第2話 廃神さん...再会する(1)
毎月...3日...13日...23日......更新予定です。
●アルグリア大陸暦千五百三十八年二月十三日
【マルカ王国辺境~ハルベルト山脈の麓付近】
極寒の雪景色の中、空中に浮かぶ真っ裸の赤ちゃんが、次々とスノーラビットを狩っていく。
狩られた獲物は血の後を雪景色に残して、瞬時に回収され消えていく。
【カルマ】
「あぅあぅあぅあぁぁ~! (生まれた初日から育成できるなんて、最高だ~!)」
【システムメッセージ】
『ぽ~ん♪ ......個体名【カルマ】の個体レベルが上がりました!』
仮想現実の世界で廃人達から、【廃神】と畏怖を込めて呼ばれていた【カルマ】にとっては、寸暇を惜しんでのレベル上げは御褒美でしかなかった。
従来、【創造神の試練】時の【カルマ】は、約半年後の襲撃イベントまでは、生命力・魔力・精神力を育成する以外は、何も行動が出来ない状態だった。
イベントが起こり、初めて四つん這いで匍匐前進が出来るようになり、匍匐前進が出来ても、生命力が【183】ポイントでは、極寒の中で三十分も経たずに、生命力が【0】ポイントになり、死亡する未来が待っているだけだった。
過去に初回から試行する事、三百十九回凍死した経験を持つ、【カルマ】は遠い目をしながら、脳内に浮かぶ地図を参考に、効率よくスノーラビットを狩っていく。
そんな中......もう一人の【カルマ】は、暖炉の近くで、【カルス】と【マルナ】に見守られながらスヤスヤと眠っていた。
FHSLG【アルグリア戦記】の才能レベルは習熟度Ⅰ~Ⅹまでの十段階で、才能の中には、ⅩでMAXになると才能が派生したり、上位の才能に上書き(進化する)されたり、数種類の才能が統合されたり、習熟度表示のない、【固有才能】・【特異才能】に昇華したりする。
才能枠が十枠で一杯になると、キャラクターの行動やアイテム(スキルスクロール等)で、新しく才能を覚える事が出来なくなるのだった。
キャラクターの才能の最大十枠の制約は、【不自由さの中の自由こそ、やり込みの極意】と謳う制作運営会社が、ユーザーに飽きずに、ゲームを楽しんで貰える様に課した、掟の一つである。
只そんな思いとは裏腹に、自重する気が微塵もなかった【カルマ】は、自身の生後半年ほどで早世する両親の運命を変える為に、仲間の無念を覆す為に、才能枠の撤廃券を使用して、才能枠の最大十枠の制約を無くしたのだった。
思う存分に【固有才能】と、【一般才能】を、其々の特性とバランスを調整して、【カスタマイズ】した。
その成果が現在であり、母体と分体に分かれての、効率的なレベル上げだった。
【システムメッセージ】
『ぽ~ん♪ ......個体名【カルマ】の個体レベルが上がりました!』
【カルマ】
(もうウサギじゃ効率が悪いな~次はキツネかシカかな~クマもいいな~)
そんな風に思いながらも、ウサギ狩りは続いていくが、近くにスノーウルフが居ると分かると、方向転換して、次の獲物を探し、【短距離転移】しながら空中を進んで行く。
【カルマ】
(仲間には今は近づかないようにしないとな~)
獲物をスノーフォックスに切り替え、効率的に狩りながらも、空中を進んで行く【カルマ】の目の前に、【目的地の洞窟】が姿を現したのだった。
【カルマ】
(半年前倒しの、打っ付け本番か......ヤバいな......ドキドキする......)
従来、【創造神の試練】時の【カルマ】は、生後半年ほどで起きる村への襲撃イベントで、両親を亡くし、極寒の中に放り出される。
そこで、初めて匍匐前進が可能になったところから、本当の意味でのゲームが始まるのだった。
放り出されてから約三十分ほどで、【凍死するのが定番】で、難易度六段階目の【創造神への挑戦】をクリアした、廃人達が心をポキポキ折られる、......ある意味【鬼畜の儀式】だった。
その儀式をクリア出来る、【創造神の試練】時の正解がいる洞窟へ行く事が、今回でも正解かどうかは、【カルマ】としても、半年前倒しの状況では判断はつかなかった。
本当は、洞窟の前で着地してから、匍匐前進で奥へ進んで行き、従来の正解時の状況に少しでも近付けたかった。
しかし、レベル上げしたステータスを以てしても、【運命の設定】なのか、現状では匍匐前進が出来なかったのだった。
只、今回の行動が不正解だったとしても、両親と仲間の運命を書き換える為には、不正解も正解にする気概の【カルマ】だった。
洞窟は奥へ進んで行く程に、壁が淡く青光りしていて、段々と明るさを増していき、最奥は青光りする水晶が、花のように壁に咲いている広間だった。
そんな中、空中を進んで行く【カルマ】の目の前に、【従来の正解】が、鎮座していた。
【カルマ】
(......むっちゃ! くちゃ! 見てるな!)
