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また髪の話してる……

「お、お待たせしました……どう、でしょうか?」


 馬車の中にエリンが入ってから数分。

 開かれた天幕から現れたエリンに、ガドックもクレイドルも一瞬目を奪われる。


 薄緑色の洋服はひざ丈までのワンピースであり、太陽の光を浴びるとまるで芽吹いたばかりの新緑のように淡く光を吸い込み光る。

 冒険者というには少しばかり高貴な服ではあるが、冒険ができるようにガドックが用意をしてくれたのか、腰に巻かれたベルトにはポーチや獲物を括り付けるようのホックが備え付けられており、肩にはローブがかけられている。

エリンがくるりと服を披露するように一回転をすると、めくれ上がったすその下から短パンとタイツが顔をのぞかせた。


「おー! 似合うもんだ! サイズもぴったり、言うことなしだ」


「そうね、見違えたわよ! ね、シンプソン?」

 

 横目でにらみつけるクレイドルに、シンプソンはふむと一つ考えるような素振りを見せた後。


「まぁ確かに奴隷服よりかは動きやすそうですね」


 なんて相変わらずな感想を述べる。

 

「す、すごいあったかくて……落ち着かないです。 エルフの里でも、こんなにあったかい服着たことなかったから」


「いずれ慣れるわよ、女の子なんだから御洒落も楽しまないと!」


「そ、そうですよね。 ありがとうございますクレイドル様」


「でもそれ、迷宮で活動するには少しばかり強度に問題があるような気もしますが」


 確かに、繊細な作りから高価なものであることは想像ができるが、それでも迷宮という場所においては強度面に不安が残る。

 だがガドックは心配ないと言いたげに鼻を鳴らすと。


「その服の裏地にはルーン魔術が縫い込まれてる。 丈が長いのもそのためだ。 動きにくいように見えるかもしれねえが、鎧とは異なる魔法礼装ってやつだ。 風の精霊の加護に土の精霊の加護。 さらには生地にもミスリル繊維を一割程織り込んである。 シンプソン、

お前が着ているカソックと同じ製法だ」


「おや、私の服そんな高価なものでできてたんですねぇ」


「ほんと、金に眼がねえ癖に目利きの効かねえ奴だことで……」


「割と上位の魔法に、高等技術の結晶だけど……何? あなたの娘伝説の魔法使いだったりするの?」


 クレイドルは驚いたようにガドックに問いかけるが。


「その、はずだったんだけどなぁ」


 その言葉に寂しそうにガドックは笑うのみで、それ以上の言葉は続けなかった。


「……ごめんなさい」


「なんで謝んだよ。 ほら、その服もって迷宮でも何でもいっちまいな。せっかくいいもん渡したんだ、怪我すんじゃねえぞ」


「はい、ありがとうございました。ガドックさん」


「じゃあな」


 エリンの姿に自分の娘を重ねているのか。

 ガドックは寂し気にはにかみながらも、シンプソン達を見送り、シンプソン達はガドックと別れガルムの町の奥へと進んでいくのであった。


                   ◇


「ガドック……いい人だったわ。あんたとどうして友達なのか不思議でたまらないんだけど、何がきっかけで出会ったのよ」


 ガドックと別れ、迷宮へと挑む冒険者たちの間を歩きながら、クレイドルはそんなことを呟いてリンゴを一つかじる。


 皮肉を織り交ぜた他愛のない質問。

 しかしシンプソンは昔を懐かしむように口元を緩めると。


「まぁ、人の縁とは神すらも驚くほどに奇譚なりということですよ」


 ガドックとの出会いを奇譚という言葉で形容した。


「何よもったいぶって」


「そういうわけではありません。 ですが彼との出会いは特別なものでしたのでねぇ、秘め事にしておきたいという少年のような心が私にもあるのですよ」


「うっさんくさ」


「クレイドルさん本当に失礼ですよね」


「あんたほどじゃないわ、お互い様でしょ?」


「そういうことにしておきましょうか」


 吐き捨てるようなクレイドルと、やれやれとため息を漏らすシンプソン。

 しかしながらその会話も険悪というものではなく、どことなく二人が楽しんでいる節があることに気が付きつつあるエリンは、満足げに二人と手をつないで迷宮前通りへと侵入をする。


