第30話 廃神さん...傍観する(13)
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●アルグリア大陸暦千五百三十八年三月十六日
【アルバビロニア大帝国~帝城プロロス】
【ナークス・アエニブス】
(くっ、諦めるな! 考えろ、考えるんだ! 何かあるはずだ、母さん、私に力を......)
詐欺師は、死中に活を求める。
しかし、端から己の命など捨てている詐欺師にとって、この危機を脱するのに、懸けられるものは残されていなかった。
詐欺師は諦めない。
否、諦める訳にはいかなかった。
詐欺師は、少女を救いたかった。
詐欺師は、母を救いたかった。
詐欺師は、己を救いたかった。
そして、詐欺師は亡き母に助けを求めた。
亡き母に少女を助ける、一助を願った。
そう、詐欺師には、もう母親しか残されていなかったのだ。
詐欺師の心が、悲観し、失望し、絶望し、心が折れるかに見えた。
しかし、誰もが心折れる状況でも詐欺師の心は折れなかった。
心の奥底にある“何か”が、詐欺師の心を、崩壊から繋ぎ止めていた。
そして、心の奥底にある“何か”が己に語り掛ける。
“諦めるな!”と。
詐欺師の魔法は解けている。
脂汗を流し、必死に平静を装う、詐欺師の意識は朦朧として来ていた。
そして、朦朧とした意識故か、詐欺師は刻が止まった様に感じた。
【カルマ】
『ナークス! 否、ミクナークよ! ......』
心の奥底の“何か”とは違う、静かで暖かな声が頭に響く。
その声は、優しく問い掛ける。
お前は良くやった。
もう苦しまなくても良いと。
母を助けられなかった想い。
その想い故に、煩い、悶え、苦悩したと。
その想い故に、お前は少女を助けたいと。
否、己の心を、己の想いを後悔から解放し、楽になりたいだけではないのかと?
違う、違う、違う!
私は強く、激しく、それを否定する。
声は尚も優しく、問い掛ける。
もう起死回生の手段は、余り残されていないと。
お前の想いだけでは、無理だと。
お前の願いだけでは、無理だと。
現実を見ろと。
明らかに挙動の不審なお前の様に、お前が二枚舌だと皆が覚っていると。
許容しろ、現実を受け入れ、楽になれと。
...だが、それでお前は本当に良いのかと?
満足なのかと?
静かに、暖かいその声は、私に問い掛ける。
否、否、否!
私の心の奥底にある“何か”が、言霊を紡ぐ!
俺は母さまとの誓いを守れなかった、己を許せなかった。
俺は母さまの想いに気付けなかった、己を許せなかった。
母さまを助けられなかった想いだと?
そう悔しかった、無念だった、後悔した!
母さまは死にゆく己よりも、残される私を案じていた!
俺は後悔した、苦しかった、楽になりたかった。
ああ、......母さまと重なる、母さまの匂いを、想いを感じる。
母と少女が重なる。
あの少女を助けるんだ!
己よりも、父を案じるあの少女を助けたいんだ!
その声は、静かに呟く。
『少女を助けても、お前の母は生き返らない......』
私の心の奥底にある“何か”と、私の想いが融合し、それを強く拒絶する!
そ・れ・が・ど・う・し・た?
あの少女を助けたい!
己よりも父親を案じる、あの少女の想いを、願いを、少女自身を、私は救いたいんだ!
私は問い掛ける。
あなたは、一体誰なのかと。
その声は告げる。
“俺はお前で、お前の願いを叶える者だ”と。
だったら助けて下さい、あの少女を。
あの余命幾ばくも無い、あの少女を助けて下さいと。
それが無理ならば、この危機を脱する力を俺にくれと。
その為なら、私の命も全て捧げると。
母と重なる少女を助けたいと、...どうか、どうか!
どうか、助けて下さい! お願いします!
私達は、その声に乞い願った!
