大陸の住人ならばで在って、【プレイヤー】は其れに当てはまらない。
アルグリア大陸の住民は、一般的には教会で古代遺物の石版で職業の変更(転職)が可能である。
唯一の例外がカリダト教の【教皇】で、教皇は自分以外の住人の職業を、任意に変更する事が可能な存在だった。
勿論、職業適性がある職種と条件は付くが。
プレイヤーは職業を任意に変更出来る。其れも自分と、部隊に編成している配下の職業も変更可能だった。
迷宮を創造出来る者は、アルグリア世界に於いては【アルグリア十三柱】と呼ばれる【神々】と【迷宮主】だけ。
プレイヤーは任意で、職業適性のある職種の中から転職が可能だ。
其の選択職業に、【迷宮主】が在れば、【プレイヤー】は其の職種に付き、其の権能を得る事が可能だった。
●アルグリア大陸暦千五百三十八年三月二十日
【エルブリタニア帝国~ナダリス領~グルト平原】
天空から照らされる日の光に因って、銀色の光を乱反射させる集団。其の歩みは重厚であり、一分の隙も無い部隊行動だった。
エルブリタニア帝国旧ガイアス領反乱討伐部隊。ベリトリアス第三皇子率いる部隊は、彼の【女皇帝アリトリアス・エルブリタニア】が率いた帝国騎士団【クリムゾンソード】五千余。
此処、クルト平原で其の軍に合流する辺境貴族軍一万余。合計一万五千余の陣容である。
今回は中立派が推すベリトリアス殿下の実績作りとしては、最高の相手だった。
懸念すべきは、海戦である。水精霊人と海精霊人は、海戦の熟練種族である為に帝国騎士団としても注意は必要であった。
【エックス・バルブルッチ】
「殿下、間もなく辺境貴族軍が合流の手筈となっております!」
【ベリトリアス・エルブリタニア】
「大義! エックス、よろしく頼む!」
中立派の重鎮ニックス・バルブルッチ辺境伯の次男であるエックス・バルブルッチは、帝国第三皇子ベリトリアス・エルブリタニア殿下の元で、働ける感動に打ち震えていた。
辺境伯家では嫡男が爵位を継ぐ習わしになっており、嫡男に万が一の時の代役として辺境伯家で過ごすなど、気位の高いエックスには我慢為らなかった。
故に、ベリトリアス殿下が討伐軍を指揮すると決まった時に、我先にと従軍を希望した。
俺はもっと高見に昇る。其れだけの力があるとエックスは自負していた。
「はっ! お任せ下さい、殿下!」
野望に燃える辺境伯家の次男。其の野心を冷静に見抜いている第三皇子。両者は果たして、自分達の望む未来を手に入れられるのだろうか。
風雲急を告げる旧ガイアス公国領、反乱討伐軍を待ち受ける罠。其の罠に既に落ちているとは露も知らない愚か者達が、自分達自身の葬送の儀式を執り行う。
「敵反乱軍、凡そ二万! 前方のクルド平原に布陣、展開しております!」
伝令兵からの報告に北叟笑む二人。海戦での戦いを忌避していた反乱討伐軍は、破壊の剣を前方の反乱軍に剣先を向けたのだった。
●アルグリア大陸暦千五百三十八年三月二十日
【エルブリタニア帝国~帝都エルシィ~元老院】
【アレグス・エルヴィス】
「今日にも討伐軍が、ナダリス領クルト平原前で、辺境貴族軍と合流の手筈となっておりましたな?」
【ニックス・バルブルッチ】
「ええ、エルヴィス候。我が息エックスが、寄子と併せて一万余が其の手筈と為っておりますぞ」
【アルスシア・サントーリ】
「因みにベニアス王国との国境は、万全を期しておるのでしょうな?」
帝国の中枢である元老院の一室に、九名の元老達が集い帝国の駒の配置を再確認していた。
本来、帝国を導くべき皇帝は病に伏している。其の皇帝は、歴代最強の呼び声も高い人物であった。
皇帝が出征した戦いでは、一度の敗北も期していない【常勝不敗】の皇帝として、アルグリア大陸に其の名は轟いていた。
其の皇帝の了解を取っている元老院としては、次代の皇帝選出を始めたい処であった。しかしながら、其の次期皇帝選出の試金石と為る戦いで大番狂わせが起こる。帝国遊撃騎士団【双頭の竜】の壊滅による帝国第一皇子の敗北であった。
現皇帝の武が至高であると畏敬する帝国民に取って、第一皇子の敗北は帝国の斜陽を意識させる。此の旧ガイアス公国領の反乱討伐は、決して敗れる訳にはいかない戦いだった。
今回の策謀の首謀者である闇森精霊人の傭兵集団【フウマ】。其の策謀の全容は、アダーク領で反乱を起こし、続いて旧ガイアス公国領の四領で反乱が起きる。討伐軍が旧ガイアス公国領に入ったと同時に、ベニアス王国が帝国に攻め入ると言うものだった。
証人と証拠と証言が続々と集まり、【密告者】の話を真実と断じさせる。
