第5話【代理執行者】
※人が切られるシーンがあります
「エージェントエグゼキューターだか何だか知らないが、俺を傷つけるとは許しちゃおけねぇ!こそこそ死体を操ってないで姿を現しやがれ!」
賊が脅すように語り掛けるが僕は臆することなく対応する。
「僕は逃げも隠れもしないさ。今この体は僕のものなんだから」
「はっ、よくわからないことほざきやがって…まぁいい、こいつをもっかい倒して次はお前を見つけて殺してやる」
賊はそう宣言すると突進してダガーを振りかざした。
僕は受け止め弾き返そうと考え構える。
ダガーが剣に当たる直前、僕は悪い予感がし後方へステップして攻撃をかわした。
僕は降り抜かれたダガーを見て悪い予感は的中したことを悟る。
ダガーは禍々しいオーラを纏いその余波で回りの空気が脈動していたのだ。
「ほう、まさか剣で受け止めずに避けるとは…なかなかいい勘してるじゃねーか」
賊は驚いたように言いながらも感心した風に話している。
「間一髪だったけどね。悪い予感がしたんだ」
僕は賊が愚直に突っ込んで戦う相手じゃないと認識し考えを改めた。
もともと油断していたわけではないが、倒すには覚悟を決めて挑まなければならないと感じたのだ。
僕はもし体がやられても自分は助かるという考えがあった。その上相手は疲れ切っていた様子だったしそこまで苦労せずとも撃退できるだろうと考えていた。
しかし相手は僕を全力で殺しにかかっている。スキルもまだ使えるようで生半可な覚悟じゃ撃退するどころか自分がやられてしまう。賊のスキルは精神生命体であっても相性はよくないことを悟ったのだ。
「少々あなたを過小評価してしまっていたようだ。その攻撃は僕にとっては厄介極まりないみたいだね」
「ハハハ、こりゃ面白い戦いができそうだ。いいぜ、かかってこい」
再び両者は互いの出方を窺う。
「来ないなら今度は僕から仕掛けさせてもらおうか」
そして僕は賊を倒すため動く。
体は剣術を覚えている。そのため僕は苦労することなく剣を扱うことができていた。
剣は軽々と持ち上がり賊を切り裂くために動く。
賊は軽快なステップを踏みながら危なげなくかわしていく。
僕はスキルのおかげで上がった敏捷性を生かし更に剣速を上げていく。
剣が賊のスピードに追い付き少しずつダメージを負わせていく。
賊はまたしても驚いた表情を浮かべたが楽しそうに笑う。
「そうだ!もっとだ!もっとお前の全力を見せてくれ!」
賊は大きく後方に跳び距離を取ると魔法を発動させた。
「【火炎魔法】[ファイヤーボール]!」
火球はかなりのスピードで飛んでくる。
僕も対応するためスキルを発動させる。
「スキル発動![守護壁]!」
目の前に半透明の障壁が出現し[ファイヤーボール]を防ぐ。
火球は小爆発を起こし消滅した。爆発の余波で地面の土煙がが舞う。
賊は素早く懐に潜り込むとダガーで僕を切り裂いていった。
「くっ…」
僕は痛みを味わわないはずなのになぜか痛みを感じた。更には精神体に何かが纏わりつくような不快感を感じた。傷口には先ほどレナードが受けたように禍々しいオーラが纏わりついていた。
「驚いたなぁ。まさか魔法をスキルで防いで消滅させるとは…」
そういいながらも賊は少しの余裕をもって対峙しているようだ。
「火球が本命ではなかったのだろう?」
「あぁ、その通りさ。本当は魔法を避けて体勢を崩したところを狙う予定だったから障壁で防がれた時は結構焦ったぜ?」
賊は飄々とした態度で言い放つ。
「なるほどな…」
俺はいったん落ち着いた。
「おいおい、そんなに落ち着いてていいのか?俺の[邪纏]は精神に作用して精神体を蝕むぜ?そろそろ心が締め付けられるような痛みが来るだろ?」
それを聞いて僕は焦ったがしばらくしても苦しみは全く感じなかった。
「なっ、平気だっていうのか?」
「あぁ、僕は全然平気だ」
僕は苦しみを感じるどころか先の不快感すらなくなっていた。傷口を見てみると傷はあるがあの禍々しいオーラは消えていた。
「ちっ、俺の攻撃が利かないなんて初めてだぜ」
「じゃあ僕の攻撃だ。受けてみろ![水流波動]!」
「はぁ?!最上級だと?!」
僕の攻撃は賊へと一直線に放たれる。
賊は左に跳び僕のスキルをよけようとした。
しかし完全には避けきれず賊の右腕は水流に飲み込まる。
腕は激しい水圧によって切断され、持っていたダガーとともに血しぶきを上げ彼方へと飛んでいった。
僕はスキルを放ったことによる疲労で倒れこむ。
賊は得物を失い立ち尽くしていたが、我に返り切断された腕の止血をするために動いた。
「この俺が負けるとはな…次に会った時には仕留めきれなかったことを後悔させてやる。エージェントエグゼキューター、だったか?次に会えるのを楽しみにしておくぜ」
賊はそう言い残すと立ち去って行った。
辺りは静まり戦闘音もやんでいる。あの賊が部下を引き連れて帰ったのだろう。
「はぁ、異世界早々戦いに巻き込まれるとは、僕も運がないな…」
『ミッションの達成を確認しました。なお離脱後、達成報酬が与えられます』
再び無機質な音声が頭に響く。
「はぁ、やっと終わったのか」
そう独り言ちていると城主が重い足を引きずってやってきた。
「レナード…レナード!無事であったか?」
城主は僕が息をしているのを見ると安心したようだ。
「一回倒れた時は死んだんじゃないかと心配したぞ!」
僕はただ黙っていた。
「レナード?おい、レナード!返事をせんか」
「レナードはお亡くなりになりました…」
「は?何を馬鹿なことを言っておるんじゃ。そなたがレナードであろう?馬鹿なことを言うでない」
城主は僕が冗談を言っていると思っているのか笑っている。
「……僕はレナードではありません」
「なに…?」
「レナードの魂の叫びを聞いてレナードさんの願いをかなえに来た代理人にすぎません。訳あってレナードさんの体を借りているだけです」
僕がそこまで説明すると城主は落胆しその場に崩れた。
「そう、か…そなたはレナードではないのか…」
僕はこの城主に義理も恩もないが少しかわいそうに思った。
しかしレナードはもう帰ってはこない。それに自分はレナードにはなれないのだ。
レナードを助けられなかった自分が少し無力に感じた。。
「…そなたは何者なのだ?」
城主が僕に問いかける。
「僕は…僕は死者の願いをかなえる【代理執行者】です」
「…そうか、エージェントエグゼキューター…代理執行者、か。ありがとう。私のような老いぼれを助けてくれてありがとう」
僕は城主に感謝された。でも、もしレナードの願いを聞いていなかったら見殺しにしていただろうとも思った。
「僕はレナードさんの願いを叶えたにすぎません。礼ならレナードさんにも言ってあげて下さい」
そういうと城主は深く祈るようにして言った。
「今まで大儀であった。レナードよ」
レナードの無念の魂が解放されるような気がした。
閑話二つほど挟みます。
次回から毎日一話ずつ更新します。