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異世界代理執行者-The Agent Executer-  作者: フィーエル
序章
6/12

 閑話 レナードの記憶

いつもより長めです

 レナードは騎士団にしては珍しく、実家は農家であった。

 このご時世、出立ちが職を決めると言ってもいい世界。レナードも子供の頃から自分は農家を継ぐものだと考えていた。


 そんなある日、村に悲劇が訪れた。魔物の軍勢が突如として襲来したのだ。

 こういった魔物の大発生というのは稀に起こる。数十年に1度、不特定の地域で魔物が湧いて出てくるのだ。魔物の種類は様々で現れる様子も不可解な点が多く、この現象の原因を突き止めることは未だに出来ていない。


 レナードはそんな謎現象など自分の身に降り掛かることはないだろうと考えていた。いや、そんなことを考えすらしていなかったかもしれない。

 だが、魔物は訪れる。誰に招かれるでもなく悲劇を巻き起こすために。

 そして、レナードに騎士を志すきっかけとなる出来事が起こることになったのだ。


 *


 レナードは元気で活発な子供だった。村の周辺には魔物がいなかったため、毎日村の友達と近所の川などに遊びに行ってはドロドロになったり擦り傷を作ったりして帰ってきた。


 その日もいつも通り村の友達を誘って近くの遊び場へと遊びに行った。

 お昼頃からたくさん遊び夕暮れ時になった頃、友達のひとりがそろそろ帰ろうと言った。

 レナードと他の子達も賛成してくてくと村へと歩いて帰った。


 レナードが村にたどり着き最初に目にしたのは轟々と燃え盛る家屋だった。

 レナードには何が起こっているか理解できなかった。


 空には得体の知れない動物が旋回し、地上では剣の交わる音や謎の呻き声が聞こえる。火矢が空から村を襲い家屋へと刺さり更に村が燃えていく。


 レナードはその光景を呆然と見ていた。

 何が起こっている?両親は無事なのか?誰の仕業だ?これから何をすればいい?この村はどうなる?どう生きていけばいい?

 いろんなことが頭を駆け巡り思考がまとまらなくなっていた。


「おい!みんな!とりあえず落ち着こう。」

 友人の1人が声を上げてパニックに陥る僕達へと語りかけた。

 村の中では年長で頼れるお兄さんのような存在だ。小さい頃から慕い続けてきた。

 そんな兄貴分の言葉はこの場にいる仲間全ての心に少しの落ち着きを取り戻させた。

「みんな、落ち着いてよく聞け。今何が起きているのか、それは僕自身もよく分かっていない。だが今は原因を考えている場合じゃない。今大事なのは何をするかだ。村では交戦する音が聞こえている。誰かが何かを守るために戦っているんだ。僕達は子供だ。戦うことは出来ない。しかし、村のみんなを導くことは出来る。3人1組になって村のみんなを探すんだ。そして無事な人を見つけたらここへと連れて戻ってこよう。恐らく襲撃は北の方からだ。ここが1番村で安全だろう南側だ。怖いという者はここに残れ。それじゃあ班を分けて早速行動しよう」


 彼の行動は迅速だった。流石、村長の息子というだけある。残る者と行動する者に分け、残る側にも1人頼れる人物を駐在させることで安心させる。


 僕は幸か不幸かライオット(村長の息子)と同じ班になった。

 3人1組では人数が足りず僕とライオットの2人で行動することになったのだ。


 その後僕達は行動を開始する。

 3方面へと分かれて村人たちを探すことになった。それぞれ自分の家がある方を担当している。僕とライオットも同じだ。

 火をなるべく避けながら進む。

 どうやら兵士たちはもう襲撃を退けたようで戦闘音は止んでいる。

 家屋は崩れているものも多く、下敷きになり亡くなっている人も沢山いた。

「誰かー!誰かいませんかー!」

 僕達は声を上げ村人たちに呼びかける。

 すると物陰に息を潜めて隠れていた人々がぞろぞろと現れた。


「ライオット!」

 その中の1人がライオットを見つけるやいなや抱きしめる。

「お、お母さん!」

「大丈夫?怪我はない?」

「う、うん大丈夫だよ。お母さんこそ平気?」

「ええ、運良く怪我は避けられたわ」

「そう、良かった。他の子供たちはも無事だよ。みんなで南側で避難してるからお母さん達もそこへ行って…そう言えばお父さんは?」

「お父さんは…村の人を守らなきゃって言って探しに行ったわ。私は行かないでって言ったのだけれど村長が住民を守れなくてどうするって言って…」

「そう、分かった。ありがとう」


 ライオットはそれを聞いて探しに行こうとした。

「待って、どこへ行くの。お母さんと一緒に避難しましょう」

「で、でもお父さんは」

「あなたまで私を置いていかないで」

「で、でも…」


 僕も両親の姿を探す。しかし見つからない。

 もしかして戦いに巻き込まれたんじゃ…

 僕に不安が募っていく。

「ラ、ライオット兄ちゃん。ぼ、僕、お父さんとお母さんを探してくる!ここにいないみたいなんだ!」


「ま、待てレナード」

「ちょっと、ライオット!?待ちなさい」

 ライオットはお母さんに捕まり僕を追いかけては来れなかったようだ。


 僕は走る。

 まだ生きてるかもしれない両親を探して。




 自分の家までやってきた。


 そこで目にした光景は一生忘れることはないだろう。


 レナードの目にしたのは今まさに母を守って地に倒れ伏す父の姿だった。


「お父さん!お母さん!」


 母は魔物に怯えて動けない。

 父はボロボロになりもう息をしていないようだ。

 魔物は尚も棍棒で父を殴り続ける。


 僕は恐怖で立ち尽くしてしまった。

 目の前で父がやられているのになにもできない。

 母が恐怖しているのに動けない。


(僕は無力だ…)

(じゃあ何もしないというのか?)

