ガイアザウルス
「ここは・・・・・・」
目が覚めた時、耕助は布団の上で眠っていた。
「大丈夫ですか?」
耕助を心配そうにのぞき込んでいたのは、夢の中と同じ姿、だが耕助が知る美咲である。
「あ、ああ。」
「洞窟の中で気絶していたんですよ。」
「そうか。」
気絶していた間に、あの夢を見たらしい。
「すまん。」
「どうして謝るんですか?」
「依頼を果たせなかった。」
「いえ・・・そもそも無理があったんです。」
「どうして、助けに来たんだ?」
「一日経っても戻って来ないんで、私も洞窟に入ったんです。」
「よく来れたな。」
耕助の、大人の男性の足で五時間以上は歩き続けた場所に、一六才の少女はどうやってきたのだろうか?
「一時間ぐらいでしたしね。帰りはきつかったですけど。」
「一時間?」
「はい。」
耕助が軟弱なのか、それとも美咲が健脚なのか。
それともひょっとしたら、あの歩き続けたのは試練という奴なのだろうか?
「そう言えば、これなんなのですか?ずっと握ってましたけど。」
美咲の手に握らていたのは、見覚えのない物だ。
オカリナに似ており、動物の牙のような形をしている。
表に六つ、裏に二つの穴が開いており、側面にも一つだけ穴が開いていた。
「・・・・・・夢の中で美咲の姿をした大地の神とやらに会った。」
「大地の神に?」
「本人はそう名乗ってたな。」
「そこで力を貸してほしいと頼んだ。」
「それで?」
「断られた。」
「そう・・・・・・ですか。」
「その笛は俺のじゃない。」
「え?」
「依頼の品だ。」
根拠はないが、確信があった。
◇◇◇
耕助が目覚めたのは、夜の一二時過ぎだったらしい。
美咲の家の人達も眠りにつき、里の外にも人の気配はない。
「行きますよ。」
「いや、何でだよ。」
美咲に大地の神が預けてくれたのであろう品を見せると、美咲がすぐにでも出発したいと言ってきた。
「依頼をしてきたのは里長だし、そこに報告してから」
「どうせまた反対されます。」
美咲はすっかり人間不信になったようだ。
耕助としては、里長に報告をしないと依頼料を受け取れないので報告したい。
「お願いします。」
「はあ。」
「ダメですか?」
なんだかんだと美咲に押され気味なのは、気のせいではないだろう。
「見つかったら厄介だ。さっさと行くぞ。」
美咲がいなければ戻ってくるのは難しかった。だとしたら、この依頼は一人ではこなせなかったという事だ。
二人で達成したのなら、この笛の取り扱いは、美咲の意思も尊重するべきだろう。
「はい!」
美咲の笑顔は、見慣れた輝きを放っていた。
◇◇◇
「なんかドキドキしますね。」
山道を下りながら、美咲がそう言った。
「そうだな。下手したら犯罪だからな。」
「そういう事じゃないですよ!」
未成年略取。犯罪の中でも最悪と言って差しさわりの無い犯罪の一つだろう。
「なんか映画みたいじゃないですか。」
「・・・・・・そうだな。」
閉鎖的な里で、現地の人達に襲われ、逃げ出す。
確かに映画のようだ。
「この笛ってどう使うんだ?」
「え?」
「へ?」
耕助が話題を変えようとした話題で、美咲がぽかんとした表情をした。
「知らないんですか?」
「知らん。」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
どうやら大地の神からもらった笛の使い方を知っている者は、この場には誰もいないようだ。
「いえ、いざとなれば大地の神の神託があるはずです。」
「大丈夫か?」
「・・・・・・信仰は信じる心が大切ですから。」
不安な単語が飛び出した。
◇◇◇
夜が明け、朝日を昇るころ、我が家は見慣れた土地へと腰を下ろした。
「って、メガントに占拠された町に行くんじゃないんですか?」
「行きたいのは山々だが、近づく事も出来ないぞ。」
カーナビをテレビに切り替えて、ニュースを映す。
今やテレビはメガントの事ばかり。
「作戦失敗したんですね。」
「成功してたら、取り越し苦労で済んだんだけどな。」
自衛隊が計画していた作戦は失敗。
付近は規制が敷かれ、近づく事も出来ないらしい。
「ギガント?」
「メガントのデカい奴らしい。」
そして耕助が洞窟に行っている間に、新しい敵が現れた。
その名もギガント、メガントよりも数が少ないらしいが、大型で十メートルもあるらしい。
「ギガントには戦車も通用しないそうだ。」
「てことはやっぱり急いだ方が良いんじゃないですか?」
「ああ、それはそうなんだが・・・・・・」
耕助が迷っている理由は主に二つ。
一つは、大地の神の力に起因する笛、その使い方が分からないという事。
二つ目は、大地の神の力の性質が不明である事だ。
「そこで一つ提案がある。」
「提案?」
「ああ、寝てみないか?」
「え?」
美咲が呆気にとられた顔をした。
「えっと、それはどういう意味ですか?」
美咲は困惑している。
「言葉通りの意味だよ。大地の神と接触出来るのは夢の中だけなんだろう?」
「ああ、そういう意味ですか。」
美咲はホッとした表情を浮かべた。
「ですが難しいと思います。」
「なんで?」
「大地の神と夢で会うためには、向こうから接触してもらう必要があるんです。こちらの用事で呼び出す事は出来ません。」
「不便だな。」
「相手は神様ですから。」
