12 『左獣」
春雄が警察に出頭して榮倉と話をした同じ日、銀一は志摩と会っていた。
と場での仕事を終えて帰路につこうとした銀一を呼び止め、風呂に入りたいから家で話そうと言う彼の腕を掴んで、志摩は繁華街へ誘った。
「また土建屋呼んでんちゃうやろな」
と銀一がカマをかけると、志摩は感情の読めない笑顔のまま少し黙って、
「え?」
と聞き返して来た。とぼけているのか、本当に心当たりがないのか、銀一には分からなかった。
「残念やったな、難波」
志摩にそう言われ、銀一は頷くしかなかった。軽く憎まれ口や皮肉を応酬しているぐらいが気楽で良かったと、銀一は志摩の思いがけない優しさに却って打ちのめされる思いだった。
赤江を出た二人は、並んで『死体置き場』と称される空き家街を歩いた。
銀一はこの街を通る時、怖いとは思わないが、寂しい気持ちにさせられるという。人の気配はないくせに、街灯の薄明かりだけがぽつぽつと点在する中に、記憶や思い出の沁み込んだ空気が、いまだに漂っているのだ。銀一が子供の頃にはまだ住んでいる家族が何世帯かあって、この地域で遊んだ事も当然ある。ここを通って小学校に通学していたし、今でも酒目当てに毎日のよう歩く道だ。銀一にとっては悲しい記憶も多い場所だが、しかし一番強く胸を支配するのは、やはり寂しさという虚無感だった。
確か西荻の家に住み込みで働く前は、難波の家もこの地域にあったはずだ。
「四ツ谷とは今どうなん。飲み屋ついた途端また襲撃されるんと違うか」
と銀一が聞いた。
「逆に今はうちが追い込みかけよる番よ。やられたらやり返す、その繰り返しやな。今の時代きっちりすり潰すトコまでやる組なんてあれへん。ドス持って大勢で来る時点でお察しよ。本気ならコソーっと忍び寄って後ろからピストルでズドンや。俺かて今、刑務所入るワケにはいかんしの。適当に逃げてごまかすわ」
志摩の答えに銀一は鼻で笑い、
「そればっかりやなお前。そいで、話ってなんじゃ」
と気になっていた質問を投げかけた。すると志摩は、
「ええやん、店ついてからで。酒飲みながらで」
とはぐらかした。
「酒飲みながらする話か?」
「素面ではあんまし、言いとうないのう」
「面白い話ではないようやな」
「…」
「一個だけ先聞かせえ」
銀一の声が本気である事を感じ、志摩は黙って彼の横顔を見つめた。
「こないだ雷留で飲んだ帰り、お前俺らについて来て護衛じゃあ抜かしたの。そん時はボケカスくらいにしか思わんかったけどよ、直後に難波がああなった」
「…ああ」
「しかもお前はあん時、藤堂の指示やと言うた。間違いないな?」
「ああ」
「どういう意味じゃ」
銀一の睨むような目つきに、志摩は溜息をついた。歩きながら周囲を見回して、こう言う。
「話言うんは、…その事や。兄貴の事や。お前、こないだ一緒の席におって、どう思った?」
「何がじゃ。もったいぶった話し方すんな。お前のそういう所が嫌いなんじゃ」
「傷つくのお。ほな単刀直入に言うたるわ。俺な、兄貴が、黒やと思うんや」
志摩の言葉に、自然と銀一の足が止まった。
月明かりの柔らかな光の中ではなく、寂びれていつ切れるかも分からない人口の灯の中で見る志摩の顔は、銀一にはとても生々しく見えた。化粧でもしているのかと思いたくなる白い顔。切れ長の目は普段通り涼しい表情を浮かべているものの、飄々としたいつもの軽さを感じなかった。冗談を言っている顔ではないと、銀一は思った。
「藤堂さんが、黒? なんでそう思う」
銀一の言葉に、志摩は目線で「歩こう」と促して先を行く。