「すっごい賑わい……っていうかうるさい」


 正門でさえも賑わいを見せていた町は、迷宮の近くともなるとさらなる活気を見せ。

 大剣や槍を背負うものや、巨大な本や魔物を連れ歩く人間たちの殺気が充満し、そんな空気もお構いなしに商人たちはしきりに武器や防具、アイテムを売りさばく。

 その熱気に運ばれ、殺意の入り混じった熱がシンプソン達の肌を叩く。

 

 まるでこの町のこの場所だけ夏が来たような感覚に、クレイドルは春になって間もないというのに額からあふれた汗をぬぐった。


「活気っていうよりももはや熱気ね」


「暑いですし……怖いです」


 そっとエリンは不安げにシンプソンのカソックのすそを握る。


「まぁ、お二人の居た町はお行儀のいい人が来るおとなしい街でしたからね……ここの熱気は物珍しいでしょう」


「どうしてこんなににぎわってるの? 迷宮が現れた町のはずなのに」


「それだけ迷宮という厄災が人に恩恵を与えているということでしょう。 実際、迷宮から出土するものはあなたが認めた通り全てが神代の秘宝。 それを求めて人が集まり、同時に人が集まるところには商売が産まれます。あなた達神様にとってみれば厄災かもしれませんが、人の営みというものはいつ何が幸福につながるかなどわからないものですよ。 災い転じて功と為す。 こと経済においてはそういうことは往々にしてあるものです」


「そういうものなの?」


「そういうものです……そしてその逆もまたしかりです」


 得意げに話すシンプソンにクレイドルは何とも言えない表情をして再度町を見まわし、エリンもその後ろからこっそりと町の様子を見まわす。

 

 冒険者の町の名の通り、歩く人間のほとんどは鎧や甲冑に身をまとっており、金属がこすれあう音が不協和音のように人々の声に混ざり聞こえてくる。

 しかしだからと言って冒険者しかいないというわけでもなく、そんな冒険者たちの間に混ざって普通の服を着た人間も散見される。


「意外と普通の人も多いのね」


「そうですねぇ、冒険者4割残りがその他といった所でしょうか……それだけここが商いのチャンスになるということですね」


「というと?」


「何も迷宮で重視されるのは古代の遺品だけではありません。あちらのご老人たちをご覧ください」


「ほえ?」


 クレイドルがシンプソンに指をさされた方向を見ると、何やら不思議な帽子をかぶり、緑色のローブを身にまとった老人たちの集団が見て取れる。 

 腰が曲がり、中には杖をついて歩く者もおり、到底冒険者には見えない。


「あんなおじいさん達も迷宮に? 老後の楽しみにしては随分とハードね」


「わかりませんよクレイドル様、遥か東の地に伝わる熟練の武闘家集団がいるではないですか」


「ま、まさか!? 太古の暗殺拳、毛根寺拳法! あの集団がそうだっていうの?」


「そうです! 毛根の一本すら許されない厳しい修行を乗り越え、拳にて龍の首を断ち、頭突きにて悪魔を穿つあの伝説の拳法家集団! 伝説級の神代の迷宮です! 毛根寺から老師が訪れたとしても不思議ではありません」


「ふおおお! さ、サイン貰わないと! 私毛根寺拳法の達人が主人公の、毛根の拳が大好きなのよ!」


 二人で盛り上がるクレイドルとエリン。

 なんだかんだ打ち解けてきている様子にシンプソンは心配は杞憂であったことを悟りつつも、二人の勘違いを訂正する。


「なんだか髪の毛の話で盛り上がっているところ申し訳ありませんが、あのローブに描かれている大鷲のマーク、あれは考古学研究家の方ですよ」



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