確かにその通りなのかも知れないが、不便なものは不便である。
「こっちから連絡する方法はないのか?」
「連絡って・・・・・・占いぐらいは出来ますけど。」
「ほう。」
「ですけど、これも神様が送ってくれていたメッセージを受け取る事しか出来ません。」
「結構自分勝手なんだな。」
「相手は神様ですってば。」
だが助けろと要求を出し、その願いを叶えるために動き回っている美咲や、その手伝いをしている耕助から見れば、連絡方法すらない相手は迷惑この上ない。
どうしたものかと話し合っていると、ランド号の扉がドンドンと叩かれた。
「はい。」
ランド号の扉を開けると、そこにいたのは見覚えのある顔だった。
「お前ら、何してるんだ?」
女刑事、進藤刑事である。
「何って家に籠ってるんだよ。」
「・・・・・・まあいい。ここは避難区域に入っている。さっさと避難しろ。」
何た言いたげだったが、本来の用事を思い出したように進藤刑事はそう言った。
「避難区域?」
「蟻共の住処に近いからな。近隣は全て避難区域に入った。早く非難しろ。」
「避難って言われてもな。」
「良いから早く」
進藤刑事が何かを言い終わるよりも早く、その姿が耕助の目に入った。
「後ろ!」
「え?」
進藤刑事の顔が固定された。
「がっ・・・・・・あ・・・・・・」
その足は、その体を貫いた。
「進藤!」
女刑事は口から血を吐くと、ガクッと首を下へと向けた。
「進藤さん!」
美咲の声が虚しく響く。
「てんめえ!」
耕助は怒りと共に犯人・・・いや進藤を殺したメガントを睨みつけた。
「そんな・・・・・・」
知り合いの死。これは劇的な物ではない。
話を聞きに行った大学生の友人、牧場の牛達、それと同じく人が殺され、それが知り合いだったというだけ。
それでも胸の中に響くのは、悲しみであり、そして怒りである。
メガントは進藤を荷物を置くように置くと、次のターゲットへと向けて歩き出した。
「美咲!逃げろ!」
耕助はメガントの腕に捕まる。
「でも」
「早く!」
耕助の怒声に美咲も急いで耕助を挟んで、メガントの脇を抜けていく。
「ぐわっ」
美咲が抜けて間もなく、メガントの腕がでたらめに振るわれた。
人を貫く力に耐えられるわけもなく、耕助はあっさりと吹き飛ばされる。
そして倒れた耕助へと向けてメガントが歩き出した。
「うっ・・・・・・」
どうすればいいのか、美咲はそれを考える。
気功を放つ、それで気を反らす事ぐらいは出来るはずだ。
そう思ってから、耕助から受け取ったものを思い出した。
「・・・・・・・・・」
使い方もわからぬ笛。美咲はその笛を手にした。
◇◇◇
笛に息を吹き込む。
どんな音が鳴るのかもわからぬ笛に。
だが、それは当然なのだではないだろうか?
人に何かを話しかける時、人に何かを頼む時、いつも迷って言葉を選ぶ。
間違える時もある。失敗する時もある。それでも
◇◇◇
耕助の耳に笛の音が聞こえた時、耕助はメガントを相手に必死になった逃げ惑っていた。
そして、その音が聞こえた瞬間、世界が一転した。
「なにっ?」
メガントも動きを止めて、ソレの出現を見守っている。
辺りが夜になったのかと思うほど暗くなると、ソレの巨大な脚がメガントを潰し、その余波で耕助も吹き飛ばされた。
「大丈夫ですか!?」
そんな耕助に美咲が駆け寄ってくる。
「あ、ああ。だけど、これは・・・・・・」
山ほどもありそうな巨大な姿、メガントを軽く踏み潰す巨大な脚が支えるのは、巨大な胴体と長い首、そして長い尻尾。
「ブラキオサウルス?」
いや、自分達がいる国を考えれば、タンバリュウだろうか?
少なくとも現代の自然の中にあるはずのない姿をしていた。
◇◇◇
巨大な恐竜はメガントを倒すと、ドシンドシンと歩き始めた。
「どこに向かってるんでしょう?」
「メガント達に占拠された町の方だな。」
警察に連絡をし、動かぬ進藤刑事を迎えに来てもらうように頼んだ後、耕助と美咲はランド号で巨大恐竜の後を追っている。
他の人が見たら、蟻も恐竜も大した差はあるまい。いざという時は、耕助達が事情を説明するつもりだ。
「あの笛の使い方分かったんだな。」
「いえ、適当に吹いてみたんです。」
「・・・・・・あの非常時に適当に笛を吹いたのか。」
なんだか納得のいかないものを耕助は胸に抱きながらも、美咲の行動には感謝する必要がある。
「ありがとさん。」
「いえ、助けてくれたのはあの子ですから。」
巨大恐竜はこちらの会話など聞こえてはいないだろう。ドスンドスンと歩きながら、メガント達の町へと向かって歩き続けている。
「それでもさ。」
「・・・・・・はい。」
耕助の言葉を今度は素直に受け取った。
「なんだあれ?」
歩き続ける巨大恐竜の前に、巨大な蟻、メガントよりもさらに巨大な。ビル並みの大きさのあ蟻が現れた。
「あれがギガントか!」
巨大恐竜をターゲットにするように襲い掛かってきたギガントだが、巨大恐竜の巨躯の前伊にはギガントすら、ただの蟻にしか見えない。
巨大な頭を振ってギガントを吹き飛ばし、粉々にした。
「・・・・・・すごいな。」
「さすが大地の神の力です。」
あのギガントの前には、戦車すら太刀打ちできなかったと言われているのに、それを一撃、それもロクに相手にすらしていない。
そのまま巨大恐竜はメガントの町に向かって歩き続けた。




