【3ー2】
「いい知らせなら私としてもありがたいんだけどねぇ。そんな事よりしばらくマリーの部屋にかくまってくれない?」
「そこの猫ちゃんも?調剤室もあるから猫毛はダメよ?」
「大丈夫よ。」
リリアンがそう言うと同時にミーシャは人間へ変化した。
「あら、かわいい!」
マリーはミーシャをキュッと抱き締めた。
「フギャー!!やめろー!!薬臭い!!」
ミーシャはじたばたもがいた。
「多分キャスパリーグ(猫のモンスター)だと思うけど、人間にもなれるから問題無し!」
グッジョブと親指を立てるリリアンだが、猫毛に関する言い訳にはなっていない。
モンスターの知識の無いマリーは魔法使いが魔法で猫に化けたという事で納得した。
「村に入って気付いたけど、この世界って普通に電気や水道があるのね。」
「全部魔力で動いてるからね。」
さて、村について説明すると。
リリアンの故郷である首都ボルンの隣村は海に面した、そのものズバリな名前のリゾート村。
首都ボルンから徒歩でも半日でたどり着くとあって気軽に利用出来る家族向け観光地として有名なのだ。
リリアンの実家はリゾート村で道具屋ローズ亭を営んでおり、冒険者必須のアイテム以外にも、お菓子・ドリンク・お弁当・雑誌など数多くのアイテムを取り扱う店であり。
ぶっちゃけるとコンビニだ。
このカルラーム大陸では魔力で風車を回す魔道機関が発明されてからは、乗り物から印刷技術や発電技術などが発達しており、往年のレベル99の魔法使いの老人達が「世の中便利になったもんじゃのぉ…」と唸る程だ。
それはさておき、マリーとリリアンはマリーの薬局に到着したのである。
このマリーの薬局も首都の薬屋に負けるとも劣らないラインナップだ。
毒消や薬草は基本としても、複数回使用出来る体力回復の宝玉・どんなリュウマチや麻痺や神経痛も治すディスパラライズ・極めつけは魔道モーターの電流を使って止まった心臓をも動かす通称反魂効も販売している。
「お父様ぁ!マリーただいま戻りましたぁ。」
マリーが薬局に入るなりカウンターにいた店主に抱きつく。
店主は学者肌なのかほっそりした体型で、とても力仕事などは出来なさそうだ。
「おお!可愛いマリー!危ない怪物は居なかったかい?」
店主が薬草摘みから帰った娘の頭を撫でながら語り合う。
「怪物は居なかったのですが、今日は大事な友達が訪ねて来たのです!」
そう言ってマリーはリリアンを手招きで薬局の中へ呼んだ。
さすがに村の中でミリタリー色は目立つのでリリアンは普段着に着替えている。
「どうも!おじさんお久しぶりです!」
リリアンが幼なじみのマリーの家へ最後に遊びに来たのは一年程前になるだろうか…
『ほほぅ…やはりここへ来たのか馬鹿娘が!』
リリアンが気付く間もなく店の中に隠れていた髭もじゃでマッチョな男がリリアンに飛び蹴りをかます!
そしてその足先は見事にリリアンのみぞおちに決まった!
「ぐはぁ!お…お父ちゃん!隠れたなんて卑怯な!大事な娘のお腹を蹴るなんて頭おかしいんじゃないの!」
見事に飛び蹴りが決まったにも関わらず軽く後ろへ飛ばされただけでリリアンは元気そうだ。
『お前は何か悪さする度々、マリーちゃん家に逃げるのが解ってるんだ!』
『だからってお腹蹴る事無いでしょうが!赤ちゃん出来なくなったらお父ちゃんのせいだからね!』
『やかましい!どうせオークごときに孕まれそうになった癖に、豚野郎の子供でも産んでろ馬鹿娘が!』
マリーの薬局で見るに耐えない親子喧嘩が勃発。
「まぁまぁローズさん。せっかくお嬢様が帰ったのですから穏便どうですか?」
マリーの父親がリリアンの父親を止めようとするが聞き入れず。
「痛い痛い痛い痛い!なんでこの歳でお尻叩かれないと駄目なのよ!」
リリアンの父親の得意技《お尻ペンペン》発動中。
リリアンもそれなりに力はあるが、元ファイターLV99の父親の腕力から逃れる術は無い。
「いやはや…ネットさん(マリーの父親)失礼しました!この馬鹿娘は連れて帰りますので!」
そう言いながらリリアンの父親はリリアンの首根っこを掴んだままマリーの薬局を後にした。
「相変わらず仲良し親子さんなのですぅ。」
「そうだねぇマリー。」
マリーの薬局では静けさを取り戻した親子が嵐の様な光景をしみじみと語る。
「‥で私はどうすれば良いのかしらねぇ」
薬局の前に設置した木箱に寝ながらミーシャが呟いた。