第10話 廃神さん...再会する(3)
毎月...3日...13日...23日......更新予定ですが、アルグリア戦記が累計八万字達成するまで3日から毎日更新しています。集英社WEB小説大賞に本作を応募する為です。
作者には夢があります。“妄想ゲームの歴史を現実でゲーム化する”事です。コー○ー○○○ゲームスさんで、○○の野望のファンタジー版歴史シミュレーションゲームとしてゲーム化される中継点になる事を切に願って投稿します。いつから本作が仮想小説だと誤解していた? 本作は作者の妄想ゲームの設定集を備忘録化したものです。勘違いさせたのならお許し下さい。
●アルグリア大陸暦千五百三十八年二月二十五日
【ザッドロ王国の王都セルバア~闘技場】
一般公開買い付け場で大量の老人奴隷達を購入した黒の一行は、その後奴隷達と契約を結び、明日の特別公開買い付け場の商品の下見会で有能な奴隷達を物色した。
その後、今回の主目的の一つである『闘技場の帝王』として、約七十年間も君臨した剣闘士奴隷の勧誘の為、夜開催の帝王と魔獣の闘いを見物に来ていた。
【カルマ】
(バル......)
夜の闇に煌々とした篝火が、高揚に包まれた闘技場を荒々しく照らしていた。
前座の闘いで、観衆の興奮した熱気は最高潮に達しようとしていた。
【フィリップ・ババロア】
「紳士淑女の皆様! 大変お待たせしました! 本日の帝王と魔獣の闘い! 太陽の門! 当闘技場で二万五千十三戦無敗の帝王! 銀獣! バルベルデ!! ウォルフ~!!!」
一段と凄い歓声を浴びながら、太陽の門から剣と盾を持った腰布一枚の老剣闘士がその姿を現すと、闘技場は一瞬にして静寂と困惑に包まれた。
何故なら従来の帝王の装備は、主に板金鎧か完全鎧だったからだ。
闘技場はざわつきと困惑を増していったが、一部の者達にとっては、今回の闘いの相手を老剣闘士が自ら指名した経緯と、この闘いへの出で立ちを見て、老剣闘士はこの闘いで死ぬつもりではないかと疑念が増して危ぶんでいた。
【ボルゲ・ラッサム】
「兄貴! 嘘だろう、嘘だと、言ってくれ! 兄貴~!!」
唖然として声を漏らした片腕の黒狼獣精霊人を囲む、襤褸を纏った不具の獣精霊人集団は、元傭兵『銀狼』の団員達だった。
元来獣精霊人とは群れを作り仲間思いの性質が強い、況してや不具で役立たずの自分達を奴隷から買い戻す為に、七十年も闘い続け一番最後に自分を買い戻す闘いに挑もうとしている元団長を信じ応援する気持ちではあったが、もしかして団長はこの闘いで死ぬつもりではないかと言う疑念が頭から離れなかった。
自分達を残して団長が死ぬ筈がない、でも団長が死んだら俺達はどうしたらいいのか、いや生きている意味があるのかと、皆自問自答していた。
【フィリップ・ババロア】
「続きまして! 月の門! 『闘技場の帝王』銀獣バルベルデ~最後の対戦相手にして深淵の森の魔獣!! キマイラ~!!!」
月の門から厳重な魔鉄鋼製の檻にいれられたキマイラが、十数人の冒険者に檻ごと闘技場の中央辺りまで運ばれて来た。
【キマイラ】
「「「グッガァァァァ~! ガァオォォォォォォ!! キシャァァァァァ!!!」」」
キマイラが吼える! 獅子と山羊の2つの頭を持ち、有翼魔獣グリフォンの強靭な体で他を睥睨し、尻尾の毒蛇が畝りながら冒険者達を威嚇している。
深淵の森の魔獣を初めて見た観客の中には、キマイラの魔気と獣気に当てられたのか、失神して気絶する観客も少なからずいた。
審判でもあるフィリップ・ババロア卿が合図をすると、闘技場の観客席前から闘場周りに強固な結界が発生した。
説明によると、キマイラが暴れてもびくともしない上位結界で、安心して見物して欲しいとの事だった。
帝王と魔獣の闘い開始前に、審判と冒険者達が闘場を退き、観客は開始の合図を今か今かと待ち望んでいた。
今回の賭けの配当倍率は、バルベルデ二・八倍でキマイラが一・六倍でキマイラが優勢だった。
何故なら、常勝無敗の帝王と深淵の森の魔獣とでは、闘いの場が抑も違うからだ。
況してや、防具を身に付けていない腰布一枚の老剣闘士に、二・八倍の低倍率なのは帝王の実績からだろう。
そう言う事から言えば、この倍率でいる事が驚くべき事だった。
圧倒的に不利な老剣闘士に賭ける人々の多くは、『闘技場の帝王』に魔獣に勝利して、最後の闘いを有終の美で飾って欲しい気持ちで一杯だった。
約七十年間闘い続け、その闘いに一喜一憂した少年もやがて老人になり、若い頃には思いもしなかった体の衰えも、帝王の闘いを見ていると自分はまだまだやれると、勇気をもらっていた人々の思いと願いの現れがその配当倍率だった。
やがて投票終了が告げられ、開始の合図が響き渡った。
【フィリップ・ババロア】
