第8話 黄昏の世界 アビス
洞穴の爆破からの脱出を仲間入りしたばかりの怪物オークのドルトンに全てを託したリリアンとマリーは、避難した携帯式の丸太小屋の中でドルトンから声をかけられるのをひたすら待っていた。
「丸太小屋内部は外側の様子が判らないのですねぇ。」
マリーが丸太小屋内部で壁を触っている。
マリーとリリアンは、現在リリアンが所有していたミニチュア丸太小屋の中で待機している。
「窓を設置しないのは、この小屋の場所に関して先入観を持たなくする為らしいわね。
模型の丸太小屋もテレポートの魔法だから変な想像すると知らない場所に出るって噂だよ。」
「へぇ~そうなのですかぁ。」
魔法アイテムのミニチュア丸太小屋は、例えば冒険の最中に入手した欲しいけど冒険の邪魔な物・予備の服や鎧や武器・食料備蓄・野宿の回避などなど非常に冒険者憧れのアイテムなのだ。
もちろん値段が目が飛び出る程高価なのは言うまでもない。
しばらく時間が経過…
『到着しただよ、もう安全だべ!』
小屋で唯一の出入口のドアの向こうから野太い声が聞こえて来た。
リリアンに忠誠を誓ったオークのドルトンである。
「それじゃリリアン、張り切って外に出ましょう!窓の無い小屋はちょっと息が詰まってしまうのです。」
『あ!ちょっとだけ忠告するけど、外に出ても驚かないでね。』
「ほぇ?」
リリアンが変な忠告をするのでマリーはちょっぴり困惑気味だ。
『うわぁ!凄いのですぅ!』
マリーがドアを開けてドルトンの待っている外に出てみると何やら感動している様子だ。
空一面雲一つ無いのに夕焼けの様に真っ赤な空…
「洞窟に入った時は朝でしたのに、もうこんな時間なのですかぁ。」
『違うわよマリー。多分ここは年中朝も夜も無い真っ赤な斜陽の世界なの。』
どうやらリリアンはこの場所がどこかが判るらしい。
「おお!リリアン様!ご無事で何よりですだ!」
マリーに続いてリリアンが小屋の外に出るとドルトンがリリアンの前で平伏している。
…というかリリアンの足の先をハァハァしながら見ていると言う感じだ。
気持ち悪さとドルトンの希望(リリアンの憶測)を踏まえて、平伏している頭を踵で踏もうと考えもしたが、ドルトンが逆に喜びそうなので思い止まった。
「あぁ…そんな改まる必要無いから、もう少しフランクな感じでお願いするわ。」
『そうか判っただ!リリアンとマリーはオラに全てを任せるだよ!』
ドルトンは豪快に笑いながらマリーとリリアンに自慢の槍を振り回し地面へと刺した。
オーク式の忠誠の挨拶である。
「…あの~リリアン…ちょっぴり怖いんですが…」
「そう?下手にへりくだったオークの方がよほど気持ち悪いと思うけど?」
調子に乗ってるドルトンはともかく、これからどうしようかとリリアンは悩む。
「ところでここはどこなのですか?
