第29話 廃神さん...傍観する(12)
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●アルグリア大陸暦千五百三十八年三月十六日
【アルバビロニア大帝国~帝城プロロス】
【ジズード・マラッセ】
「はっははははは~! やっぱり偽者だった! 俺は間違ってはいなかった! これでノクレ、お前も終わりだ!」
【ノクレ・オーディス】
「......」
ベニアス王国の王妃マルガレーテの告発に、動揺する詐欺師ナークス・アエニブス。
その状況から、己の判断は間違いなかったと確信した大商人ジズード・マラッセは、近衛兵に拘束されながらも、曾ての親友ノクレ・オーディスを嘲笑する。
そんな状況に唖然としながらも、ノクレはジズードの言葉を受け、親友を悲しげに見詰めるのだった。
FHSLG【アルグリア戦記】のプレイキャラクターは、アルグリア大陸暦千五百三十八年一月一日午前○:○○からのゲーム開始となる。
但し、アルグリア大陸暦千五百三十八年一月一日午前○:○○以降に、プレイキャラクターが生誕する場合は、生誕時からのゲーム開始となる。
では、ゲーム開始時にアルグリア大陸暦千五百三十八年一月一日午前○:○○前の記憶がプレイヤーに存在するかと言うと、それは存在しない。
故にプレイヤーは、ステータス表示の情報表示から関係図を参照して、アルグリア世界での関係を把握する。
関係図には、己との関連性と、詳細な部分では、相手の呼び方まで記載されている。
また、プレイヤーはゲームシステムの情報閲覧で、他のキャラアバターの情報を得る事が可能である。
そして、商人ノクレ・オーディスの情報閲覧の関係図では、ジズード・マラッセは今も尚、親友と記載されている。
田舎の村から出て来たノクレに対して、商会長ジノル・オーディスの目に叶ったとは言え、商会の従業員の風当たりは強かった。
しかし、そんな状況でも親身に接してくれたのが、同年代のジズード・マラッセだった。
それから、苦難を共にした二人は親友となり、オーディス商会の両輪と呼ばれるまでに成長した。
ノクレは商売に没頭して色恋には全く興味はなかったので、親友ジズードから付き合っている女性がいると聞いた時は、非常に驚いた。
親友の恋を応援しようと相手を尋ねると、「今はまだ言えない」とジズードは繰り返すばかりだった。
そうこうしている間に、商会長ジノルが体調を崩し、次期商会長にノクレを指名する。
そして、ノクレに娘アリンと結婚して商会を継いで欲しいと、今際の際で懇願した。
ノクレは恩人であるジノルの頼みを聞き入れ、アリンと結婚し商会を継いだのだった。
その後、二人の子供を授かったノクレに、妻アリンは衝撃の事実を告げる。
アリンとジズードは恋仲だったと。
お互い好意を持っていて、いずれ父に話をして認めて貰おうとしていたと。
しかし、今際の際の父の懇願を聞き、ジズードと別れたと。
ノクレは、アリンを責めた。
何故言ってくれなかったのかと。
ジズードはたった一人の親友だと。
彼はどんな思いで、己を支えてくれていたのかと。
ノクレは、ジズードに謝罪した。
しかし、その謝罪を聞いたジズードは、「アリンと二人で決めた事だ」と「気にするな」と言うばかりだった。
そして、ノクレの直感が危険を鳴らす出来事が起こる。
ノクレにもしもの事があった時に、ノクレの子供が幼い場合には、大番頭であるジズードが一時的に商会長に就任すると言う、覚え書の作成だった。
確かにこの時期、アルグリア大陸を飛び回っていたノクレは、幾度となく賊の襲撃を受けており、危険な場面も多々あった。
万が一と言う事もあると考えたジズードの提案を、アリンの件でノクレの為に身を引いた親友の言葉を信じ、己の直感に反してその覚え書を作成した。
そして、オーディス商会の脱税が、商会の従業員から国に告発された。
身に覚えのないノクレに対して、ノクレが主導した証拠が提示される。
その時になって、初めて全てが親友ジズードの策略だと、ノクレは確信する。
己は無実の罪で、処刑になる。
家族も同罪で処刑になる処を、ローグレス王の慈悲により、王都からの追放処分で助かった。
そして、オーディス商会は覚え書の通りジズードのものとなり、家族は不慮の火事で亡くなった。
ノクレは、後悔していた。
己の直感に反して覚え書を作成した事ではなく、其処まで親友を追い込み、歪ませた己を責め苛んだ。
済まない、ジズード。
お前を歪ませた、俺を許せとは言わない!
昔のお前に戻ってくれ、俺はその為に帰ってきたのだ!
ノクレは奴隷の身分から解放され、為したいと思った事は、己の無実の証明ではなく、ジズードへの贖罪だった。
親友を曾ての真っ当な商人に戻すには、罪を償わせなければならない。
故にこの場を、設けたのだ。
ジズードが死すなら、己も死のう。
そう心に決めていたノクレは、悲しげに親友ジズードを見詰めるのだった。
●アルグリア大陸暦千五百三十八年三月十六日
【帝都プロロース~ロシナンテ商会百貨店付近】
【キルギルス・ノール】
(マリア! ベスを守ってくれ!)