「本日の帝王と魔獣の闘い! 闘技場の誇りと深淵の森の野性の闘い!! 開始です!!!」
開始の合図と同時に、魔鉄鋼製の檻の扉が開けられ、魔獣がゆっくりと檻から出てきた。
キマイラは吼えて威嚇しながらも、バルベルデの姿を視線から外さなかった。
観客としては緩慢と感じる時間が過ぎていくが、両者は対峙しながらも円を描くようにお互いを見詰め合い隙を伺っていた。
先に動いたのはキマイラだった。
生存本能が、目の前の獣精霊人が危険だと警告を発していたが、この闘いの為に飢餓状態が窮まっていた魔獣は、同じ生存本能の食欲には勝てなかった。
キマイラの颶風を纏った前脚の斬撃を、バルベルデは軽やかに盾と動作で往なしながら、剣で前脚に浅い傷痕を残す。
バルベルデは魔獣と闘いながらも、思いは七十年程前の祖国と帝国との戦いを回顧していた。
戦いはオルスカ軍が帝国軍を圧倒していたと言っていい展開だった。
銀狼もその一翼を担っていたが、突如襲来した魔獣軍団に銀狼は壊滅的打撃を受け、軍を率いていたオルスカ国王も討ち取られる大敗北を喫した。
結果捕虜となり、奴隷生活が始まった。
その苦い後悔、銀狼を壊滅に追い込んだ魔獣の主力が有翼魔獣キマイラだった。
バルベルデにとってキマイラとの闘いは、過去の精神的傷痕を克服して仲間と新しい生活を始める重要な儀式だった。
キマイラの攻撃力では、全身鎧でも鎧としての体を成さない、只の重りでしかない。
一撃でも受ければ致命傷になる精神的圧力を跳ね返す胆力と技が、確かにバルベルデには有った。
キマイラは飢餓状態の為、体力が常時から落ちているはず、そしてここは己の闘技場、キマイラの深淵の森ではない、天の時、地の利がある。
最後の人の和は、銀狼の絆がある。
バルベルデは最初からキマイラに勝つ算段の元、最後の闘いに臨んでいた。
キマイラは全身傷だらけで血を流しながら、動きが段々と鈍り精彩を欠いてきていた。
闘技場の観客達は、いつもの闘いの派手さはないが、キマイラの攻撃が一撃でも入ればバルベルデが負けて命を落とす、極限の緊張感に静かに興奮しながら、固唾を飲んでいた。
【キマイラ】
「「「グッガァァァ~、ガォオォォォ~、キッシャァァ~」」」
【バルベルデ・ウォルフ】
「よし! (いける!)」
バルベルデがキマイラの尻尾の毒蛇を、根元から切り離した!
観客席からは歓声が漏れ、帝王の勝利の瞬間を期待する。
運命の歯車がカタコトと音を発てた......。
闘いはバルベルデの思い通りに進んでいた。
このままで行けばバルベルデの勝ちで最後の闘いを終える事が出来ると皆がそう思ったその時、一陣の風が一粒の砂を掬い上げ、バルベルデの右目にソッと差し込んだ。
一瞬の瞬き、一瞬の右目の死角! そこから運命は老剣闘士に牙を剥いた! 切り飛ばされた尻尾の毒蛇がその死角から老剣闘士に襲い掛かった!
【バルベルデ・ウォルフ】
「くっ! (くそっ!)」
襲い来る意思を右目の死角から感じ、毒蛇の頭を右手の剣で搗ち割るが毒蛇の吐いた毒液までは交わせなかった。
右半身に毒液が掛かり、ジュージューっと不快な音をだして老剣闘士を焼いていくのだった。
一瞬の静寂の後、観客の悲痛な叫び声が闘技場に木霊する。
激痛故か、剣から離した右手はダラリと垂れ下がり、牙を失った老剣闘士は苦悶の表情を浮かべ右膝を付いた状態でキマイラに対峙する。
喜声を上げるかの様にキマイラが吼える中、闘技場を老剣闘士の敗北が色濃く立ち込めて行く。
【カルマ】
「あぅあぅあぅあぁぁ~! (バァ~~~~ル!)」
悲壮感漂う闘技場で、黒の子守布に包まれたカルマが黒い産着を着て叫ぶ!
その視線の先には、傷付き毒に犯された老剣闘士の命の灯火が、今まさに消えようとしていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
アルグリア大陸の南西部に位置する深淵の森。
その森はまるで、今も何かから逃げる様に拡張を続けている。
深淵の森の魔獣達は、他の場所の魔獣と比べ格段に強さと獰猛さが突き抜けて違っていた。
そんな魔獣も近寄らない深淵の森の奥深く、木々自体が漆黒色で暗闇に包まれた森が存在していた。
その漆黒の森を縄張りとしている、暗闇に不気味に光る銀眼の持ち主、......漆黒の虎は、十の災厄の一角、【黒獣】と呼ばれていた。
To be continued! ......
ご都合主義満載! 第12話まで、お付き合い頂ければ、幸いです!
バル負けるな! 頑張れ! と思った人は、★評価・ブックマーク登録・感想よろしくお願いします!
最後に、読者の皆様に感謝を、お読み頂き、ありがとうです!
【2020/07/14 改訂しました】