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いつもの場所で

 最近お世話になっているファミレスにやってきた。

 なにも言ってないのに、いつもの奥の席に通される。条件反射みたいなものなのかもしれない。

 いつもの席に、いつものように座り、いつものコーヒーを注文する。

 待っている間は無言。彼女は一回、トイレで席を立っていた。

「あの」

「あの」

 僕とみさきさんの声がシンクロする。

「どうぞ、先に喋ってください」

 僕が先に促す。

「いいえ、どうぞ」

 みさきさんも僕に譲る。

「どうぞ、どうぞ」となっては話が進まないので、僕が先に話をすることにする。

「あのさ、彼はいつもあんな感じなの?」

 あえて名前は出さない。名前を出す方が失礼だと思う。

「あー、彼はいつもあんな感じですね。残念ですよね。しかも、自分の好みの女性が来ると前のめりになるんですよね。セクハラ親父みたいですよね、あれだと。ホントに残念な人ですよね」

「ホントに」というところにものすごいアクセントが置いてあってどれくらい嫌気がさしているのかがわかった。でも、それはどこか長年連れ添った夫婦のようなニュアンスもあった。「仲が良さそうですね」とは言いたかったが、言わない方がいいと思って言葉を呑んだ。

「僕が確認したかったのは、それだけです。同性だけど見ていて恥ずかしくなっちゃって」

「なんかわかります。私は見ていられないですけど」

 涙を浮かべていた。

「女ったらしって初めて見た気がする。本当にあれだね、好きなんだろうね」

「ですね」

 彼女はコーヒーのカップを眺めていた。

「んで、君の方は何が訊きたいんだい?」

「あっ? えー、なんか、ミズキさんとか黒崎さんと仲良いなって思えて」

「それって、嫉妬?」

「なに言ってるんですか! 友達なんですから、そんなことないじゃないですか!」

 みさきさんは相当動揺しているようで、言い訳をしている時の声は店内に響き渡るような大きな声だった。一緒にいる僕が少し恥ずかしい思いをした。

「すいません。でも、本当に仲良いなと思って」

「そうかな? あー、付き合いが長いからじゃないかな?」

「なるほど」

 みさきさんは腕を組んで考え始めた。なにを考えているのかはもちろんわからない。まさか、まさかとは思うけど、立場が逆転するのかもしれない。追う立場から、追われる立場に。

 それはそれで罪を作ってしまって悪いような気がする。

「一旦、稽古場戻りませんか? 荷物置きっ放しだし。新しい子がどれくらいうまいのか見たいし。」

「あっ、私も気になるので、戻ります」

 時計を見ると入店してから一時間ちょっと経っていた。

 今日はクーポン券を使って安く済ませた。もちろん、黒崎先輩にもらったものだ。

 黒崎先輩様様だ。

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