82.領主視点。
トントントントン
「入ってよいぞ」
そして、領主部屋に入ってきたのはハロルドだった。
「失礼いたします、領主様」
ドアを開け、一礼すると・・・領主の座っている机の前までやってきた。
「なんだ・・・家令か・・・要件は何だ?」
ガロンは新しくダンジョンが発見されたこと。その周辺に新しく村と呼べるものを作ったこと。ダンジョンから産出された魔鉄や魔銀のこと。それを加工するための者を呼ぶための報告。それを嗅ぎつけた商人たちの面通しの日程とその商人の名前と取り扱っている商品。酒などの嗜好品の領内での生産。冒険者が徐々に増えていることとそれの犯罪と領民からの陳情の各地での報告。
ダンジョンの村ができてから、魔鉄が冒険者に持ち込まれるようになって・・・それがゆっくりではあるが、確実に領主の仕事へと蝕んでいった。
とにかく・・・毎日毎日下から届けられるそれらの書類に目を通し、それがよいかどうかを判断し、最終的に領主であるガロンが認可する署名をしても・・・次の日になればまた書類は上がってくる。
そんな忙しい中でも、なんでこんなのがあがってきたんだと・・・いうような案件もある。目を通さずに認可の署名なんてしたらたまったもんじゃないのが・・・
そんな油断ならない書類と格闘する日々をガロンは送っていた。
「最近ダンジョンが変動したらしくその報告書があがっていますが・・・」
「あぁ・・・そうか・・・」
家令の話を・・・書面に目を通しながら聞き流している。
「領主様忙しそうですね・・・」
それをみて、何かしらを思ったのか、そうハロルドは切り出した。
「・・・・はぁ」
そんなことを言われれば・・・自分の今の状況を自覚してしまい、自然とその口からはため息がこぼれてしまっていた。
「人の顔を見ながらため息なんて失礼ですね」
書面に目を通していたはずのガロンがこちらを向いたからと思えば、自分の顔を見ながらため息を吐くのだ・・・普通の部下なら領主様にこんなことを言わないだろうが・・・ハロルドはそれが言える立場であったからなのか、それとも幼いころから知っている中からなのか。この領主部屋という2人だけの空間においては、少し家令と領主という立場のふるまいから2人は解放されていた。
だが、その手には、その目の前にはその立場にふさわしい書類の山が2人を現実へと戻させる。
「お前・・・仕事は?」
いつも・・・自分より疲れていない家令に向かってそんな言葉が投げかけられた。
「部下に回しました」
その問いに唖然として、この書類の山を見ながら・・・
「俺の・・・仕事は?」
そう家令に問いかけた。
「部下に回せないお仕事です」
そう淡々と発言された。だが・・・待てよ、こいつは今は家令。屋敷の中で俺の次に権限を持っているはずだよな・・・
「お前の権限的にこれとか、これ・・・認可できるだろう?」
そんな考えが今更ながらに巡り・・・自分の手に持っていた書類や、まだ目を通していない書類などに目を通していくと・・・ある程度の権限は必要な人間の認可が必要だが、俺では領主ではなくても認可を出せそうなものがあった。
「・・・」
「・・・」
2人は無言でにらみ合っている。片方はバレたという表情を一切出さず何を考えているか一切分からない表情で、片方は『おい、お前もこの仕事手伝えよ?あぁ!?』などいう表情をしていた。
「・・・」
「・・・おい」
先にその無言を破ったのは領主のほうであった。
「・・・」
「できるよな?」
軽く目を通して、家令でも、できそうなものを渡そうと紙束を家令の前へと『受け取って、お前がやれ』という強い意志が感じられた。
「さて・・・私はこれからメイドや執事の仕事を見て回らなければいけないので、失礼いたします、領主様」
そんなことをいうとおもむろに一礼をして、入ってきた時と同じドアから出ていった。
「おい!ちょおま・・・待て!!」
そう急いで、ドアを開けて、周囲を見渡してもハロルドの姿はどこにもなかった。
「・・・・・はぁ・・・・あいつを探すのを命令する時間が惜しいし・・・俺が探し回るのなんてそれこそ時間の無駄か・・・」
チリンチリン
そう領主部屋に備え付けられているベルを鳴らすと・・・間もなくしてメイドがやってきた。
「領主様、なんでございましょう」
「あぁ・・・そのだな」
のちのメイドはこの時の御領主様のその顔は何か悪いことを思いついた顔をしていたという。
~1時間後~
「娘を使って、私を呼ぶのは結構いかがなものかと」
横に急遽作られたであろう机に向かって、渋々といった感じで書類に目を通し、手を動かし、口を動かしているハロルドの姿がそこにはあった。
「口より先に手を動かせ、手を」
無言で書類から目を離し、同じく別の書類を処理している領主を無言で見て、無言で自分の押し付けられた仕事へと戻る。
