第4話 決断の時
賊の幹部とレナードは間合いを取って互いを睨み合う。
「よう、副隊長さん。隊長さんはどこいったんだ?もしかして自分だけ助かるために逃げやがったか?」
賊は更に挑発する。
「違う!そんなことをする方ではない!」
「ふーん、そうか。ならどうしたんだ?」
「くっ、言い返したいのは山々だが、そう簡単に口車に乗せられる訳にはいかないんだよ!」
「はっ、そうかい。だがまぁ、どうせ俺ら反逆者のことを近隣まで知らせに行ったとか、そんな所だろ」
「くっ…」
「は?なんだ図星か?」
賊は嘲笑して更に煽る。
「くそ、お前はここで俺が倒す!」
レナードは刀を正眼に構えそのまま賊へと斬りかかった。
賊はレナードの攻撃をダガーで軽く受け止め、半身をずらし受け流す。
「はっ、所詮副隊長さんはそんなもんか。隊長さんと殺りあったときはもっと痺れたぜ?」
「まだだ、俺の本気はここからだ」
「はっ、そうかい。本気を出しそびれて殺されてくれるなよ」
「見てろ!【水剣】スキル発動![流水]!」
「【邪剣】スキル発動…[毒牙]」
賊は小声でスキルを唱えた。
レナードの姿が一瞬消える。
次の瞬間、レナードは賊をすり抜けるように移動して立っていた。すり抜けざまに賊を倒そうとしたのだろうか…
しかし賊はレナードの攻撃をうまくかわしたらしく平然と立っている。
「ぐっ…」
対するレナードは無傷では済まなかったようだ。
レナードの脇腹に裂傷が刻まれている。
「ふっ、攻撃が単調すぎるんだよ。直線的に突っ込んでくるなら攻撃を与えるのも簡単だな」
「ま、まさかスキルホルダーだったとは…」
「はっ、俺が賊だからってスキルを持ってないとでも思ったか?隊長さんはそんな慢心も油断もなかったぜ?」
賊はやれやれと言った感じで腕を上げる。
「うぐっ、冷静を欠いてしまうなんて…いつもの訓練でも冷静に立ち回れと言われ続けていたのに。とんだ失態だ」
レナードは痛む傷口を抑え立ち上がる。
傷口には禍々しい毒素が纏わりついている。
「ほう。俺の[毒牙]を喰らっても案外余裕だな。普通なら痛みで立ち上がるのも苦痛だろうに。体だけはしっかり鍛えてるようだな」
「ああ、次こそは外さない!」
「ああ来いよ!もっと俺を楽しませてくれ!」
再び二人は対峙し睨み合う。
場にピリピリとした雰囲気が伝染し、両者共に次の一撃で決着が着くような気配を漂わせている。
そして二人同時にスキルを叫んだ。
「[水刃乱舞]!」「[邪龍霊波]!」
レナードの剣から水の刃が放たれ、賊のダガーからは禍々しいオーラが放たれた。
エネルギーがぶつかり合い大きな衝撃を生み出す。
レナードの放った水の刃は四方から賊を襲い切り裂いていく。
賊の放った邪悪なオーラはレナードに纏わりつき汚染していく。
しばらく力は拮抗していたが遂にレナードが膝をつき倒れた。
賊は至る所に裂傷を作り血を滴らせていたがしっかり立っている。
「ハハハ、その程度の攻撃じゃ俺を倒すには百年は早いわ!」
賊は高らかに笑い、疲れたのかその場に座り込んだ。
「はぁはぁ…やっぱりこのスキルを放った後は疲労がやばいな。威力が強力なだけある。しかも結構攻撃を喰らっちまったし…少し休もう」
僕は呆然とその戦いを見ていた。
ただ、騎士の副隊長が賊に負けたという事実しか理解ができなかった。
(な、なんなんだあの超常現象は?!まるで魔法じゃないか!)
そんな時、誰かの嘆きが僕の心に届いた。
(ああ、俺は全くの役立たずだ。エドワルド様を守るという使命も果たせず、その上俺は死んでしまった…冷静さを欠いて負けるなど不甲斐ないばかりだ。願わくばエドワルド様だけでも救いたかった…)
すると機械の合成音のような音が頭に直接伝わってきた。
『シークレットスキル【代理執行者】が覚醒しました。以後使用可能です』
(な、なんだ?!【代理執行者】?)
『ミッションが発生しました。』
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ミッション
内容:賊(幹部)の撃退、及び城主(エドワルド)の救出
難易度:★★★
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『ミッションを受注しますか? YES/NO 』
(え!?いきなりなんだ?!これは選択しないといけないのか?ぼ、僕はどうすれば…このミッションを受けたらレナードさんの無念が晴らされるというなのか?)
「ふぅ、少しは体力も回復したし城主に止めを刺してやるか…」
賊は休憩を終えたらしく立ち上がる。
(あぁ、もう迷ってる暇はないじゃないか!答えはYESだ!)
『ミッションを始めるためにはレナードに憑依してください』
僕は迷わず憑依と念じた。
([憑依]!)
視点が一転し地面が見えた。顔を上げると立ち上がった賊の後ろ姿が見える。
まずは素早くレナードのステータスとスキルを調べる。
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種族:人間(Lv20)
職業:騎士団副隊長
生命力:0/2500(+0)
魔力:50(+0) SP:100
攻撃力:500(+100) 防御力:250(+50)
敏捷値:175(+25) 魔法力:10(+0)
〈上限突破〉
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スキル
【水剣】位階:2〈最上級開放〉
[流水][水刃][水刃乱舞][水龍波動]
【忠誠】位階:5〈スキル開放〉
[閃光波][守護壁][自動回復]
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(ん?〈上限突破〉とか〈スキル開放〉ってのはなんだろ?もしかして【代理執行者】の影響かな?…って、それよりもエドワルドさんを守らないと!)
賊の幹部は傷を抑えながらゆっくりとエドワルドに近づいていく。
「[閃光波]!」
僕は手をかざし賊の背後から迷わずスキルを放つ。
賊は僕の声に気づき驚き振り返る。
放ったスキルは賊の頬を少し切り裂き空の彼方に消えていった。
「な、なんでお前。まだ生きてたのか…息の根は止めたはず…」
賊は動揺して問いかけた。
「残念ながらレナードは死んでしまったようです」
「じゃあ、お前は、お前はいったい何なんだ!」
しばしの沈黙の後、僕は言う。
「僕は…敢えて名乗るのであれば【代理執行者】ですかね」
レナードの本来のステータスは表示されている値から(+〇)と武器の攻撃力(50)鎧の防御力(100)を引いた値です。