第一話 誰かがやらねば誰がやる?
【1ー1】
『リリアン・ローズ君サンダーの魔法を唱えなさい!』
試験官らしき老人が名簿を見ながら五メートル程前方にあるダミー人形を指した。
「はい!ジーニアス教官!私頑張ります!」
リリアン・ローズと呼ばれた女の子が勢い良く片手を上げた。
もう片方の手には肩肘位の長さの簡素な杖が握られている。
「…お…おいヤバいんじゃないか?」
リリアンと同年代位の男子がそう言うとリリアンが魔法詠唱に入ると同時に他の数十人の男女が一斉に10メートル後方へと後退りした。
《大地にあまねく精霊達よ…我、初めて使う魔法に力を貸したまえ…》
「はいはい…リリアン・ローズ君。サンダーは天空の精霊だし、そもそも初めて使う魔法ではありませんよ。」
ジーニアス教官の的確なツッコミも聞き入れず、リリアンはサンダーの魔法詠唱が完了する。
『行きます!サンだはぁぁぁぁっっっ!』
《ピシャッゴロゴロドカン!》
派手な音と共にサンダーの魔法が落ちたのはリリアン本人であった…
『…ふむ…行きます!は余計な言葉じゃ、リリアン・ローズ君はいつも一言多いのが欠点じゃな。リリアン・ローズ君零点!』
「あはは!失敗しちゃった~。てへっ。」
雷が自分自身に直撃したわりに元気なリリアンが苦笑いしながら、同年代の生徒たちの中に戻って行く。
現在リリアンが魔法を派手に失敗した施設はカルラーム大陸の首都ボルンにある由緒正しい魔法学校である。
カルラーム大陸に住む住人の半数以上の先祖は魔に属する者の末裔、いわゆる魔族と呼ばれた存在であり、その結果魔法に特化した学校が多く、諸外国から魔法を習いに来る生徒も多数在籍している。
そんな由緒正しい魔法学校において、リリアンは過去最低から二番目の成績を誇る出来の悪い生徒なのだ。
ちなみに過去一番悪かった生徒は魔法そのものが使えなかったので、魔法が使えるにも関わらず過去二番目の烙印を押されるのは、リリアンはよほど酷い成績と言える。
リリアンの魔法の酷い点は…ずばり!命中しない事である。
しかも必ず誰かに当たるので、リリアンは別名ランダム娘と密かに呼ばれているのは内緒だ。
ボルン魔法学校には三つの学科があり、
【生活魔法学】ファイアの様に火を出す魔法やピュリフィ(浄水)ライト(点灯)など生活に便利な魔法を教える学科。
二つ目は【作業魔法学】サーチ(情報検索)ディクリエイト(重力操作)ドライブ(魔機操作)など建築や土木仕事に必要な魔法学科。
三つ目が【冒険学科】こちらは対モンスターを想定した攻撃魔法を扱う学科である。
特に冒険学科は魔法の威力もさる事ながら、職業《魔法使い》を名乗れるのは冒険学科を卒業した者のみであり、魔法以外にもモンスターの知識や地学や天文学まで習得する必要がある。
三つの学科のどれかを修めると免許証が発行されて、はれて学校以外でも魔法使用が許可される。
何故そんな面倒なシステムかと言うと、得てして強力な魔法が簡単に市街などで使用されると一般市民に迷惑がかかるからだ。
当然ながら、生活魔法学<職業魔法学<冒険学の順番で免許証取得の難易度が跳ね上がる。
そんな難しい冒険学科に在籍しているのが、リリアン・ローズという女の子なのだ。
何故そんな難しい学科にリリアンが居るのか‥それは半年前にさかのぼる。
リリアンは半年前にモンスターに拐われてしまった事がある。
当時のリリアンは魔法学校がある首都ボルンの隣村に両親と住む普通の女の子であった。
明くる日、山へ山菜取りに出掛けた矢先、オーク(豚の顔をした巨漢な怪物)に見つかりオークの住みかへ拉致られた。
拐われた理由は当然〇〇〇である。
要するにオークには牝がいないので子孫繁栄のアレだ。
詳しく話すと成人向けな話しになるので割愛するが、とうとう貞操の危機が訪れる時が迫る‥
「止めろ!離せ!この小さいジョ〇ソン野郎〇!お前のディ〇クを近づけたらへし折ってやるからな!このふにゃふにゃポケットモンス〇ー!」
およそ女の子が発したとは思えない程のスラングである。
ちなみにジョン〇ンだのディ〇クだのポケットモンス〇ーだのは全て男性のアレだ。
「コイツ…元気ナ女ダナ…」
あまりの暴れっぷりにオークも引いている。
そんなリリアンがいよいよピンチに陥る時、オークの背後に見知らぬ男性が立っていた。
リリアンを拐ったオークが背後に気付き、何者かと振り返った矢先…
キン……
軽い金属音と共にオークの頭部と胴体は寸断され泣き別れとなった。
オークの胴体を真っ二つにした張本人は‥
「大丈夫かい?」
やけに爽やかそうな男が立っていた。
男が涼やかでシニカルな笑みを浮かべてリリアンを拘束していたロープをほどこうとするが…
「止めろ!離せ!近寄るな!ふにゃ〇ン野郎!」
一部始終ずっと目をつぶっていたので自分が助かった事を知らないリリアンなのであった。
オークの住みかからリリアンを救助した男は、リリアンが裸だと気付くと自分自身のマントでリリアンを包み…そしてリリアンを抱き上げてオークの住みかから脱出したのでした。
抱き上げられてる間…リリアンは男の顔をじっと見つめている。
それは‥救出された姫が勇者に一目惚れの様に…では無くて、恋愛に疎いリリアンは素直にこう思っていた。
《冒険者ってかっこいい…》
何故男が都合よく助けに来たのかと言うと、リリアンの帰りが遅いのを心配した両親が通りすがりの剣士にリリアンの探索を依頼したのだ。
リリアンを無事に送り届けた剣士は一晩だけリリアンの家に歓待を受けて翌朝には名前も素性も明かさずに旅立ってしまった…
その男には目的があり、モンスターを異常発生させてる謎の大穴の奥に存在するという魔王を討伐する本物の勇者だと知ったのは後の話であり。かくして勇者に憧れれる村の町娘Aだったリリアンは自らのチカラを高めるべく隣街の首都ボルン魔法学校を訪れた次第なのである。