私はこんな綺麗な夕焼けは初めてなのです。」
「さっきも言ったけど24時間ずっと夕焼けよ。朝も夜も無し。」
「ほわぁ…不自然な空間なのですねぇ!」
「ん…まぁね、けどここもカルラーム大陸だよ。封印されしカルラーム大陸…その名も《アビス》。
ボルンに住む子供ならおとぎ話で知ってるんだけど…マリーは知らないわよね。」
マリーは違う大陸の出身で幼い頃にリリアンの住むリゾート村へと移住してきたのだ。
そもそもカルラーム大陸出身の人間は魔族の末裔が基本なのでマリーの様な回復系の白魔法使いが極端に少ない。
マリーが産まれた土地は天空国と呼ばれる神々の末裔が集まる国だ。
もっとも神だ魔族だと言ってもかなり大昔の事であり、カルラーム大陸出身も天空国出身も普通の人間である。
せいぜい使える魔法の種類が違う程度の認識で構わない。
「あれ?ミーシャは?」
リリアンが見渡すと、ミーシャの姿が無かった。
『あ"っ!!しまった!!』
リリアンは叫んだ。
「どどど!どうしただよ!!」
ドルトンは自分が何か失敗したと勘違いした。
「テレポートよ!人間でも魔物でもないミーシャは一緒にテレポート出来なかったのよ!」
「ええ?どうしましょう。」
「多分、このアビスのどこかに飛ばされたとは思う。」
「アビス?」
マリーが聞き慣れない場所なので戸惑っている。
「大昔の話しなんだけど…」
リリアンは子供の頃学校で聞かされた歴史の授業とおとぎ話を合わせてマリーに説明した。
その昔カルラームは一人の偉大な王で統一されていた。
偉大な王には三人の王子と一人の姫という子供がいて平和な王国であった。
ところが王は突然狂い出し、自らを魔王と名乗りカルラーム大陸をどん底の恐怖に落としてしまう。
しかし、狂った王を何とかしようと立ち上がったのが王子達と姫であった。
幾度となく父親である王との戦いの末に、カルラーム大陸の中心部を狂った王ごと地下へ封印して、かろうじてカルラーム大陸は平和になった。
王子と姫はカルラーム大陸にそれぞれ国を起こして、カルラーム大陸には現在四つの国がある。
そして元々王都だったカルラーム大陸中心部は地下へ沈み《アビス》と呼ばれる世界になったのだ。
「てな訳で、ここは旧カルラーム王都なのでした!」
リリアンの説明でマリーは紙芝居でも鑑賞した様に拍手で応える。
「…そんな話し初めて聞いただよ。」
ついでにドルトンも感心して聞いていた。
「けど…そんな危ない《アビス》に入って大丈夫なのでしょうかぁ…。」
《アビス》つまり地獄と聞いたら悪いイメージが付きまとうのは仕方ない。
「薄暗いだけで案外普通の土地だよ。
怪物や魔物がわんさか発生する危ない場所ではあるんだけど、
アビスは無限に魔力の湧くから、地上の魔法使い達に必要な魔力の発生源でもあるのよねぇ。」
つまり現在の便利な文明を支える大事な土地でもあるのだ。
実際、リリアンは魔法学校に在籍中に一度だけ社会見学で《アビス》へ訪問した事がある。
「つまり、アビスから出られるのは間違い無いのですね!」
リリアンの説明でマリーはちょっぴり安心した。
地下封印の大地なんて聞いたので、ここから出られずに住む事になるのかと心配したのだ。
「《アビス》からは出られるわよ。
《アビス》にも地上の首都ボルンの役所があるはずだから、そこで出国審査を受ければ良いだけだし。
それに《アビス》に長い間いると溢れた魔力の悪影響で角が生えたり、翼が生えたり身体的特徴が出る人も存在するから私的には長居はしたくないわね…」
地上では高い魔力を持った魔法使いは角が生えているなどの身体的特徴がある場合があり、《アビス》出身者が高い魔力とその身体的特徴も相まって魔族と呼ばれる由縁だ。
「っても《アビス》も広いし、現在地も判らないからどうしようかな…」
『それなら《人間の町》に行くと良いだよ!オラなら顔パスで入れるだな。』
「なるほど…じゃあ豚!ちゃっちゃと案内しなさい!」
『ははぁ!リリアン様!』
どうやらドルトンは豚と呼ばれると平伏してしまうらしい。
「へぇ~ドルトンさんは凄いのですねぇ。」
顔パスと聞いてマリーはドルトンを誉めた。
「いやいやマリー、この豚が調子にのるから褒めなくていいよ。
ちなみに《アビス》の世界では人間より怪物が上位なのよ。
まぁ…いいわ後で《人間の町》に入れば判るわね…。」
社会見学で《アビス》の事を知っているリリアン。
この先《人間の町》で何が待っているのか…