「こないだ飲みの席で竜雄が兄貴に聞いたやろ。黒に会った事あるんかて。あると思うっちゅう、なんとも曖昧な返事やったけどよ、これが臭い」
「なんで」
「お前、黒なんておると本気で信じてるか?」
「…あ? なんやお前は。お前が今、藤堂が黒やと言い出したんちゃうんか」
「おお、怒るなよお前はすぐ、ほんまに」
「お前は信じてないんか」
銀一が聞き返すと、志摩は唸り声を上げて「分からん」と答えた。
「俺自身見た事はない。信じてるか信じてないか言うたら、信じてない。現実主義やからな」
「はあ?」
「例えば銀一が今、石に蹴躓いて転んだとせえ」
「お前にせえ。勝手に俺をこかすな」
「お、おお。俺が石に躓くとせえ。そこに神様の存在を感じるか?たまたま、偶然やがなで片付けるか、そういう話やんけ」
「…はあっ!?」
空き家街に響き渡る銀一の声に、志摩は眼前で両手を振ってみせた。
「すまん、今自分で何言うてるか分からんなったわ。だからな、目の前に今黒がおると、そういう実感がない限り俺は何も信じんのや。誰かがおると言うてるからおる、と。そういうのは俺にしてみたら現実的やない。…ただ、もしおると仮定するならば、それを見たと言い張る兄貴はちょっと、これは臭いぞと」
「ウソついてるだけかもしれんぞ」
「そんな風に感じたか?」
「じゃあほんまに見たんと違うのか」
「そこや。もし兄貴自身が黒なら、見た見てないは関係ない。自分の事言うてるわけやからな。初めて俺が兄貴をそういう目で見たのは、四ツ谷組の松田が死んだ時や。お前ら街の人間が知らんかったように、当然俺もバリマツが殺された事なんぞ耳に入って来てなかった」
「いまだに知らん奴も多いぞ。試しにと場で何人かに聞いたら、皆度肝抜かれてたわ。なんでや、病気か!いうて」
「せやろ。新聞にも出てないし、もちろんニュースにもなってない。それやのに、兄貴はバリマツが殺された事も、おそらくやったのが黒やいう話も、どこからともなく仕入れて俺に話して聞かせた。最初はそら、お前らと一緒。ほんまですか!? あのバリマツがですか!? てな具合でウブな反応や。…そこへ来てお前、ほんの一週間程前に殺された今井っちゅう警官の事まで知っとった。…なんでや?」
「だから藤堂がやったってか? そんな阿呆な話あるか、お前」
「そう思うか?」
黒の存在が現実的ではないと志摩は言うが、銀一にしてみれば志摩の妄想の方こそ現実味が薄いように感じられた。
「なんの理由があるんじゃ。何で藤堂がバリマツと今井を殺すんじゃ。戦争でも始めたいんかい。勝手に一人でやれや。それやのうても、そこに黒じゃーなんじゃーいう疑いを持ち出す根拠がお前にあるんか? 個人的な恨みがあって二人を殺っただけかもしれんし、ただ単に藤堂が根っからの戦争狂いかもしれんぞ?」
「そらまあ、そう言うたらそうやけど」
「自分で言うといておかしな話やけど、バリマツだけならまだしもヤクザが警察手にかけて戦争もクソもないけどな。俺は、お前らヤクザの事はなんぼ程も知らんけどよ。そもそもバリマツが殺された話がホンマなら、そら、そういう生き死にの情報はお前らがどこよりも早いんと違うのか。ましてやスターと呼ばれた自分とこの看板ヤクザを殺された四ツ谷が、絶対黙ってないわ。そこら辺からいくらでも、話なんか出てきよるじゃろ。若頭の藤堂が自分とこの上から話聞いとっても、それが普通と違うんか」
「ほな、今井の件は?」
銀一は不意に込み上げた笑いを抑えきれず、吹き出した。
