第三話 リゾート村
元の世界に戻るにはリリアンの教官に出会う必要があると思ったミーシャは、いきなりコネも面識も無い野良猫が都合良く国王に出会うとは思えないのは明白なので、とりあえずリリアンに付いて行く事に決めた。
今のミーシャは10歳位の女の子に化けているが、
最悪リリアンが捕まったとしても変化を解いて野良猫のふりをして無関係を装えば良い。
「ところでダメアンはどこに向かってるの?」
ちなみにほふく前進は止めている。
首都からだいぶ離れた事と腰が痛くなったのが理由だ。
「リゾート村にある私の実家。道具屋やってるから旅に必要なアイテムを取りに行くのよ。」
旅の準備金は貰っているものの、指名手配のリリアンが首都でまともに買い物が出来るとは思えない。
首都からリゾート村までは徒歩半日なのだが、ミーシャに出会うまでは探索魔法を警戒して移動したので魔法学校を出てから二日目である。
「ふーん‥村ってわりに大きな街だわね。」
「海辺の観光が売りだから街って名乗るより村の方が田舎感が出るからよ。」
リリアンがミーシャに色々と案内しながら実家のローズ亭の近くへとやって来た。
「‥んであの豪華な馬車もあんたのローズ亭の馬車かしら?」
ローズ亭の目の前には王国の紋章が目立つ豪華な馬車がローズ亭の前に停車している。
「うわっ!嫌な予感しかしないわ。」
「‥いや、そりゃ逃亡者の実家を押さえるのは捜査の基本だわよ‥」
「やっぱそうだよねぇ、仕方ないから移動するよ!」
リリアンはミーシャの手を引いて移動を開始した。
「まだ何かあてがあるのかしら?いっそ捕まってくれたら私としては国王を手っ取り早く会えそうなんですけど?」
「甘いわよミーシャ。多分あんたは私と行動しているのは教官にバレてるから。この世界の最強の魔法使いを舐めたらダメ。」
「‥ふーん、まあいいわよ。なるようにしかならないっぽいし。」
ミーシャはリリアンが嘘を言ってないのは何となく判る。
それにミーシャの予感が正しいなら日本に帰るにはリリアンの協力が必要と感じていた。
リリアンがミーシャと共に訪れたのはローズ亭から500メートル程離れた薬局の裏手の庭である。
薬局の裏手は薬草園になっており、必要な薬草をある程度自給自足していた。
「…ねぇ!マリー!(小声)」
薬局の娘であるマリーが村外れの野原で薬草摘みをしていると、なにやら空耳が聞こえて来た気がした…
「気のせいかしらぁ…リリアンの声を聞いた様なぁ…」
マリーは薬草摘みの手を止めて辺りを見渡す…
マリーが立ち上がった時に肩まで伸びたサラサラなシルバーブロンドの髪が野原から吹く風になびいている。
聞こえて来るのは風の音だけだ。
「あぁ…風の妖精さんが私を呼んでいたのね…」
マリーは自らそう結論付けて再び足元の薬草を摘もうと手を伸ばした時、地面に生えた藪の中からマリーの手を何かが掴む…
「大地の妖精さんと猫ちゃん?」
『誰が妖精よ!そんなピンポイントであんたの名前を名指しで呼ぶ妖精がどこに居るのよ!』
膝丈位の藪の中からマリーの手を掴んだのは首都から指名手配されているリリアンとミーシャあった。
「あらぁ…リリアン久しぶりですぅ。そのメイクはボルンの流行かしら?ずいぶんとワイルドですのねぇ。」
「うっ、いやちょっとヤバい状況なんで迷彩塗装をね。この迷彩塗装をメイクと呼ぶマリーの天然っぷり…相変わらずね。」
リリアンは顔と全身に緑と黄色と黒の迷彩色を施していた。
いつも頭に付けているカチューシャには雑草を挟んでおり、高い樹木の無い薬草の野原ではマリーの所まで《ほふく前進》でたどり着いたのだ。
「あぁ、解りましたぁ!冒険者の訓練なのですねぇ。凄いですぅ」
マリーが納得したとばかりにピョンピョン跳ねる。
全身フリルのドレスなので跳ねる度にふわふわ揺れるついでに、リリアンには嫌味としか思えない程の胸も思い切り揺れている。
「ま、まぁ…そんな感じよ。」
とりあえず自分の境遇説明は後回しで、リリアンはマリーを薬草の野原で待ち伏せしていたのは、実家に帰る前にマリーに頼んで様子を見て貰うつもりだったのだが。
どうやらローズ亭に来ているのは重い甲冑に身を包んだ城の衛兵で間違い無さそう。
ちなみにミーシャは三毛猫に戻っている。
「なるほどぉ…そういえばリリアンの道具屋さんにお城の人達が来ていたけど、何か良い知らせなのでしょう。」