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6.戦女神の御神託。【※挿絵有】

挿絵(By みてみん)

(戦女神近影。※【Vカツを利用して作成したスクリーンショット画像です】)


◇◆◇


「うむ、苦しゅうない。貴様は時空の女神の信仰者ではあるが、同時に人類種最強に上り詰めた圧倒的強者である。余の寵愛ちょうあいを受けるに相応ふさわしい男ゆえ」

「心底、嬉しく存じます」


 闘争と強者を好む戦女神は、ゲルハルトと相性の良い神性の一柱である。

 彼女が積極的にゲルハルトに肩入れするようになったのは、逆行転生の回数が3桁に達しようかというところからであった。

 彼が持っている武具のほとんど――例えばヴィルベルヴィントやファイアフライといった強力な魔剣は、この戦女神の導きによって入手できたものである。

 人類種最強に上り詰め、そしていま邪悪な神性を倒さんとするゲルハルトにとって、彼女はいなくてはならない支援者パトロンであった。


「うむ、して」


 戦女神は供物として捧げられたアークデーモンの頭を路上に落とし、その素足で踏み潰した。


「このあと貴様はどうするつもりか」

「はい。明日にはこの街を発ち、まず私掠伯を討伐しようかと考えております」


 戦女神の問いに、ゲルハルトはそう答えた。

 魔王級私掠伯は非常に好戦的だ。

 そして彼の掠奪りゃくだつ欲は、留まることを知らない。

 放っておけば、再びこの街や他の街を攻撃することは明らかであった。

 一方の戦女神は、「ふむ」と頷くと「それもよいだろう」と言った。


「それも、ということは……私掠伯討伐よりも優先すべきことが?」

「否、私掠伯を討つ。この選択は善い」

「安心いたしました」

「だが、しばし待て」

「はあ……」


 ゲルハルトは戦女神の真意を測りかねた。

 私掠伯を討つのであれば、すぐさま単騎で攻め入った方がよいのではないか。

 彼には若干の焦りがある。

 襲撃を撃退してから正規軍の防衛部隊が到着するまでの間、この街を離れることができなかったため、従来の周回に比べると私掠伯の討伐が遅れているのだ。


「気の抜けた返事をするでない」


 に落ちない顔をしたゲルハルトに対して、戦女神は笑った。

 シズクの穏やかな笑みとは対照的な、弾けるような笑顔がまぶしい。


「あと1週間ないし2週間の内に、この街に王国軍第11師団約2万が到着する。私掠伯への報復のためにな。貴様は王国軍と協同して、私掠伯を討て」

「……それが御意思であるならば、忠烈に従うのみ」


 ゲルハルトは頭を垂れたが、内心では参ったなと思った。

 敵味方の入り混じる戦場では、自身の最大火力を活かすことは難しい。

 それに他者との調整を面倒に思うゲルハルトは、これまでの周回で正規軍との共闘など1度も試したことがなかった。


「ふん。貴様の考えていることはお見通しである」

「……申し訳ございません」

「別に構わん。だがこれも邪神討伐のための布石となるのだ」

「はっ」


 戦乙女は数多あまたといる神性の中でも、ゲルハルトに対して非常に協力的であった。

 常に邪神討伐という目的を理解し、その達成に必要な戦術や武器を授けてきた。

 故にゲルハルトの彼女に対する信頼はあつい。

 彼女が邪神討伐のための布石だ、というのならばそれを受け容れるつもりだった。


「うむ。では次なる戦を楽しみにしておるぞ」


 欠点が唯一あるとするならば、それは戦争を最上の歓びとするところだろうか。

 戦争による状況好転や、新たな武器の収集による戦力増強。

 戦を司る彼女の提案はどうしてもそういったものになりがちだ。

 邪神復活を阻止するためにどう立ち回るか、といった戦略やはかりごとに関しては、無関心であることが多い。


「お待ちください」

