6月2日は私の新しい記念日 (※小説です)
※小説です!フィクションですよー!妄想なんです!
「ねぇ。そう言えば一昨日の5月23日ってキスの日だったんだって。知ってた?」
そんなことを1年以上同棲をしている彼氏に聞いてみた。
私はエリ。ごく普通の大学を出て、地元の商社に勤めているOLだ。
特に容姿も美人と言う訳でもないが、無駄にテンションが高くそこそこノリも良いので、意外と男友達からも女友達からも人気がある。
とは言え、まぁどこにでもいるような人間だろう。
「え、え!?な、何?突然。知らなかったけど…」
ソファに座ってスマホを片手に何やら考え込んでいた彼は、私の言葉を聞いてその様に返事をした。
何だかすごく驚いているようだがどうしたのだろうか?
「いや、私の友達が昨日そんな事言っててね。Twitterのタイムラインにそれ系のマンガが沢山投稿されたんだって。私も知らなかったからさ、ソウマは知ってたのかなぁって。」
まぁその後にその友達からめちゃくちゃ惚気けられたのだが。
「そ、そうなんだ。急に言われてびっくりしたよ」
そう言って少しはにかんだ様な笑顔を見せる彼。
少しイタズラ心が出てきた私は、彼に提案してみる。
「今からめちゃくちゃキスしてみる?」
「い、今から!?え…いや、良いけど…」
案の定、彼はめちゃくちゃ慌てふためいているのを見て、私は思わず笑ってしまった。
でも、キスを否定しないあたりが、なんだか愛おしい。
「ふふふっ!まぁそこまでめちゃくちゃキスしなくても良いけどね」
そう笑いながら言って、彼の隣に座って口にキスをする。
「ったく。エリはいつも突然だなぁ」
彼は苦笑を浮かべながらも、そう言って私の肩を抱き寄せてくれた。
彼はソウマ。私の恋人だ。
3年前の社会人1年目の時に、大学時代の友人が幹事の合コンで知り合った人。
他の合コンの参加者の様に、おしゃべりが上手かったりテンションが高かったりせず、合コンなのに自分の事をあまりしゃべらず、にこにことみんなの話を聞いていた。
見た目もこれと言ってイケメンと言うわけでもなく、全然自分のアピールをしないから、普通なら記憶にあまり残らないだろう。
でも、そのもの静かで穏やかそうな雰囲気が私は気になり、私からLINEを聞いてみた。
彼はLINEを聞かれるなんて思ってもみなかったらしく、すごく慌ててスマホを取り出したのを覚えている。
てか、驚くくらいならなんで合コンに参加したんだ?
後で聞いてみたら、急遽メンツが足りなくなって、相手側の幹事に強引に誘われたらしい。
その話を聞いて、私はひどく納得したものだ。
合コンの後に何回か遊んでみたけどスポーツはあまり得意じゃないみたいで、スキーやスノーボードは全然滑れない、浅い海で溺れそうになる、ボーリングに至っては3ゲームしてアベレージが32だった時は笑ってしまった。
カラオケでは流行りの曲は全然知らないみたいで、子供の頃に見ていたアニメや特撮の主題歌を少し歌えるくらいだった。
ちなみに私は平成ライダーの主題歌を歌いまくった。
いつも私が彼を引っ張りまわしていたが、いつも彼はイヤな顔をせずに微笑んでおり、私の行動についてきてくれた。
だから、私はそんな彼の事を憎からず思っていた。
合コンの半年後に彼から付き合って欲しいって言われた時はすごく驚いたし、嬉しかったものだ。
付き合ってからも私は彼を振り回し、彼はいつも穏やかに微笑んで私と居てくれた。
たまに私に振り回されて疲れないのか彼に聞いた事があるが、「僕はあんまりアクティブじゃないからね。エリが僕をいろんな所に連れ出してくれて楽しいんだ。僕だけじゃやろうとは思わなかった事がエリと居たらいっぱい体験出来た。それが楽しいんだよ」と言われて、めちゃくちゃ恥ずかしかったが。
彼の家は私の実家から少し遠かったから通うのがめんどくさくなって、1年前に私の方から同棲を提案してみたが、彼はすんなりと「良いよ」と言ってくれた。
一緒に暮らしてみて思ったのが、彼は家でもボーッとしている事が多い。
普段から読書が好きだと言っていたが、読書していない時はいつもボーッとしていたんだそうだ。
とは言え、人付き合いは悪い方ではなく、たまに同じ会社の同期の友人と遊びに行く事もある。
同棲しても相変わらずボーッとしている事があるが、私がよく絡むのでたまに苦笑しながらも付き合ってくれる。
なんかこう…彼の周囲にはすごくゆったりとした時間が流れているみたいで、いつも騒がしい私だが、彼のそのゆったりとした空気感が私には心地よい。
多分、彼からマイナスイオンでも出ているんじゃないだろうか?
