第4話 武闘家
カルラーム大陸では魔力を動力にした魔道機関モーターの発明により、機関を利用した乗り物がいくつか存在する。
主に大陸横断鉄道やバスなどだ。
動力が人のMP(精神力)だけにお客を乗せないとピクリとも動かない。
ある程度お客が集まってから発車するのが基本だ。
遠くに旅立つには必須な交通機関であるが、そんな駅の入り口で中に入るのを躊躇している女の子二人組と猫一匹がいた。
「あちゃ~、さすがに手配が早いな!」
駅の掲示板には、よく指名手配の写真が貼られているのはご存知だろうが、自分自身の顔写真が貼ってある掲示板を見る事になる経験者は数少ない。
その数少ない経験者の一人が掲示板を見ながら頭をポリポリかいて苦笑いしていた。
国王の大切な杖を拝借して指名手配中の魔法使い(仮免許)であるリリアン・ローズである。
ストレートショートボブカットにカチューシャと女物の革鎧を装備していなければ男の子に見えなくも無い。
「あらあら~お父様ってば、ちょっとお友達とお出かけするだけなのに大袈裟なのです。」
もう一人の女の子は指名手配写真を見て微笑んでいた。
白いふわふわ揺れるフリルがたくさん装飾されたワンピースを装備…って言うか単なる普段着のマリーである。
マリーはリリアンの幼なじみであるが、今回リリアンが旅立つにあたり拉致同然で旅に同行させられた女の子だ。
ちなみに警察に指名手配を出したのは超過保護のマリーの父親の仕業である。
罪状は本来の窃盗犯とは別に拉致誘拐が加わっている。
「ねぇマリー…もしかして私に連れられて迷惑だったかな?」
「うふふ…どうかしら?」
「もし帰りたいなら、ここから電車で一駅で帰れるよ。」
リリアンがマリーを父親に返そうかと考えてた時、マリーは微笑を崩さずにこう言った。
「リリアンは怪物が湧いてくる大穴をなんとかするつもりなのですよね?なら私はリリアンのお手伝いをしたいと思ったから同行するのですよ。」
友達思いのマリーである。
『あい解った!自分の死に場所は自ら決めたのね!偉いわマリー!』
「え?え?死に場所って…」
『うん!うん!それでこそ従者に相応しいってもんよね!』
「…あのぉ…もしかして凄く危ない場所?」
『そりゃ危ないわよ!国王から生きて帰ると思われて無いし、怪物が無限に沸く大穴なんだからね!』
ここ数年の事柄であるが、世界各地に突然開いた大穴から怪物が出現する被害が続出している。
リリアン達が住むカルラーム大陸でも確認された大穴は四ヶ所。
カルラーム大陸には四つの国があるがそれぞれ一つづつ大穴があり、リリアンが向かおうとしているのはボルンにある大穴で通称ボルン大洞穴ある。
最初に挑んだ勇者がどこで行方不明になったかは判らないので、リリアンは勇者の足取りを順番に追うつもりだ。
そもそも大穴を封印もしくは塞ぐ為のアイテムは国王が既に勇者に渡したはずだからである。
まず勇者を追って大穴を封印するアイテムをゲットする予定なのだ。
「あはは…私帰りたくなってきたのです。」
『じゃマリー行こうか!指名手配のせいで電車には乗れないけど冒険の基本は徒歩だよ!死して屍拾う者無し!どぉこかでぇ~だぁれかが~♪』
リリアンが、マリーの肩をガッチリ組んで歩き出す。
『いやぁ!人さらい!!!』
これでリリアンは自他共に認める誘拐となったのでした。
「にゃ~‥」(なんでリリアンが木枯らし紋次郎知ってんのかしら)
ミーシャが呟いた。