「ん、まだ余になにか用か?」

「他の神格の方々に動きは――」

「ああ、彼奴きゃつらか」


 無関心に戦女神は言うが、ゲルハルトからすれば他の神々の動きがどうしても気になっていた。


 さて。前述の通り、ゲルハルトは時空の女神の力を借りて時間を逆行し、疑似的な転生を繰り返している。

 彼の生死の数は686回。

 実際の体感時間で言えば、これは約2000年に相当する。

 常人ならば確実に発狂するであろう、長きに渡る死闘と修練。

 だがしかし、このゲルハルトと時空の女神の時間操作を、快く思わない神々もいるのだ。


「時空の女神とその信奉者は、600回以上も同じ時を繰り返し、2000年もの時間を浪費した。もういい加減にして、時間を先に進めるべきだ」


 そう主張する者が、時間操作の影響を撥ねつけ、繰り返す時間の全てを記憶できる神々の中には少なくないらしい。

 その代表は技術進歩を司る工匠神こうしょうしんや、宇宙全体の歴史を記録する載録神さいろくしん

 要はゲルハルトの行いは、技術進歩や歴史の進行を妨害している、と彼らは考えているらしかった。

 現在のところ、彼らがゲルハルトに対し妨害行為を働いたことはない。

 だがしかし今後も彼らが静観を保つとは、ゲルハルトには思えなかった。


 故に、彼ら神々の動向が気にかかる。


「工匠やら載録やら、ああいう手合いはやはり快くは思っていないようだな」

「そう、ですか」


 ゲルハルトとしては気が重い。

 神格は人類種がどう足掻いても到達し得ない存在であり、それを敵に回すことだけは避けたかったのだ。

 敵は邪神と、邪神を崇める魔王どもだけで十分である。


「だがなに、連中も貴様のことを憎悪しているわけではない。むしろ最初の頃は、邪神復活が成れば、諸種族の歴史は途絶え、諸種族の技術は断絶すると危惧きぐしていたくらいだ。最近になって飽きはじめ、邪神が復活しても細々と歴史は続き、技術は継承されていくと考え始めたというだけ。気の迷いであろう」

「ならばよいのですが。それと、勇者級の選定はやはり……」

「うむ。人類神は勇者級を輩出する気はない」


 ばっさりと答えた戦女神の言葉に、ゲルハルトは肩をすくめた。

 勇者級。人類の危機に際して、人類神が生み出すという最終決戦存在――それさえ現れれば、ゲルハルトはこうして数百回も逆行転生を繰り返さずとも済んだだろう。

 だが人類神は、その救世主たる勇者級を選び出すつもりはまったくないらしい。


「前にも話したとおりよな。繁栄し過ぎた人類文明を、人類神は快く思っていない。人類神の庇護ひごを必要とせず、故に信仰は減っている。彼はむしろ邪神が復活してくれた方が良いと思っている節がある」

「馬鹿な……」

「邪神という危機が現れることで、人々は再び人類神を信奉する。彼は本気でそう思っておる。実際には多くの人類が死に絶えることで、信仰の総和そうわは減って、現在よりも力は衰微すいびするだろうに」


 落胆を隠せないゲルハルトの前で、戦女神の姿が透け始めた。


「いかん」


 神格が実体を得て顕現けんげんするには、かなりの信仰力エネルギーが必要となる。

 ゲルハルトがほふった千単位の魔物の血肉、この街を巡る攻防戦自体を供物として現れた戦女神であるが、それでもって10分程度が限界だった。

 御神託ありがとうございました、とゲルハルトが再び頭を垂れる。


「苦しゅうない。ではこの街にて、王国軍第11師団の到着を待て」

「はっ」

「ふふふ、い奴め。では次は私掠伯との一戦の後に会おうではないか」

「はっ」


 ははははは、という高笑いを残して、戦女神は夜闇に溶けて消え失せた。


 こうして、直近の方針は決まった。


 王国の正規軍と協同し、私掠伯を討つ。

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