【カルマ】
『その願い聞き届けた......』
そして、刻が動き出す。
詐欺師は、脂汗を掻き、朦朧としながらも、声を紡ぐ。
【ナークス・アエニブス】
「言霊に、......想いを。言霊に、......願いを。我は、さ、詐欺師な、り。......我は、人を欺き、己を欺く者なり!」
FHSLG【アルグリア戦記】に於いて、才能とはアルグリア大陸に住む、全ての生き物への才能神から贈り物である。
才能神は見ている、生き物の行いを。
才能神は知っている、生き物の想いを。
才能神は叶える、生き物の行いと想いを。
才能神は授ける、生き物に才能を。
才能神は願う、生き物の可能性を、その才能に込めて。
【アルグリア戦記】でナークス・アエニブスで遊ぶプレイヤーが少ないのは、メリットを超えるデメリットがあるからだ。
余りにも激しい博打性故に、一部の好事家しかプレイしないのだった。
ナークス・アエニブスの才能は、《詐術Ⅸ》《話術Ⅸ》《奇術Ⅶ》《催眠術Ⅸ》《交渉術Ⅴ》《鑑定術Ⅲ》《礼儀作法Ⅲ》《薬術Ⅲ》《錬金術Ⅲ》《長剣術Ⅲ》の十枠である。
そして、称号《二枚舌》の効果は、嘘・虚言の効果(極大)【交渉時の成功率が八十パーセント上昇する】と言う超不正行為なものである。
しかし、交渉失敗時に嘘・虚言が必ず露見する効果(極大)【失敗時に某かの罰則が付与される。罰則は交渉内容により変化する】がある為に、一般プレイヤーはナークス・アエニブスを敬遠する。
詐欺師は言霊を紡ぐ。
その言葉に、想いを、願いを込めて紡ぐ。
詐欺師は、人を欺く者である。
そして、超一流の詐欺師は、己をも欺く者である。
詐欺師の発した言葉に、周囲の者達は、騒然とし詐欺師を罵倒する。
「やはり二枚舌だったのか! この詐欺師め!」
その様子を見守っていた大帝が採決を下す。
【アレキサンドロス・アルバビロニア】
「化けの皮が剥がれたか、......二枚舌よ? 我とミクナーク殿が以前からの知人と知らない愚か者よ!」
大帝の雷の如き威圧を帯びた言葉が、詐欺師に直撃する。
しかし、詐欺師は何食わぬ様子で大帝に告げる。
【ミクナーク・ベニアス】
「愚か者はお前だ! 俺を忘れるとは呆けたな、爺さん!」
詐欺師が、事もあろうにアルバビロニア大帝国の大帝を罵倒する。
騒然とする大広間で、詐欺師は更に吠える!
【ミクナーク・ベニアス】
「馬鹿ばっかりか? 俺はミクナーク・ベニアス。お前達、愚か者に二枚舌と呼ばれる男だ!」
【カルマ】
(ナーク、お前......相変わらず、口悪いな!)
プロロス城の大広間で、姿と気配を消して空中に浮かぶカルマが嘆息する!
その視線の先には、己の演目に参加した群衆に、居丈高に罵詈雑言を吐く、詐欺師の姿が映っていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
アルグリア大陸の北北西に位置する風精霊人が統治する北の大国、イルガリア共和国は、君主が存在しない国家である。
君主ではなく一般国民の代表が集い、国を統治する。
国民の代表を評議員と呼び、国を統治する為の意志決定機関を、評議会と呼ぶ。
そして、評議会の代表を、元首と呼ぶ。
君臨すれども、統治せず。
元首を表す端的な言葉である。
あくまで統治は国民の代表である、評議員の話し合いで決定する。
評議会の定めた法律が、統治の基盤となっている。
風精霊人は自由を愛し、自由を尊ぶ。
その気風に共感して、イルガリアの国民になる者もまた多い。
国民が国民の為に存在する国が、イルガリア共和国であった。
自由の国にも、不自由は存在する。
その不自由によって巻き起こる、望まれぬ戦いの軍靴の音が、静かに自由の国に忍び寄っていた。
To be continued! ......
ご都合主義満載! 出来れば【詐欺師飛翔編】の締めの33話までお付き合い頂ければ、幸いです!
ミクナーク、口悪いな、けど此れからどうなるんだ? と思った人は、★評価・ブックマーク登録・感想よろしくお願いします!
最後に、読者の皆様に感謝を、お読み頂き、ありがとうです!
【2020/07/21 改訂しました】




