92.
農場の扉の前まで引きずられていた俺ではあったが、やがて・・・というか、そんな距離はないが、逃げるそぶりを出さなくなると、マリウスも観念して運動を始めるのかと思ったのか、自分の足で立たせてもらった・・・さて、自分の個室に逃げよう!!なんてことをすれば、今さっきより数倍の速さで無意味にダンジョンコアの部屋の地面で引きずられて背中が酷いことになるだろうなんてことは簡単に想像ができたので、普通に立って、農場へと続く扉を開けた。
すると・・・そこには・・・いつも通りの光景が・・・広がって・・・そういえば、俺が前に来たときはいつだっただろうか・・・日向ごっこをなぜかしたくなった時ぐらいだろうか?
畑とそれを耕す農家ゴブリン、そしてそれを手伝う農家人形と、その素材を見極めている料理人形。
そして、それより遠くに見える小屋とドンドンと何かと打ち合っているであろう音、それに・・・普通な俺がそこまで詳細に見えるはずもなく、ただ・・・あれ?こんなの前にあったっけな?という感じで前が詰まっていて、俺の後ろにいるマリウスへと視線を送る。
「・・・早く先行ってくれませんか?」
そうなんで?そんなところで止まっているんですか?農場にも最近来なかったので、疑似太陽の光で目がやられたりしたんですか?マスターなんてことを言いだしそうな目と表情で早く入れということを訴えていた。
「・・・はい」
普通になにか後ろから蹴ってこられても・・・嫌だからな・・・痛みなくして、この場を切り抜けるほうがこの変わりようを聞くのよりも先決だった。どうせ・・・あそこらへんに行くんだろう?と少し距離があるからその間にあれについて聞けばいいと俺はマリウスのあとをついていった。
「じゃあ・・・鍬もって、ここらへん耕しましょうか?」
そんなことを考えて進んでいた時に、そう声をかけられた。
そして、手渡されたのは鉄製の鍬。
「へ?」
ん?ん?
ん???
あれ?マリウス鍬なんて持って移動してたっけ?
「何呆けた顔をしているんですか、早くしましょう」
そう言いながら、俺が耕すのを今か今かと横で待っている。
「え・・・ちょっと待って・・・いや、待ってください」
「なんですか?」
そんなことを言うと、マリウスは訝しんだ様子でこちらの様子を見る。
その様子からこの状況から俺が逃げ出さないかを見ているような気がする。いや、きっと逃げ出せないようにしているから、結局は逃げても無駄なのかもしれないが・・・。
「なぜに農業?」
「なんですか?鍛えるってどんなことを期待してたんですか・・・」
「いや・・・あの、あっちなほうでなんかやってるようなこと?」
何か音がしている方向を指さす。
「あぁ・・・イオルがやってることですか?ケガしたいですか?」
そう納得した後に、そう笑顔で聞いてきた。
「全然、楽して強くなりたい」
誰だって怪我なんてしたくない。ゲームやってた人間がいきなり鍛えようなんていっても・・・そりゃね・・・ホムンクルスで観光できるくらいの力がね・・・欲しいだけなんだよね。うん。
「凄い正直に言いましたね・・・」
そうそんな答えが返ってくるだろうと予想していたのか・・・少しは呆れているか、どうせこんなようなことを言うんだろうと思っていたのか、それほど落胆はしていなかった。・・・いや、落胆するほど期待していなかったともいえるか・・・・
「えへへへ」
誉められたと思ったと思っておこう、その返事に愛想笑いを返した。
「苦労して強くなってくださいね」
「・・・おうふ」
そう無慈悲におろされる死刑宣告。楽に強くなるための方法がないのか!!!
「そんなことを口に出して言わないでください、ないですよ、苦労しなさい」
口に出していたのか・・・楽に強くなる方法か・・・
「パワーレベリング・・・寄生・・・なんか強い道具・・・銃・・・」
そんなことをグダグダと言っていたら、マリウスに軽く叩かれた。
「グダグダそんなことを言わないで耕してくださいよ?自分が鍛える!と言ったんでしょう?そういうのを反故にするのは良くないことだと思いますよ?」
仁王立ちでこちらの様子を監視、いや・・・眺めている。
「うぐっ・・・言ったけどさ・・・想像してたのと違う・・・」
「何をやるにもマスターじゃ体力がなさすぎるのが原因ですから、呪うとしたら己自身を呪って頑張ってくださいね」
グダグダ言ってたって仕方がない!!そんなことを長時間やっていたらいつかは鉄拳が飛んでくるかもしれないしな・・・やるか・・・はぁ・・・