76.
騎士視点。
「あぁ・・・」
ラガックがセラに向けてGを放り投げている場面を横目でキリックはそれを見ていたが・・・そのままヌーの足止めをしていた。
「セラ・・・大丈夫か・・・?」
あとで何か言われるか分かったもんじゃないと一応は声をかけてみるが・・・返事はない・・・
その俺が想像できる最悪の惨状を予想しながら、今のセラを余所見してそれが予想通りだった場合あとから・・・『なんでもっと早くどけなかったのか』という今俺はヌーと戦っていたという事実があろうがなかろうが、理不尽にも思える愚痴を延々と言われるだろう。いまは目の前のヌーの足止めのほうが重要な役割だ・・・うん、ラガックと合流されてアニスが2人同時の攻撃に持ちこたえられるとも思えないし、攻撃を受けた感じだとこちらを殺す気で攻撃してきているからな・・・まぁ・・・うん。なんとかするだろ、冒険者なんだ。自己責任だ。
「おい、ヌー正気に戻れよ!」
そうキリックが考えられるのは、アニスよりはキリックのほうがこの戦いで余裕があるからなのか。
ヌーにも声をかけてみるが、応じる様子はなく、ただ敵を見るような目でこちらを見ながら、槍を構えているだけだ。
「はぁ・・・俺じゃ解呪できないしな・・・」
解呪できるセラの返事もないし、呪文も・・・聞こえてくるな・・・気絶はしていないか安心だ。早くこっちに来てヌーの解呪をしてほしいものだと、そんな余裕を持ちながら、ヌーの攻撃を防いでいた。
もとより戦闘を積極的に行う職ではないヌーの足止めは素早い速さと多くの手数を持つラガックより楽だった。それに俺達があいつらを解呪する目的があって仲間を見捨てて逃げられないという状況は知らずに、あいつらにはこちらから逃亡するなどという選択もある。
人数的には勝っていたとしても、選択肢の幅が狭い、追い込まれているのはこちらなのかもしれないが・・・
「まぁ、仲間を元に戻す戦いってのも大事だよな・・・」
と小声でつぶやきながら、ある程度の距離を保ちながら、ヌーの相手をしていた。
槍を突き、払い・・・さすがに1対1をするより、援護をしていただけのヌーの攻撃を防ぎ、避けることはキリックにとっては簡単だった。
だが、そこから押さえこむにしても体格的にはヌーのほうが大きく、ポーターの荷物など持っていないヌーの存外に早く、単純な力で考えればキリックよりも強いだろう・・・セラの援護が来るまで、このままヌーが疲れる・・・いや、それはないか、援護が来るまで続けたままでもいいんじゃないかな・・思っていた。
実力差はあるが・・・武器を持っている状態では押さえこむは無理だが・・・ヌーが握りしめている槍を何回かやっているが弾き飛ばすのなんて無理だったし、槍を壊して攻撃手段を奪うのだって・・・槍だってタダじゃない。ある程度の費用がかかる、壊したら俺のほうにそれが請求されかねないし、壊したら壊したらでヌーがこちらがやりにくい素手で襲い掛かってくるかもしれない。
横目でラガックの方向をちらりと見るが・・・ラガックの悲鳴と地面が燃えてるだけで・・・・・・・・・・・・・・・はぁ・・・いつになったら俺のほうに援護が来るのだろうかと思わずにはいられなかった。
キリックさんは戦いながら、現実逃避を発動した。