「お前、さっきから何を言いよるんじゃ。お前ら紛いなりにも裏稼業じゃろ。そんなもんなんぼでも耳に入ってきよんと違うのか。自分の舎弟にそんな素人臭い理由で疑われるて、あの藤堂もたかが知れとるわ」
「…そうかあ。確かに情報はこれからの時代、それ自体が武器になるからのお。お前の言う通り一般市民よりは出回るのが早いわ。ただ、早すぎるというかなんというか。そういう違和感があったんもマジな話なんよ。まあ、お前がそう言うてくれんなら、やっぱり思い過ごしでええんかのお」
「なんじゃお前、揶揄いよるんやのうて、本気で疑いよったんか」
「…おう」
「お前アホと違うか! そんな下らん話されてみい、酒がクソ不味うなるわ!」
「良かったわあ。ほな、酒飲みながらもっと面白い話聞かせたるわ」
「もうええわ」
その時だった。
ぐるるるる、うぉうぉうぉうぉうぉー。
確かにそう聞こえた。銀一は野犬でも吠えているのかと思ったが、それは犬の声ではなく、こちらに向かって吠えたてる男性二人の威嚇の声であった。正確に言えば威嚇ですらない。俗に言う『おちょくり』である。
見ると銀一と志摩の前方二十メートル程向こうに、ガタイの良い男性のシルエットが二つ並んで立っていた。街灯と街灯の間に立っている為、ヘソから上は影になって見えない。脇道などの細い路地を除けば、彼らが相対している道はまっすぐな一本道である。このまま歩けばぶつかり合う事は避けられない。
志摩が立ち止まり、首をぐいと前に伸ばして目を細める。
「誰や?」
銀一がその横に立って、ああ、と零した。
「誰?」
もう一度志摩が聞くと、銀一は答えず、眉間に皺を寄せた。何度も見た事のあるシルエットだった。
「おー、おっほほほ。なんじゃー、その組合わせー。反則やぞぉ、志摩ー!」
シルエットの内、片方どちらかが強くそう言い放った。到底堅気には聞こえない獰猛な声だった。その言葉を合図と受け取ったのか、二つのシルエットの内、左側の男が銀一達に向かって歩き出した。街灯の照らす輪に入り、すぐに顔が見えた。
銀一が舌打ちする。
「こんばんわあ、銀一くん。久しぶりやねえ」
「おお、ケンジ。東京違うんけ」
「今はちゃうのう」
「相変わらず、おかしな眉毛しとんの」
「殺すぞグラァ!!」
ケンジと呼ばれた男が猛烈な勢いで走り出した。
暴虐の喧嘩師、ナシケンこと黛ケンジである。という事は、もう一つのシルエットは必然的にハラハラこと花原ユウジである。
「うわ、来たあ」
志摩がそう呟いた時には、ケンジは既に銀一達の目の前まで迫っていた。
無言で剛腕が振り回される。
「なんで俺!」
そう叫んで志摩が飛び退った。
ケンジは銀一には目もくれず、風を切り裂くような剛腕パンチと殺人キックを繰り出しながら志摩に襲い掛かる。銀一は条件反射で上体を反らせてケンジの拳をかわしたが、自分を素通りして志摩に猛攻を仕掛けるケンジの背中を、茫然と見送った。
ケンジの放った左足のフェイントキックを、志摩が自身の左側へ避けてかわした。その瞬間ケンジの右フックが志摩の左腕を捉えた。ドフッと鈍い音がして志摩の体が浮いた。ケンジの使いこまれた巨大な拳が、志摩の体に叩き込まれるのが銀一にも見えた。志摩は苦痛に顔を歪ませたが、次の瞬間ギロリとケンジを睨み返した。
銀一はワケが分からずただ二人の攻防を見守っている。今の所、ユウジがこちらへやって来る気配はない。
