89.
「なんで止まらないんだろうね。進み続けないと死んじゃう生き物なのかな・・・人間ってやつは・・・」
「・・・」
「・・・俺・・・あっちいってくる、マリウスさん」
イオルは食事が終わると、食器を片付けに行き、戻ってきた時に今の発言が聞こえていたのか、俺のほうを無言で見つめた後に、マリウスのほうへと視線を移したのだが、ため息をしているのを見ると・・・自分の部屋になっている場所へと行くのをマリウスへと伝えて、この場を後にした。
「で・・・何があったんですか?」
マリウスのほうも食事が終わって、片付けた後にこちらのほうに向かってきた。画面をちらりと見た様子では俺が何を言ったのか理解できていない様子だった。
「暗くて、森の中なのになんで移動し続けるんだろうなってね」
「あぁ・・・そういうことですか・・・」
「木の上とかで休まないのかな?」
ふとした疑問を口に出してみる。そういうのってあるじゃない?
「ん・・・まずそういう道具がないってことと、騎士の人は防具がある状態であのあたりの木のところに登るだけでもかなり危険ですしね。それに木の上で本当に休める人間なんて極一部の人ですよ。木の上ってのも、それはそれで危険ですよ。それに今現在襲っていないスパイダーはほぼ木の上で生活してますからね」
「ん???そうだっけ?」
そういえば・・・瘴鳥をとるために木の上に糸張り巡らして・・・巣立つところを絡めとっていたな・・・。
「・・・ダンジョンマスターなんですから、把握してください」
呆れたようにこちらを見ている。
「魔物表示にするとさ・・・マップ真っ赤になるんだよね・・・原因は分かってるんだけど・・・だから、もう見なくてもいいかなってね・・・俺はそう思ったんだ」
おもに地中にいるやつが原因。だが、後悔はしていない・・・こんなにも美しい森ができたんだから・・・・だから・・・だから・・・いや、ろくに管理もしていない雑多な森だね、うん。
「・・・・・・はぁ、個別に表示してください」
「いや、するときもあるけどさ・・・上下の違いなんて分からないやん?だから、ここにこの魔物がいるなんてことを知ってもさ・・・正直自分の有利なところから相手のところに行くより、出待ちで罠を張っているところなほうがいいと思うんだよね!!!」
スパイダーが登っていたことなんて知らなかったけどね。いや・・・忘れていただけか、うん。
「そうですね・・・スパイダーの影なんてのは森の木の影に隠れて見つけるというのも困難ですし、視認で見つけるためにもある程度の高さに登らないと葉っぱや枝が邪魔で見にくい・・・それにそれのおかげで糸も見にくいですね・・・その糸の上を移動するスパイダーはほぼ音を出さないので、音による発見も困難ですね・・・餌は無理に取らなくても魔法陣から召喚される瘴鳥がかかりますし・・・」
そう顎に手を添え、思案した後に、こちらに笑顔を向けて、こう問いかけた。
「本音は??」
「・・・管理面倒くさい。自然でいいやん。生存競争。弱肉強食。大いに結構!・・・瘴鳥の虐殺以外・・・」
先延ばしにしても、どうせ追い詰めるだけなんだ。ならば、もう言っちゃってもいいじゃない・・・面倒だもの・・・。
「前に言った2つが今の最後の言葉で依怙贔屓が完全ありますけど」
「だって・・・出待ちされて速攻死ぬあの2つより容姿が可愛い瘴鳥が死ぬの可哀想やん・・・」
頑張って・・・頑張って、少しは生きながらえるようにせっかく設定を頑張っていたのに、淘汰されるなんて、理不尽だ~!!戦力的には頼りないかもしれない・・・いいや、言おう。戦力なんて気にしていないと!!!癒しです。幻花と瘴鳥は!!Gとスパイダーの徘徊する階層を見続けるためのオアシスです。自分でもなんでこんなのをあの時この階層の基本モブみたいにしたんだろうな・・・ハハハ。
「見続けて居れば、愛嬌のある目で愛情が沸くかもしれませんよ?」
「・・・今はまだ・・・俺にあいつらに愛情が芽生えることはない!」
俺にはまだ早すぎるんだ、それは・・・。
「はいはい、そうですか、あの2つの魔物もこちらのダンジョンに生きる魔物なんですからね。ある程度は抑えてくださいね」
「そこまで嫌いだからって何かするつもりはないさ~」
「そこは信頼しますよ・・・あ、こちらの3人組の先頭が変わりましたね・・・移動先がこのままいけば、テントのほうですけど・・・どうしますか?」
「そろそろ・・・こっちから指示も出すか・・・G以外の戦力的な調査もしなきゃだし、これがどこまで通用するか・・・」
そう手首を真上にあげて、首をポリポリと鳴らして、軽く上半身を捻りながら、ダンジョンコアを操作する。
可愛いだけでは生き残れないのだよ。その可愛さを生かす狡猾さがなければ、この世界では淘汰されるのだよ、フハハハハハ
冒険者に頼れば死ぬ。味方のスパイダーとGと怒熊からは餌。幻花と邪木、トレントさんは中立。
はたして・・・瘴鳥はこの先・・・生き残れるのか。
誰も信用できない
信じられるのは己の鍛え抜かれた翼のみ。
今ここに
生死を懸けたリアルオニゴッコが始まる。