従来、【半年後の正解】は眠っている状態だったが、半年前倒しの状況では、正解は起きていて【カルマ】を凝視している。
正解としても、普精霊人の赤ちゃんが空中を【短距離転移】して、進んで来る様は、異様そのものだったので、凝視するしかなかった。
【カルマ】
「あぅあぅあぅあぁぁ~♪ (母さん...いただきます~♪)」
青光りする花水晶が咲く神秘空間で、空中に浮かぶ【カルマ】が真っ裸で叫ぶ!
その視線の先には、青光りの陽炎に身を包んでいる、【白い巨狼】が静かに佇んでいたのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
アルグリア大陸には、触れてはいけない【十の災厄】が存在する。
過去、【十の災厄】の怒りにより、壊滅した国家は数百に及び、【災厄の縄張り】には近寄らないと言う、暗黙の掟が、深く人々の脳裏に刻まれたはずだったが、人類は度しがたく愚かだった。
近年で言えば、【十の災厄】の【麒麟】と【氷狼】の、二つの災厄が無慈悲な鉄槌を人類に振り落とした。
大陸歴千五百二十三年七月、アルグリア大陸の東の端に位置する【アサン皇国】が、【十の災厄】の一角、【麒麟】の逆鱗に触れ消滅したのだった。
アサン皇国は、皇王【ミドウ・アサン】が名目上の権威として君臨しているが、実質は武官の頂点である、【征夷大将軍】が実権を持ち統治していた。
時の将軍【ミツナガ・トウジョウ】が老齢の為、嫡子【ミツイエ】に跡を継がせようとしたが、不慮の事故で亡くなってしまい、次男【ミツサダ】と三男【ミツマサ】が後継者争いを起こしたのだった。
その争いを憂いた【ミツナガ】が、大占い師【オクニ】の言を受け、【麒麟の鬣】を献上した方を、次代将軍にすると宣言したのが破滅の始まりだった。
アサン皇国には、【滅私奉公】と言う言葉があり、それを体現する【侍】と呼ばれる騎士が、己を滅し主君に忠義を以て仕えていた。
両陣営は己の主君を将軍にする為、名のある数多の侍が、麒麟が居る霊山【不死山】に挑んで行ったが、誰一人帰って来る者はいなかった。
その理由の一つとして、不死山には【禁忌の掟】があった。
『【麒麟】には、唯一人でのみ挑むべし、それを破りし時大いなる災いが起こるであろう』との言い伝えがある為、両陣営共に唯一人で挑んで行った事が、理由として挙げられる。
災厄と畏れられる存在に、唯一人で挑むことは、絶望以外の何物でもなかった。
但し、絶望と言う絶対な死に臆する侍は誰一人もいなかったが、現状を憂慮した三男【ミツマサ】は、次代将軍継承の為に散っていった、両陣営の家臣達、またこれから散りいく両陣営の家臣達の思いを鑑みて、次代将軍継承を辞退する思いを固めようとしていた。
それを知り焦った【ミツマサ】の家臣達が、霊山の禁を破り、百余名で不死山に入山し、【麒麟の逆鱗】に触れ、その日のうちにアサン皇国は消滅したのだった。
大陸歴千五百三十二年四月、アルグリア大陸の北北東に位置する【アクリス王国】は、【十の災厄】の一角、【氷狼】の息吹で凍結したのだった。
アクリス王国は峻険な山々である、【ハルベルト山脈】の麓に広がる中堅国家で、特産は小麦と岩塩だったが、岩塩採掘の作業中に、ミスリル鉱石の鉱脈が発見されたのが悲劇の幕開けだった。
時の王【ヨハン・アクリス】は鉱脈が禁忌の山々である、ハルベルト山脈に伸びている事が調査で判明すると、ミスリル鉱石の採掘を禁じた。
しかし、周辺国家との国境で、イレブン王国、ザッドロ王国と小競り合いが起こっており、より大きな紛争が起こりそうな状況もあり、国力を上げる為に、王弟【クラフ】が秘密裏に採掘を始めたのだった。
そして、採掘がハルベルト山脈に到達した時に異変が起こった。
破壊出来ない氷壁がその行く手を阻んだだけではなく、その氷壁をすり抜けて【白い巨狼】が姿を現した。
巨狼は『たった数百年で約束を違えるのか...』と呟き、一吠した。
その遠吠え一つでアクリス王国は、柩の如く、全てが氷に閉じ込められ凍結したのだった。
【十の災厄】......それは決して人類が触れてはいけない【不可避な神罰】そのものだった。
To be continued! ......
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最後に、読者の皆様に感謝を、お読み頂き、ありがとうです!
【2020/07/11 改訂しました】
【2020/07/28 改訂しました】