帝都プロローズの裏社会を牛耳るキルギルスは、部下の配置完了の報告を、苦悶の表情で待っていた。
キルギルス・ノールは、プロローズの貧民街の孤児だった。
親の顔も知らない。
物心付いた時には、生きる為に悪事に身を染めていた。
孤児仲間を集め、キルギルスは狡猾に勢力を伸ばしていった。
戦わずに勝つ事を最上として、キルギルスはプロロースの裏社会で、確固たる地位を築いていく。
そんな中で、孤児仲間のマリアとの間に子供が出来た。
生まれた子供には、生き残る力強さの花言葉から、ベスティアと花の名を付けた。
ベスティアは花言葉通り、元気で明るい子に育った。
しかし、そんなベステイアを見守るマリアは、不治の病に冒された。
「キル、あの子を、ベスをお願い、愛してるキル、......ご免なさい」
亡き妻は愛する娘を最後まで案じ、己を愛し先立つ事を謝罪していた。
妻が亡くなってから間もなく、ベスティアがマリアと同じ病に掛かる。
残酷な運命に、キルギルスは運命と宿命を司る才能神ジェミニを呪った。
ベスの命の灯火は、消えようとしている。
ロシナンテ商会への襲撃の前に、件の商会に面会を申し込んだが、商会長は帝城の商談会に参加しており、対応出来ないと告げられていた。
商会を襲撃しても、例の物があるとは限らない。
しかし、娘の苦しむ姿を見続ける胆力は、キルギルスには残されていなかった。
「パパ、ごめんね。私......ママに会いたい......」
涙を溢し、魘されながら寝言を呟く娘に何かをしたい。
その思いだけが募り、我慢の限界を崩壊させたのだった。
部下から、準備が整ったとの報告が来た。
この襲撃により、裏社会でのキルギルスの立場は、危機を迎えるだろう。
プロロースに鳴り響く、百貨店を襲撃するのだ。
官憲の追求は、免れない。
超大国であるアルバビロニア大帝国は、帝都での暴挙を絶対に許さないだろう。
この襲撃は、己の組織の壊滅を意味する。
それは、己に従う部下達にも説明した。
しかし、部下達は笑ってこう言うのだった。
「首領、俺達はあんたに付いて行くと決めてるんだ! 迷うな唯、命じろ!」
阿呆共が、......。
己に付き従ってくれる、孤児仲間達。
済まん......。
【キルギルス・ノール】
「野郎共、い......」
今まさに号令を掛けようとしたキルギルスの頭に、声が響く。
良いのか?
本当にそれで良いのか?
お前の娘の為に、一命を懸けている男を裏切るのか?
【キルギルス・ノール】
「誰だ? ......」
そして、刻が止まった。
●アルグリア大陸暦千五百三十八年三月十六日
【帝都プロロース~ノール邸】
【ベスティア・ノール】
「パ、パパ......止めて!」
魘される少女の寝台の真上で、姿と気配を消して空中に浮かぶカルマが憂悶する!
その視線の先には、命の灯火が消えようとする少女が、知り得るはずのない父の暴挙を止める姿が映っていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
アルグリア大陸の西部に位置するクローマ王国は、普精霊人が統治する商業国家である。
このクローマ王国は一度分割され、再び再興した国であった。
アルグリア大陸暦三百三十年七月、時の王リステッド・クローマが次期王位を決めぬままに、流行病で亡くなった。
リステッド・クローマには五人の子供がいたが、王位継承で兄弟の仲違いを憂いた長子ミステッド・クローマは、己の王位継承を放棄して兄弟の融和を図った。
しかし、長子の想いは兄弟には届かずに、クローマ王国は三つに国を割った。
次男ルネテッド・クローマを祖とする、ミダス王国。
三男ジュステッド・クローマを祖とする、ナリス王国。
四男レセテッド・クローマを祖とする、レクリア王国である。
そして、長女である王女へレナードは、隣国であったベガ王国に嫁いだ。
アルグリア大陸暦千三百三十一年五月、西方三国と呼ばれたミダス・ナリス・レクリアの三国は統一され、クローマ王国が再興する。
その再興の後ろ盾になったのが、アルグリア大陸の北西の雄であるアッバース王国であり、統一戦に協力したのが、クローマ王国に隣接するベガ・シリウス・デネブ・カペラ・スピカ・リゲルの六ヵ国であった。
時が経ち、戦乱の機運が高まるアルグリア大陸に於いて、西方諸国でも争いの兆しは確実に芽吹いていた。
To be continued! ......
ご都合主義満載! 出来れば【詐欺師飛翔編】の締めの33話までお付き合い頂ければ、幸いです!
キルギルス、暴挙は止めろと思った人は、★評価・ブックマーク登録・感想よろしくお願いします!
最後に、読者の皆様に感謝を、お読み頂き、ありがとうです!
【2020/07/21 改訂しました】