「ベニアス王国国境には帝国東部騎士団五千と諸侯軍が終結して、動きが有り次第ベニアスを誅する手筈と為っておりますな」
貴族派の元老の一人ヨハネ・アポカリス伯爵が、サントーリ公に返答する。
「そろそろ、ベニアス王国側に動きが在っても可笑しくないのだが、一向に其の気配を見せないのが、気になるな?」
「【隠者の手】の者からの報告も、異常無しとしかない。此れはどうしたものかな?」
「其れに今回の反乱計画の首謀者である【フウマの里】であるアダーク領【ウイド】には、闇森精霊人の影一つ無いと報告が来ておる! 此れは一体如何言う事なのか、ウイドの住民二万余が忽然と消えた。此れは比喩でも無く、事実だぞ?」
「其の報告も解せん。確かウイドは【隠者の手】に因って封鎖されていた。遊撃騎士団崩壊の報を受けて封鎖を解いた事までは解る。しかし、見張りが一人として気付かぬ間に忽然と二万余の住民が全て姿を消すとは、全く信じられん!」
元老達は、一連の流れを見ながら、不審な点を挙げていく。そんな元老達に急使の報せが、飛び込んで来た。
「申し上げます! 急使からの報告です! オルスカ王国に不穏な動きあり、国境付近に3万の軍勢を確認せりとの事です!」
「な? 何だと? 其れは真か? 急使を此処へ呼べ!」
騒然となる元老達を、サントーリ公が鎮める。急使は報告をした直後、気を失い倒れたとの事。衰弱が激しく安静が必要だと言う。
「よもや、謀られたのではないのか? ベニアスでは無く、オルスカだとすれば、一大事だぞ!」
エルヴィス候の動揺が場に伝染していく。そんな中、ニックス・バルブルッチ辺境伯は、言葉に出来ない不安に襲われていた。
オルスカ王国との国境とは、即ちバルブルッチ辺境伯領に他ならない。
現在、クルト平原に国境の防備の軍勢五千を残し、ほぼ全軍を反乱鎮圧軍として向かわせていた。其れも寄子の軍も併せて。
もし、此の一連の策謀が態と露呈した事を策とするならば、悪辣と言うしかなかった。
【ニックス・バルブルッチ】
「至急、帝国南部騎士団の出動を要請したい!」
バルブルッチ辺境伯領が、オルスカ王国軍に抜かれれば、帝都エルシィと旧ガイアス公国領との間に楔が打ち込まれる。其れは反乱討伐軍との補給経路が途絶え、退路が断たれ、帝国の敗北に繋がるかも知れない一大事であった。
元老院は全員一致での、オルスカ王国国境への帝国南部騎士団の出兵を可決したのだった。
●アルグリア大陸暦千五百三十八年三月十九日
【バルブルッチ辺境伯領国境付近~オルスカ王国バルガの森】
【サリエリ・ダークス】
「【獣王】陛下、帝国軍に動きあり、どうやら我らの動きが気取られたようです!」
【ランジャ・オルスカ】
「ふむ、想定内だ。間もなくギエロア殿からの連絡があろう! 其の報を待って、永年の怨敵に鉄槌を喰らわせてやるわ!」
黄金の鬣を靡かせながら、帝国領を睨み付ける獅子獣精霊人の姿が其処には在った。追従する副官が、軍の配備を迅速に伝達していく。
此処、バルガの森に集結したオルスカ王国軍三万余。虎視眈々と其の野生の牙を、突き立てる戦気に包まれていた。
【カルマ】
「【獣王国】が出陣するか、ラン、サリ......」
バルカの森の上空に浮かぶカルマが真っ裸で呟く!
其の視線の先には、懐かしい【獣王国オルスカの獣王】と、其の副官の【狐獣精霊人】の姿が映っていた。
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アルグリア大陸に於いて、神の代行者とは、【十の災厄】を指す。其の圧倒的な力は、災厄と呼ばれるに相応しい神罰だった。
其の十の災厄の一体である【不死鳥】が支配する地【アゾッド炎獄】は、大陸の南西に位置している。
其の支配領域を取り囲むようにハムラビ砂漠が、アゾット炎獄への道を閉ざしていた。
砂漠の民であるテスラ王国の領域に存在する【十の災厄の縄張り】を侵す者は、此処近年誰も存在しなかった。
アゾット炎獄とは、永年龍精霊人が守護する禁足地であった。
又、気を纏う龍精霊人の国へ攻め込む愚か者は、アルグリア大陸には存在しないのも事理明白だった。
そんな砂漠の王国にも、目に見えぬ戦の気配が、刻一刻と近付いている事を、誰も考えもしていなかった。
To be continued! ......
新章【傭兵騎士団乱舞編】、徐々に全容が見えて来ましたが、如何だったでしょうか?
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