ケンジはおそらくユウジと並んで、銀一の知る中でも喧嘩の腕前なら当代随一だと思っている。幼馴染の竜雄、春雄、和明も同じく喧嘩となれば無類の強さを誇るが、人間相手に殴る蹴るを生業にしているケンジ、ユウジとは比べるわけにはいくまい。この二人はもちろん刃物や飛び道具を持たせても怖い。しかし一番怖いのは素手の喧嘩である。ためらいなく人を殺しに行ける男の拳は、ある程度距離を保って繰り出される武器による攻撃とは比較ならない怖さがあるのだ。
だが、そんなケンジを前にしても全く怯まない志摩が、今は銀一の気を引いた。銀一は、先日も垣間見た志摩の本性を思い出していた。刑事である榮倉を睨みつけたあの目だ。底が見えない男とは、恐らくこういう志摩みたいな人間の事だろうなと、台風のような喧嘩を間近で観察しながら、銀一は思っていた。しかし、
「見とらんで、助けろ!銀一!」
そう叫んだ志摩の顔は、普段通りだ。
「無理言うな」
銀一が答えるのと、ケンジの左手が志摩の服の襟を捕まえるのは同時だった。やばい、と銀一が思った瞬間、ケンジの膝が志摩の鳩尾に向かって跳ね上がった。
「んんん、ぐはああ」
と嗚咽のような声を漏らす志摩だが、実際は膝蹴りを食らってはいない。寸前で自分の右腕を挟み込んでガードしたのだが、しかしまともに膝蹴りの威力をその身に受けて苦悶の顔を浮かべている。あのタイミングでよう防いだな、と銀一は思う。常人なら間違いなく食らっている。その証拠に、ケンジの猛攻が一瞬止まった。
その隙をついて、志摩が左肘をケンジの顔面に向かってぶん回した。ケンジはそれを、あえて額で受け止めた。
「やるやんけ、クソチンピラ」と嗤うケンジ。
「お前らどういうつもりや。お前らうちの仕事で飯食うてるんと違うんか。人違いではすまさんぞボケ!」
眉間に縦皺を刻んで凄む志摩に、ケンジは長い舌をビラビラと出して見せた。
「これも仕事ですねん、ワレェ」
「どういう意味じゃ!」
「後で教えたるやないかぁ。今は取り合えず…」
ケンジの両腕が志摩の肩をがっしりと掴んだ。
「死ね!!」
もはや岩塊にしか見えないケンジの頭突きが志摩の額にめり込んだ。志摩は派手に頭部を仰け反らせたが、ケンジが掴んでいるせいで後ろに倒れる事も出来ない。
「もう一発いこか」
振り被ったケンジの額に、銀一が手を置いた。
「もうええやろ、逝っとるがな」
見れば志摩は完全に白目を剥いて失神している。
ケンジは銀一の手の下からジロリと睨み上げ、
「何、銀一君、ワシらの仕事邪魔するん?」
と不服そうな声を上げる。例えお前でも殺すぞ、と言わんばかりである。
「相変わらずお前の喧嘩は容赦ないな。酒が不味なるから、これ以上はやめたれ」
「誰にもの言うてんねん」
「お前じゃ、ナシケン」
ケンジの口角がグニャリと歪む。
「嬉しいわ、銀一君。殺すで、ほんまに」
ケンジはそう言って志摩の体を前方に突き飛ばした。「お前」そう言いながら銀一の方へ体を向けたその時だった。
「うおおりゃ!」
怪気炎を上げながら、志摩が上段回し蹴りをケンジの首に叩き込む。しかしそこは百戦錬磨の喧嘩師である。間一髪で右腕を折りたたんでガードする。だがケンジのそれは本能的な条件反射であり、明らかに意表を突かれて驚いている顔だった。
銀一も驚いた。あの白目を剥いた失神が演技ならば天才的である。だがもしこの短時間で復活したのなら、志摩も化け物だ。
「お前絶対生かして帰さんぞボケ! 何が仕事じゃ、街の喧嘩屋風情がこの…」
ケンジを指差し啖呵を切ろうとした志摩の体が、真横から飛んできたユウジのドロップキックによって吹き飛んだ。ゴロゴロと勢いよく地面に転がった志摩は、そのまま仰向けになって動かなかくなった。
「おお、ユウジ、遅かったやん」