そんな風に回想をしている時。
「エリは次の日曜日…えと、6月2日かな?友達と予定とか入って無かったよね?」
彼が私の予定を聞いてきた。
一応手帳を見て確認する。うん。特に予定は無かったな。
「次の日曜日?うん。特に予定は無いよー。どうしたの?」
パッと見はいつもの様にポヤーっとしているが、長く付き合っている私には分かる。何だか彼はソワソワしている様だったがどうしたんだろう?
「この前会社の先輩が、エリが前に気になってた新しく出来たお好み焼き屋さんに行ったらしくて、そこのクーポン券貰ったんだって。前に先輩にエリが気になってるって話をしてたから、クーポン券くれたんだよ。行ってみない?」
なんと!あのお好み焼き屋はめちゃくちゃ気になってたから行きたかったんや!
「行く行くー!絶対行く!」
テンションが上がりすぎた。少し恥ずかしい。
そんな私を見て彼は苦笑を浮かべている。
「ははは、エリは相変わらずお好み焼き好きだね」
「当然!あの少し焦げたソースの暴力的な香り。フワッと焼き上げた生地は表面がサクサクしていて、ソースと合わさる事で至高の食べ物になるのよ!もちろんお好み焼きはおかずだから、ご飯との相性も神がかり的!まさにご飯とお好み焼きのマリアージュ!」
はっ!アカンアカン。ちょっと熱くなり過ぎた!
彼も苦笑じゃなくて普通に笑ってしまってる!
「ははっ!あははははっ!エリのお好み焼きへの愛はもう分かったよ。その後に映画でも見て帰ろう?」
くぅぅ!恥ずかしい!
「映画ね!ソウマは何か観たい映画でもあるの?」
「ふっふっふ…。僕らの世代ならアレを観なくちゃね…。あの黄色い電気ネズミの映画を!」
中々わかってるではないか。
「おけー。私も気になってた」
いつものやり取り。特に大きなイベントでもなく、なんでもない日常を私と彼は楽しんでいる。
そんな穏やかな日常が私には心地よくて、何物にも代えがたい大切なこと。
さて、そんな風になにげない日常を過ごして6月2日を迎えた。
あのお好み焼き屋は中々美味しかったし、また行きたいと思う。
電気ネズミも評判通り面白く、世代的にもドンピシャなので、彼とめちゃくちゃ楽しめた。
その後に晩ご飯を買って帰るだけと言う状況だったハズだが、その前に寄りたい所があると言われて映画館の近くにある眺めの良い展望台に来たんだけど、どうしてこうなった?
「エリ?どうしたの?」
彼がすごく不思議そうに、それでいてすごく不安そうに私を見ている。
「え、いや、ちょっと待って!?ちょっと理解が追いついてなくて…。もう一度言って?」
私はめちゃくちゃテンパっているのだろう。顔も真っ赤になっているに違いない。あ、変な汗が出てきた…。
彼は慌てふためいている私を見て少し落ち着いたのか、いつもの様に穏やかに微笑んでもう一度言ってくれた。
「エリ。今日は何の日か知ってる?」
「え…、えっと…何の日だっけ…?」
ホントに何の日だったっけ?
付き合い出したのは11月だし、彼の誕生日は8月、私は12月。同棲を開始したのは4月からだし…。
「今日は『プロポーズの日』なんだよ。……だから…」
え……?
……。
うわぁぁぁ!ちょっと待って!全然心の準備が出来て無かったし!てか、記念日とかじゃないから想像すらしてなかったし!
「だから、僕と結婚して欲しい!」
あぁぁぁぁっ!やっぱり聞き間違いじゃなかったァァァ!
彼はそう言って、ジャケットのポケットから1粒のキレイなダイヤが嵌っている指輪を取り出した。
私が中々返事をしないから、彼は少し不安そうな、そして耳を垂らしてしょんぼりしている犬の様な瞳で私を見てきている。
あぁ、もう!
いつもポヤーっとして私に振り回されるのに、たまにこうやってビシッと締めてくれるし、普段の穏やかな雰囲気も好きなんだよ!
だから、そんな不安そうな目で見なくても大丈夫だよ!
決まってるやん!私の答えなんて…。
「 」
勢いで書いた!今は反省してい…ない!
6月の第1日曜日は『プロホーズの日』だそうです。
5月23日の『キスの日』に何もしなかったので、代わりにこの日に短編投稿しました!
ちなみに、6月12日は『恋人の日』だそうです。