「・・・」
「それよりダンジョンの報告書、お前が直接持ってきたんだから重要なんだろうな?」
すると、机の上に新しくのせられていた書類の束をハロルドのほうへと渡す。
「領主様の指示を確認するためですからね・・・私のではダメなものですね・・・その一覧」
そうして、書類の束をまた領主へと押し付ける。
「・・・・はぁ・・・・内容は把握しているんだろう、読むのは疲れるし、お前からの意見を交えていってくれ」
長時間書類と睨み合いをしていたのだ。そうなってしまっても仕方のないことだ。断ったらあとで何を娘に吹き込むのか分かったものでもないので、渋々と今見ていた書類をおき、その書類を見て読み始めた。
「はぁ・・・・簡単に言えばですね・・・森・魔物・困難・・・ですかね」
「わからん、もっと丁寧に・・・いや、お前なりに分かりやすく言え」
「森のフィールドですね、先遣隊がまず調査しに行ったみたいですが、味方が幻術を使う魔物に操られ同士討ちになったらしいですね。状況的に、それについては1人が顔面に多数の殴られた跡があったということですけど、いまだにそのパーティは解散していないので、幻術の時に何かしらをパーティメンバーにやらかした結果の私怨でしょうね。仲がこじれない程度の・・・このことからパーティ内に1人は魔法使いが必須ということですね、同士討ちを避けるためにも・・・それとあとは確認された魔物はGと木の魔物ということですけど、Dランクの魔石で木の魔物となると、邪木ですかね・・・トレントはもう一つしたの魔石ですしね・・・この魔物の分布から言えることもあるんですけど、それはまたあとで」
「・・・ふむ」
「森ということもあり木材もよくとれる場所になると思うんですけど、その輸送手段がないということですね・・・邪木だと思われるものも枝なんてのも魔力がこもっていていい杖の材料になるそうですけどね、・・・それで木材を輸送手段ですけど、勇者が持っているといわれるアイテムボックススキルや次元袋・・・それにダンジョンに稀にある転移装置なんてのがあれば別なんですけど、勇者がいても壊される可能性があるので遠慮したいですし、次元袋を持っている人が長期的にこんな任務を受けてくれるなんて夢のまた夢、現実的なのがダンジョンに偶然転移装置ができて楽に階層移動ができるようになることですね・・・まぁ、転移装置が発見されているのはどれも50階層以上のばかりですけどね。」
「・・・・・・・ふむ」
「森ということで広い。今後階層が増えていくのを期待して、ここに中継地点なんてのを作ろうということも考えられているんですけど、まず幻覚を使う魔物がいる中で普通の作業ができるかどうか、できたとしても魔物を防ぐためにある一定の結界を張れる魔法使いか、魔道具が必要です。階層がまた増えたときに崩壊、消失なんてのも考えられますし、それに最初のほうでいったように、ここに今は食べられる魔物の存在を確認できていない。できたとしても、定期的に資材のほかに食材を送る冒険者を依頼しなければいけません」
「・・・・・・・・・・・・・・・ふ、む」
「最初のが、騎士団から送られた騎士も展開できるだろうダンジョン内の任務として、木は耳の早い商会のほうから、最後のはギルドのほうから第二調査パーティを送るついでに送られてきた案件です」
長い溜息の後に、ガロンは口を開いた。
「・・・・・・はぁ・・・・・・・・・・お前から見てどれもダメということだな」
「そういうことですね、魔法使いを安全のために2人小隊に配置して大規模訓練なんて無理ですし、ダンジョンの森の中でやるなんて正気の沙汰じゃできませんね、騎士なんてほぼ確実に死にますよ、それに11階層からですからそこまでにどれだけ時間がかかるか、生きてはいるでしょうけどそこから装備次第ですが、森の訓練はほぼ無理でしょう・・・。次に木ですが・・・まぁ輸送の問題ですね、同じ階層ならともかく10階層を持ったままは・・・無理でしょうね。中継地点はまだ見送りですね、食べられる魔物がいるといいんですけど、いないなら長期的に拠点になり続けるのはそれなりの労力がかかりますからね、できるまでも、できてからも・・・継続的に・・・」
「ふむ・・・まぁ、お前の言ったことを参考にしながら、何を書くか、それで署名するからどうかを考えよう」
「分かりました。では、私はこれで・・・」
すっっと流れるように扉から出ていった。
「わかった・・・あいつの机のが未処理が終わっているな・・・ふぅー家令の権限をもっとあげて俺が楽できるように書類を流せるようにするか」
そんなことをつぶやきながら、書類を黙々と終わらせていく。
文字数が・・・・多い・・・次からは元通り短くなる~
24時間テレビがやってるらしいけど、ほぼ見てない・・・