(だって、何も出来ないじゃないか)

(そんなことはない。君だって戦える)

(子供だぞ?)

(すばしっこさを活かせ)

(相手は魔物だぞ?)

(魔物だからなんだってんだ。賢くはない。そこをつけ)

(くっ…そんなこと僕にできるわけ…)

(そんなこと考えてるぐらいなら動け!魔物の注意を引き付けて応援が来るまで時間稼ぎをするんだ)

(で、でも…)

(君がやらなきゃ誰がやる。やらなきゃ父は死んでしまう。やらずに後悔するよりやって後悔した方がマシだ!)

(ち、ちくしょう!あぁ、この怒りを奴にぶつけてやる。僕だってやってやるさ)

(その意気だ)


 僕は立ち上がる。

 目の前には小ぶりな剣が光り輝いて刺さっていた。

 引き抜くとパワーが漲ってくる。


(これで、お父さんとお母さんを守る!)


 僕は魔物目掛けて剣を振りかぶり突撃する。

 魔物は驚き飛び退る。僕の振り抜いた剣は空を切った。

 魔物はよろめいた僕をチャンスとばかりに横から殴り付ける。


「ぐぁっ!」

 僕は殴られた拍子に吹っ飛び地面を転がる。


(落ち着け、もっと慎重に動けば君はやられない)

(そうだ、落ち着け。怒りに身を任せたらダメだ)


 魔物の注意は惹き付けられた。

 僕は再び立ち上がり魔物を睨む。


 魔物はゆっくりと近づいてくる。

 一歩近づいてくる度に威圧感が増していく。

(怖い、怖い。で、でも2人を助けられるのは僕だけなんだ)


 その魔物は僕と数メートルの距離のところまで来るといきなりジャンプして僕に飛び掛ってきた。


「うわぁ!」

(落ち着け!僕が剣を誘導する。力を抜いて従ってくれ)


 何者かの声は僕には届かない。恐怖で余計に剣を握る力を込めてしまう。

(落ち着け!落ち着け少年!)



 スローモーションのように感じられた。

 母は手を伸ばして目には涙を浮かべている姿。

 魔物は棍棒を振りかぶって襲ってくる姿。

 轟々と燃え盛る家屋。どこからか聞こえる悲鳴。

 空を羽ばたく魔物の姿。


 あぁ、この世界は理不尽だ。昨日まで当たり前に過ごしてきた日常が崩れ去っていく。幸せな生活が奪い去られていく。


 僕は無力だ。



 魔物の攻撃が当たるその時、横から見覚えのない影が割り込み、次の瞬間には魔物は目の前から消え去っていた。


(な、なにが、起こったの?)

 僕は剣を握ったままへたり込む。


「大丈夫か、君!?」

(あなたは、あなたは誰?)

 今までの恐怖で声が出ない。


 わなわなと震える僕を見て彼は言った。

「近衛騎士団団長。レオンハルトだ。魔物の襲撃を受けてるのを見て助けに来た」


 僕は安堵した。安堵のあまり泣き出してしまった。


「君、泣いている場合ではないぞ。まだ魔物はやってくる。早く避難するんだ!」

「はい!」

 僕は涙を拭いそう答えた。


 レオンハルトの背後から魔物が飛び掛かる。

「レオンハルト!後ろ!」

 レオンハルトは僕が言い終わる前に既に魔物を亡きものにしていた。


 強い。

 直感的にそう感じた。そして憧れた。


「早く避難を!」

 僕を庇う形でレオンハルトは魔物へと対峙する。

「はい!」


 僕は走った。

 母を抱き起こしレオンハルトの奮闘を後目に、瞳を輝かせて。




 魔物の襲撃騒動は近衛騎士団の活躍によって鎮圧された。

 いつの間にか光り輝く剣は手元から消えていた。

 残念ながら父は既に殺されていたらしい。

 あの時もっと僕に力があれば、もっと早く動けていたら。もっと早く魔物に気づいていたら。

 後悔は後を絶たない。


「君」

 僕は声をかけられ顔を上げた。そこにはあのレオンハルトがいた。

「すまない。君のお父さんを助けられなかった」

「え…」

「助けられたはずの命だった。あと少しでも到着が早かったらもしくは…」


 僕は何も言えなかった。

 僕も同じことを考えていたから。


 だからひとつ決意した。

 レオンハルトみたいな騎士になりたい。

 今みたいな後悔をしないように強くなりたい。


 こうして僕は騎士になろうと決意した。




 それから僕は農家の息子であるにも関わらず気を削って木剣を作り、毎日剣を振って鍛錬した。


 そしてある日近辺を治めている城主がやって来て見初められ騎士団養成学校へと入れてもらうことになる。

 そしてしばらくして城主の推薦で騎士団副団長という座に着くことになった。


 これからは城主を何がなんでも守ろうと決意して副団長になったのだ。

レナードと城主より騎士を目指すことになった経緯の方が面白くかけると思ったのでこちらを書きました。


レナードの意志をトオルが継いだという感じです。

ライオット君のお父さんは数人の住民を助け出し無事に生きています。


次回はトオルが倒した賊について触れていきます。

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