第3話 初めての町
(誰か良さそうな人いないかなぁ)
町に降り立った僕はあたりに人がいないかをキョロキョロと探す。
最初にやってきたのは住宅街だ。
町は結構発達しているようで煉瓦で出来た建物が町の至る所に建っている。それなのに人影は全く見当たらない。
(ん〜?なんでだろ?真昼間なのに人が全然居ないのはおかしいな?)
僕はもっと人がいそうなところに移動するために住宅街をあとにした。
(商店街とかだったらもっと沢山人がいると思うなー)
僕は商店街へとふわふわと移動する。
商店街へと着いた。路上に並び立っている簡易的な屋台には果物や野菜。串焼きでも焼いていただろうと思われる鉄板のある店まである。だけどまたしても人の気配はない。
(え〜!ここにも人いないのー?この町の人達はどこへ行っちゃったんだろ…)
僕は不審に思いながらも、人を探すため次は上空からでもわかりやすく見えていた城へ行くことにした。
城門はしっかりと閉められていた。その上城へと繋がる跳ね橋すらも上げられている。
(うーん。ここも人はいなさそうだなぁ)
初めて来た町に住民が一人もいないというのがおかしいと思ったが、僕は諦めてそこから立ち去ろうとした。
その時だった。
“ドガーン”
耳をつんざくような爆発音と共に城門が跳ね飛ばされるように開いた。
(な、なんだぁー?!)
城門が開き煙が舞っている。
その中から出てきたのは1人の立派な騎士とこの城の主であろう人物だ。
ぐったりとした城主は騎士に肩を貸してもらいゆっくりとこちらへ歩いてくる。
よく耳を澄ましてみると城内からは剣が交わるような甲高い音が響いている。
(あわわ!どうなってんの?!)
恐らく何故かは分からないけれど戦いが起こっているのだろう。
煙の中から更に兵士らしき人達が出てくる。
兵士たちは装備の貧相な人達と戦っている。
盗賊だろうか。
僕はパニックになってこの場から一刻も早く逃げようとした。
しかし…
「おい、そこにいるのは誰だ!」
城主を助けていた騎士に大声で呼び止められた。
僕はその声に驚き、冷や汗が流れる思いでそっと視線を騎士の方に向ける。
「正体を表わせ!そこにいるのは分かっているんだ!」
「ど、どうしたんじゃ?アラン」
城主はいきなり大声を出した騎士に動揺して問いかける。
城主には僕の存在は認知されていないらしい。
訳の分からない城主にアランと呼ばれた騎士は答える。
「いえね、そこにこそこそと姿を見せない敵がいるようでして、姿を見せるように脅しているのです」
「やはり正面でも待ち構えられていたか…裏口から潜入してきたからもしやと思ったが…アラン、わしを置いて逃げろ」
アランはその言葉を聞いて激昴する。
「な、何をおっしゃいますか!エドワルド様。あなたを置いていくことなど私には出来ません!」
「し、しかし、わしがおったら足でまといじゃろ。アランまでやられてしまったら全滅じゃ!」
「くっ、しかし…」
「お主は隣の領地までこの反逆者共のことを知らせてくれ!これは国の存亡がかかった危機じゃ。ここで情報を途絶えさせる訳にはいかん!」
「しょ、承知致しました」
アランは渋々と言った様子で城主の言葉を受け取る。
彼にとってこれは苦渋の決断だったのだろう。
不服さが明らかに顔に表れている。
「アラン隊長!」
奥から1人またしても騎士のような人物が現れる。
「レナード!」
「一体どうされたのですか?早くお逃げください!」
「レナード、残念だがわしが逃げるには少し遅すぎた。これからアランには隣の領地までこの反逆者共の情報を伝えてもらわねばならない」
「何をおっしゃるんですかエドワルド様!諦めてはいけません!」
「すまない、レナード。俺は最後の指名を全うしようと思う」
「アラン隊長まで!」
憤るレナードにアランは語りかける。
「この国の一大事なんだ。エドワルド様を頼んだぞ!」
「そんな、アラン隊長…私はまだ諦めません。何がなんでもエドワルド様を守り抜きます!」
「すまない、私が不甲斐ないばかりに…」
「そんなことありません!ここまで兵士たちが持ち堪えたのはアラン隊長のおかげです」
「ありがたい言葉だ。では、行ってくる」
「はい!賊を倒してお待ちしております!」
そうした問答を繰り返した末にアランは町の出口へと駆けて行った。
依然、城内では戦いが続いている。
煙が晴れ視界がクリアになっている。僕は城内を見て絶句した。
城の中庭では多くの兵士達が倒れ、死者もたくさんいた。
地面には兵士たちの血溜まりが広がっている。
元々何人いたか分からないが、戦いを繰り広げている兵士は今では10数人に減ってしまっている。
「ぐはぁ!」
また1人賊の攻撃によって倒されてしまったようだ。
襲撃者も無事では済んでいないようだが数は圧倒的に賊の方が多い。
そんな中、敵の幹部らしき人が1人、城門を抜けてこちらへ近づいてくる。
僕は息を潜めて見つからないように見守ることにした。
「やあやあ、やっと城主様の元に辿り着けだようだな」
やってきた人物は厭らしい笑みを口元に浮かべ、凶悪な形をしたダガーをチラつかせながらゆっくりとこちらへ近づいてくる。
そのダガーは血塗られていて何人も既に殺しているようだ。
城主は死を悟り静かに瞑目する。
「城主様がちょこまかと逃げるから道中にいるやつらを無駄に斬り殺しちまったぜ」
「き、貴様ー!!」
レナードと呼ばれていた騎士は激昴し、すぐさま抜刀する。
「ハッ、俺はお前のような副隊長にやられるほど柔じゃねーよ」
賊の幹部はここぞとばかりに挑発をする。
「余裕ぶっこいてられるのも今のうちだ。直ぐにその余裕、なくしてやる!」
「やれるもんならやって見やがれ」
そして今、賊の幹部と副隊長レナードの戦いの火蓋が切って落とされた。