73.
後ろのほうばかり気にして逃げていた・・・
だが、階段の方角に向かって逃げているときにテントのほうで3つのゴブリンを見つけてしまった。
いや・・・人と同じような背丈だったから、ホブゴブリンか。
持っている武器で見るに、騎士、魔法使い、剣士か・・・
俺だけならなんとか逃げ切れると思うが、ヌーは逃げ切ることは難しいだろう。だから、俺はここでヌーを見捨てる?・・・もう仲間三人を見捨てたような物なのに、ここでまた俺から仲間を奪う気か・・・そんなの許せるわけないだろ。
「ヌーさすがにこの足音でホブゴブリンどもに気づかれてる。しかも、あちらさんは戦闘する気満々だ・・・後ろの奴は追ってくる様子はないが、こっちはそうはいかないかもしれない・・・いや、そうはいかないだろう」
後ろの方にいる魔法使いのホブゴブリンはもう詠唱を開始させている。ゴブゴブ言っているその詠唱だったが、何かしらの攻撃呪文だろうとを予想しておく。
「・・・置いてけ、上に情報は必要だろう」
そういうヌーは槍を強く握りしめ、ここで自分より生き残れるであろうラガックが逃げるための足止めをするつもりのようだ。
ヌー・・・ここでそんな選択ができるわけがないじゃねぇか・・・仮に俺達が死んで全滅すれば、またパーティが送られてくる。たった1人俺だけ上に辿り着いて情報を伝えたとしても・・・報酬は元のパーティの人数分で有益な情報だ。いい価値になるだろう・・・だが、1人じゃダメなんだよ・・・もう5人から2人にはなってはいるがな・・・
ここで俺達が死ぬ気で頑張れば、2人で生き残れるかもしれない。その選択がある時点でもうそれは・・・答えは決まってたんだろう。
「・・・・ホブゴブリン程度なら2人いればいけるだろ・・・3対1より3対2だろ・・・」
いつもならだ・・・満足に休めていないし、こちらも万全の状態ではない。幸いホブゴブリンたちはテントのほうにある焚き火を消していないので、こちらからあちらの位置は丸分かりだ・・・まぁ、俺達もその明かりが照らされる範囲にいるから、こちらが闇に紛れても気づかれる可能性のほうが高くなってはいるがな。俺は今気づかれている状態でもホブゴブリン程度なら、色々すればまた闇に紛れられるかもしれないが、ヌーは無理だ。
「・・・そうか」
ただそう一言。ヌーは告げた。
そこに否定の意味や肯定の意味はなかった。ただその声は少し気のせいかもしれないが、嬉しそうに感じた。
視点がコロコロいれかわる。
だが、このラガックは片手に自分では矢が刺さった生首だと思っているものを持っています。