ケンジが笑ってそう言うと、ユウジは鼻で笑って道路脇に唾を吐いた。
並んで立つ喧嘩師二人の威圧感は、間近で見ると凄まじいものがある。さしもの銀一ですら、そんな思いに冷や汗が背中を伝った。どちらか一人なら、刺し違える事は可能だろう。しかし二人が相手なら、一方的にやられる。そういう認識だった。
二人とも身長だけなら銀一と大差ない。しかし労働で鍛え抜かれた銀一の筋肉とも違う、禍々しい力がケンジとユウジには充満していた。この男達の体内にある力は、筋肉や骨格の強さから来るのではない。人を殴る。人を蹴る。その瞬間に得る強烈な反動を糧に、全ての部位が鍛え上げられている。人の血を吸った刀のような、切れ味や造形美では説明できない妖しさに似た雰囲気が、ケンジとユウジには纏わりついていた。
ユウジはしばらくの間、動かない志摩の体を見下ろしていた。今度こそ完全に失神していると分かると、ユウジは一言、
「ひこか」
と言って銀一に背中を向けた。行こか、である。何の説明もなしに立ち去るつもりらしい。
「なんか言う事あるやろ」
銀一がそう声を掛けると、ユウジは立ち止まって顔だけを振り向かせて、
「なひ」
と答えた。ケンジはユウジの横に立つと、銀一に向かって右拳を握って見せた。
「銀一君、命拾いしたなあ」
「阿保抜かせ。お前ら、時和会とは縁切ったって事なんか?」
「さて、どうじゃろうなあ」
はぐらかすというより初めから本当の事を言うつもりのないケンジの口調に、銀一は思わずため息を漏らした。
ここの所ずっと、ワケの分からない事だらけである。
真面目に働き、美味い酒を飲む。昔から見知った人間しかいないこの街で、なんでそんな簡単な事がままならんのじゃ。
平助は父親に刺され、難波は無惨な死を迎えた。志摩は泡を吹いて地べたに転がり、ケンジもユウジもワケが分からない。
なんなのだ、一体。
「お前ら、…ええ加減にせえよ」
銀一の言葉に、ユウジが少しだけ目を見開いた。
「おおおお、ええやんけえ、銀一君。久々にやるかあ、ワシらとお」
ケンジが体を低くして、身構えた。
「ワシらとやり合うんなら、と場帰ってハンマー持ってこな」
ユウジが半笑いでそう挑発すると、銀一は吸い込んだ息を、吐き出さずに止めた。
「何言うてるか全然分からんぞハラハラぁ。奥歯も全部へし折ったるから黙って掛かって来い!」
「あああぁ!?」
ユウジが体を反転させて凶暴な唸り声を上げた。
耳をつんざくようなトラックのクラクションに、三人の気勢は削がれた。ケンジとユウジの背後に、池脇竜雄の運転するトラックが迫っていた。大きなヘッドライトが煌々と三人を照らし、オイルが切れたような金属音をきしませて、トラックが停止する。
エンジンをかけたまま、運転席から竜雄が降り立った。
竜雄にしてみれば、旧知の三人が道路に突っ立っているだけである。それ以上の事を彼は知りようがない。
眩しそうに手を翳しながらトラックを睨んでいるケンジとユウジの前に立ち、竜雄が言った。
「普通に邪魔や!」
ケンジとユウジは顔を見合わせ、
「そら、そうやな」
と言って頷いた。
興覚めした喧嘩師二人は、銀一に向かって一瞬殴りかかる真似をし、そのまま笑って歩き去った。
銀一は消化不良の苛立ちを抱えたままだったが、何も事情を知らない竜雄の心配そうな顔を見て、やがて落ち着きを取り戻した。
「久々に乗せてくれよ」
と銀一が言うと、竜雄は地面に転がる志摩を指さし、
「あれは?」
と言った。
「あれも」
と銀一は答え、「あれは荷台で」と付け足した。




